網膜硝子体疾患の難症例 最先端技術を駆使し救う
全国的にも、まだ数少ない女性の医学部教授。その一人である名古屋大学の寺﨑浩子教授は、眼科の臨床において日本をリードしてきた。専門分野である網膜硝子体疾患治療の最前線について聞いた。
―教室は網膜硝子体を主な専門とされていますね。
名古屋大学の医学部附属病院には数多くの関連病院があります。眼科も、愛知、岐阜、三重、静岡にある45施設ほどに、非常勤も含めた医師を約100人派遣。関連病院が地域の診療所と病診連携を進めているので、3段階のネットワークを築くことができています。
当院には最重症患者が集まります。年間の手術件数は約1500件で、半数以上が網膜硝子体疾患。外来治療では、日本の中でも多くの加齢黄斑変性症例を扱っている施設の一つです。
40年ほど前に「黄斑外来」を始めた当初は、まだ加齢黄斑変性に有効な治療法がありませんでした。その後、手術や光線力学的療法などが登場。10年前から取り組まれている薬物注入治療については、使用している新薬の大多数の臨床治験を私たちが担ってきました。
強みは、一つの疾患について多面的に研究できる点です。電気によって網膜の機能を検査する「網膜電図」「画像診断」「分子生物学」の3チームを作っています。
中でも、近年発展著しいのが、画像診断の機器。加齢黄斑変性や糖尿病網膜症は、さまざまな原因により血管が新生されていく病気です。状態を確認するためには、眼底の血管の様子を検出する必要があります。
以前は、造影剤を腕の血管から注射し、眼底カメラで撮影、確認していました。それが、MRアンギオグラフィーのように造影剤がなくても血管が撮影できるように。光干渉断層計(OCT)アンギオグラフィーと呼ばれ、今年4月に保険収載もされました。
当院では研究用として、さらに改良された最新式を導入。従来よりも広範囲に、より正確に血管だけを取り出して描出できます。患者さんは座ってあごを台に載せ、目を見開くだけ。無侵襲で検査することができます。
手術中も最新式の顕微鏡に内蔵したOCTを駆使。ファイバー型のOCTも企業と共同で開発しています。内視鏡のように眼内に挿入して、断層画像を見ながら手術をすることができます。
―医療・医学界でも「女性の活躍」が進んでいます。
眼科は女性の多い領域。この医局でも、全体の3割が女性です。個々にニーズを聞き取って、働き方に配慮しています。
手術に関しては、最初にしっかり覚えれば産休・育休でしばらく間が空いても、また思い出すことができます。私自身も、眼科医になって6年目くらいで出産しましたが、それまでの経験があったので、問題なく復帰できました。
私が教授になったのは、45歳の時。女性として初めて医学部教授会に出席しました。周囲は50〜60代前後の男性ばかり。ほかの教授の目にはどんな風に映っていたのでしょうね。
本学は現在、女性の活躍推進に力を入れています。松尾清一総長は2015年、女性の活躍推進を目指す国連組織「UN Women」が選んだ男女平等実現を進める世界の10大学学長の1人に選ばれています。女性研究者の採用枠拡大や学童保育整備などが評価されています。また本学は、世界で活躍できる女性リーダー育成にも取り組んでおり、私も携わっています。
この医局のモットーは「明るく楽しくアカデミックに」。みんな本当に楽しそうに働いています。若者の海外志向が低下したと言われますが、ここでは「われ先に」と留学を希望します。
日本の中核病院として認められるには、海外の一流大学との共同論文を発表することも重要。若手には、どんどん世界とつながってほしいですね。
名古屋大学大学院医学系研究科 頭頸部・感覚器外科学講座 眼科学分野
名古屋市昭和区鶴舞町65
TEL:052-741-2111(代表)
http://med-nagoya-ganka.jp/