認知症患者がありのままで治療を受けられる病棟作り
65歳以上の約1割が発症すると言われる「認知症」。患者の早期発見やサポートだけでなく、在宅で介護する家族の心身の負担なども問題になっている。2011年に認知症治療病棟を設置した社会医療法人聖ルチア会聖ルチア病院。大治太郎理事長・院長に話を聞いた。
―入院する認知症患者にはどんな治療をしていますか。
まずは徘徊(はいかい)、妄想、暴力や暴言などへの対処ですね。認知症治療病棟の患者さんのほとんどは、その問題行動のため家族が自宅で介護できない、と判断されて入院しています。ですからその問題となっている行動をコントロールすることが重要です。
拘束する、強い安定剤を投与して眠らせる、といったことはしません。認知症には記憶等が欠落していく中核症状と、それにともなって生じる周辺症状がある。問題行動は主に周辺症状に分類されます。しかし、行為そのものを止める薬はないのです。
ただ、迷惑行為を大幅に減らすことはできます。胃薬や血圧の薬など、普段飲んでいる薬の中には判断力を鈍らせる副作用を持つものがある。それらを周辺症状に影響する副作用が出にくい薬に置き換えるだけで周辺症状は少なくなることが多々あります。
問題行動といっても患者さんの頭の中ではきちんとした理由があります。夕方になって「家に帰る」と徘徊する方は、昔住んでいた自分の家を探していることがほとんど。子どもの時に住んでいた家に帰りたいんですね。当然、昔の家は見つからないから、不安や怒りを感じてしまう。単に行為を抑えるのではなく、心理的背景を理解して話を聞けば患者さんは落ち着きます。
―認知症治療病棟の現状を教えてください。
現在50床あり、稼働率は95%ほどです。病棟内で出会ったほかの患者さんと食堂でおしゃべりをしたり、散歩をしたりと、基本的に「好きなことを好きなだけ」してもらっています。
徘徊も病棟内であれば止めません。思う存分歩いてもらって、疲れたところで職員が休憩を促すと、自然と落ち着いていただけます。
「のびのびとした環境で患者さんとご家族に安心を提供する」。それが当院の認知症治療病棟の役割です。
作業療法は午前と午後に1回ずつ。足のリハビリなどトレーニングに近いものから、歌など楽しむことを目的にしたものまで、豊富なバリエーションがあります。
折り紙や編み物などの作業も良いのですが、男性の患者さんはあまり気が乗らないことが多い。イスに座ってポールでボールをたたく「棒サッカー」や風船バレーなど、勝敗があるスポーツが人気ですね。運動を積極的に取り入れ、男女とも楽しめるようバランスをとっています。
治療におけるもう一つの柱は認知症の進行を抑制するコリンエステラーゼ阻害薬の調整です。
このタイプの薬は一定の効果を期待できるものですが、患者さんによっては、ある時期に興奮しやすくなってしまうことがあります。この場合は、この抗認知症薬を中止するだけで、興奮性が収まる場合が多くあります。
不眠症で昼夜が逆転した患者さんの場合には、患者さんの生活リズムを整えるために下肢筋力が低下しにくい、新しい睡眠導入剤を使っています。
当院の認知症病棟は入院患者さんの8割以上が3カ月ほどで退院しますよ。
―今後の課題は。
新しい介護施設を設置する必要があると感じています。今は退院後の患者さんを「重度認知症デイケア すずらん」に案内していますが、それで十分なケアだといえるのか。在宅で看ているご家族の負担をもっと減らせる方法はないのか。それを日々考えています。
今後、ますます認知症患者は増えていきます。介護保険と医療保険の両方が適用できる入居施設をつくりたい。まだまだ構想の段階ですが、認知症介護に特化した施設群をつくることが目標です。
社会医療法人聖ルチア会 聖ルチア病院
福岡県久留米市津福本町1012
TEL:0942-33-1581
https://st-lucia.or.jp/