浜松医科大学医学部精神医学講座 山末 英典 教授

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期待集める初の治療薬 ASDの改善に挑む

【やますえ・ひでのり】 1998 横浜市立大学医学部卒業 東京都立松沢病院精神科臨床研修医 2000 東京大学医学部附属病院精神神経科医員 2006 同大学院医学系研究科博士課程修了 2009 同准教授(精神医学) 2016 浜松医科大学医学部精神医学講座教授

 自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状は社会性やコミュニケーションの障害。治療法は確立されていない。症状を改善する初の治療薬として期待される「オキシトシン経鼻製剤」の治験に奔走する浜松医科大学の山末英典教授は「世界中の困っている人の助けになれば」と話す。

―ASDの現状は。

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 ASDは代表的な発達障害で、自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症を統合した概念です。中核症状は社会的コミュニケーションの障害と反復的、常同的な行動などです。

 100人に1人の割合と言われ、2、3歳ごろから症状を認めることができます。相手の気持ちをうまくくみ取れない、予定外のことが起きるとパニックになってしまうー。

 こうした特徴によって社会生活に支障をきたす場合があります。当事者が多いにもかかわらず、いまだ有効な治療法は確立されていないのです。

 罹患(りかん)率には明らかな性差があり、男性は女性の3〜9倍です。これまで社会性や協調性の性差について研究に取り組んできた中で、女性が多く分泌し、協調性などに関係するとされるホルモン「オキシトシン」に注目しました。投与することで、ASDの中核症状に変化があるかもしれないと考えたのです。

 オキシトシンは、何十年も前から産婦人科領域において陣痛や授乳促進のための注射剤として使われています。私が責任研究者を務めた医師主導臨床試験ではヨーロッパで承認されている経鼻スプレー製剤を使用しました。

―これまでの成果は。

 東京大学に在籍中の2009年に患者への投与を開始しました。

 ASDの人は比較的高い言語能力を有しているのですが、他人の表情や声色から気持ちを読み取る「非言語的な認知」が得意ではありません。言葉を額面通りに受け取ってしまい、社交辞令や皮肉を理解するのが難しいのです。また、感情を表情で表すこと、目を合わせて会話することなども苦手としています。

 私はASDと診断された成人男性40人を対象にオキシトシンとプラセボを投与。その結果、オキシトシンの投与で「表情」や「声色による判断」の改善が認められました。

 併せてfMRI(機能的磁気共鳴画像)を用いて脳の活動を調べました。他者の気持ちを理解する上で重要な内側前頭前野や、共感に重要な島皮質の活動量が向上しました。

 当学、東京大学、名古屋大学などとの共同研究を経て、今年2月、名古屋大学、九州大学など7大学による治験をスタート。帝人ファーマ社とともに、より十分な効果が脳に届くよう、新たなオキシトシン経鼻スプレーの開発にも取り組みました。

 治験ではオキシトシン投与の効果を測定するだけではなく、遺伝子や脳のメカニズムの研究も推進。さらに効果が持続する「第二世代」の薬の開発を目指しています。オキシトシンの効果は個人差があります。あらかじめ遺伝子を調べることで効果の予測も可能。将来的には個別化医療にもつながるでしょう。

―今後の課題は。

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 これまでASDの症状は「生涯変わらない」とされてきたため、一般的に重症度の検査は1度しか受けないことが多いのです。臨床応用を実現するためには「社会生活の中で実際に症状が改善されるかどうか」を調べる必要があります。

 一つの手法としてビデオで患者の表情を撮影し、その変化を数値化。効果を評価する研究結果を論文としてまとめたところです。

 治験の結果が報道されると、多くの人から期待の声が届くようになりました。世の中のニーズに合致したのだと実感します。長期使用での安全性など、これから一つ一つを実証していきます。困っている人たちのために、しっかりと進めていきたいと思います。

浜松医科大学医学部精神医学講座
静岡県浜松市東区半田山1-20-1
TEL:053-435-2111(代表)
https://www.hama-med.ac.jp/edu cation/fac-med/dept/psychiatry/


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