医師ならではの切り口で映画を通じて問題提起
19床の医院からスタートし35年。整形外科に特化した専門性の高い医療を提供し続け、今や年間2千の症例数を誇るフジ虎ノ門整形外科病院。現在、医療法人社団青虎会は数多くの施設を有するまでに発展した。 土田博和理事長は、長年の夢であった映画監督としての活動を開始。2月には医療を題材にした初監督作品「たまゆら」を公開した。制作への思いを聞いた。
ー作品の手応えは。
地元静岡県をはじめ、東海、近畿、中国の各地で公開されました。まず、日本の医療システムを一般の人に伝える狙いがありましたので「わかりやすかった」という感想は大変うれしかったです。
作品の舞台は地方都市の病院。あるきっかけで病院運営に携わることになった元CAの女性が主人公です。少し陰のある青年医師や2代目の若手院長との関わりを通して、医師不足や医療制度など、病院が抱える問題と向き合います。映画として楽しめるよう、恋愛の要素も盛り込みました。
撮影場所の8割はフジ虎ノ門整形外科病院。職員もエキストラで出演しています。「あの看護師さんは演技が上手ですね」と言われたのはおかしかった。本物ですからうまくて当たり前ですよね。
ー映画制作のきっかけは。
映画との出会いは予備校生の時です。当時は、確か100円で2作品を鑑賞できたと思います。映画館で初めて見たのは米映画「卒業」。海外にはこんな世界があるのかと、とても感動しました。それ以来、「私もいつか映画を撮ってみたい」という夢を抱くようになりました。
60代になってから、その思いが再燃。2008年、一念発起して東京の映画専門学校に通い始めました。毎週土曜、午前の診療が終わると東京に「通学」。音声技術、カメラの理論、脚本作りなどを1年間、若い人と一緒に勉強しました。
卒業作品は、閉館予定の御殿場の映画館で上映しました。上映会で同級生が撮影したドキュメンタリー「選挙」を見て、「医療者だからこそ世の中に発信できることがあるのではないか」という思いに駆られました。私が参議院議員になったきっかけです。
私が訴えたのは医療制度のあり方や国のさまざまな規制など、病院経営を通して気づいた課題でした。
しかし、国のシステムを変えることの難しさを知りました。医療について多くの人に知ってもらいたいという思いが強くなり、映画制作を決心。議員の経験が「たまゆら」に生かされました。
ー脚本もご自身ですね。
毎晩、勤務後に書き進めていきました。医師不足、大学の医局制度、教育、派遣ビジネスー。自分が感じていた医療界への疑問、怒り、不安を一般の方に知ってもらい、一緒に考えてほしいと思ったのです。
医療をテーマにした作品と言えば、神の手を持つ医師や、離島で奮闘する医師が多かった。私は身近な医療の現実を伝えたかったのです。登場人物のせりふに思いを込めています。
今後の作品の計画も進行中です。秋には医師の過労死をテーマに2作目の撮影を開始予定です。3作目は社会派ミステリーをイメージして、保険請求について描きたいと考えています。
ー「患者さんにとって医師はあなただけです」というせりふが心に残りました。
患者さんの気持ちをくみ取ることができない医師、コンピューターの数値ばかり見ている医師。時代とともに新たな課題も生まれているようにも思います。
医師免許を取得し技術を高めるだけでは、私たちは患者さんの本当の信頼を獲得することはできないと思います。日々、人間性を磨き、未来を見つめることを忘れてはなりません。若い医療者たちが夢を描ける病院であるために、私自身も努力したいと思います。
医療法人社団青虎会フジ虎ノ門整形外科病院
静岡県御殿場市川島田1067-1
TEL:0550-89-7872
http://www.toranomon.or.jp/