プライオリティーを決め人生を切りひらく
女性初の国立大学病院長として九州大学病院長を務め、2015年には福岡学園福岡歯科大学トップに就任した水田祥代理事長。まさに女性医師の先駆者である水田理事長に、女性活躍に対する思いを聞いた。
―歯科を含めた医療界における女性活躍について。
全国に先駆けて「口腔医学」教育を提唱している本学。入学する学生のうち女性が38%、院生では41%に上ります。
歯科は女性にとても向いた診療科だと感じています。急患や当直があまりありませんから、妊娠、出産、子育てといったライフイベントを経験することが多い女性にとって、選びやすい仕事ではないでしょうか。
女性医師・歯科医師の活躍において何より気になるのは、女性たちの中に「私は女だから」という、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)がありそうだということです。
キャリアを積むも積まないも、自身で選んだ道に不正解はありません。ただ、中には、周りのせいにして、働き続けるための方法を考えることさえしないままの人もいるような気がします。確かにトップに立つのはきついけれど、見えなかった世界が見えるようになる。視野が広がるのは大きな醍醐味(だいごみ)です。
日本では女性の働き盛りにあたる時期が結婚・出産期にあたり、労働力率が低下するため良くないとも言われますが、果たしてそうでしょうか。私の周りには、出産や育児を経験する中で、勤務場所や形態を変えながらキャリアを積んだ例がいくつもあります。「両立」とよく言いますが、その時、自分が重視することを優先すれば良い。「両立の束縛」から自由になった方がいいと思います。「休んだら遅れをとる」なら、また追いかければいいじゃないですか。子育てしながらでも勉強はできるし、医師・歯科医師は一生できる仕事です。
―女性の働き方に対する取り組みはありますか。
ある時期、優秀な女性スタッフの辞職が続きました。聞けば妊娠をしたけれど子どもを預けられるところがないと言う。ならばと2017年8月、本学園敷地内に「ぺんぎん保育園」を開設。「出産後また仕事に復帰できる」と非常に喜ばれています。
産休、育休明けの勤務では、所属部署と相談の上、時短勤務を選択することも可能です。優秀な人材に長く活躍していただくために、今後もスタッフの声には真摯(しんし)に耳を傾けていきたいと思っています。
―歯科医の数や現状をどう見ていますか。
世の中的には「多い」とも言われる歯科医師ですが、私はそうは思いません。
たしかに今、親が子どもの歯磨きを幼少期からきちんと行うため、子どもがむし歯になるケースは減少しています。しかしその一方で、歯周病の有無が疾患の治療成績に関係することや口腔ケアと健康との関わりが、認知されてきています。病気の方たちの口の中は雑菌や薬で傷んだ状態。これを正しくケアすることで、痛みを減らしたり、ご飯が食べられたりするようになる。しっかり噛めば栄養も行き届き、健康寿命も延びるというわけです。
周術期や抗がん剤投与中の口腔ケアは歯科医が中心となって多職種が行います。本院では院内のみならず訪問歯科チームが提携病院にも赴いてます。今後は寝たきりの方など、歯科医院に行くことができない患者さんの元への訪問診療も進めることが重要です。
ライフステージのさまざまな場面で、口腔ケアは健康やQOL向上に貢献しており、こうした歯科医療の役割の広がりを鑑みれば、歯科医師は多いどころか足りていないと言えるのではないでしょうか。
女性医師・歯科医師が活躍するために大切なのは、周囲が区別をせず、チャンスも評価もフェアに与えること。そして女性たちはその職に誇りを持ち、自らの意思で人生を切りひらいていくことだと思います。
学校法人福岡学園 福岡歯科大学
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