あらゆる可能性を考える総合診療医
「19番目の専門医」として位置づけられた「総合診療医」。患者が訴える症状の原因を突き止めて治療し、必要であれば専門の診療科を紹介する。地域包括ケアにも必要とされている「総合診療」について聞いた。
ー総合診療医の役割について教えてください。
「腹痛が続いているけど原因がわからない」「なぜか毎晩眠れない」など、どの診療科を受診すれば良いのか悩む人に、最善の治療法を見つけるのが総合診療科です。昔は何でもみてくれる「町医者」の先生がいました。そういったイメージですね。他の診療科が専門分野に特化するにつれ、患者さんの症状を的確に見分ける総合診療医のニーズが高まっています。
4月に専門医として認定され、育成プログラムがスタートしました。「他の科への振り分け役」とよく言われますが、われわれが「専門家の治療が必要」だと判断して他の科に依頼するのは3割ほど。7割は総合診療部内で治療しています。
福岡大学病院の総合診療部では問診と身体診察を最も大切にしています。すぐに検査するのではなく、まずは患者さんの話を聞く。疾患の原因は精神的なものであることも多いので、家庭環境や内的なストレスについても聞き出します。身体診察で細かな異変に気づくために、診察法の研究も欠かせません。そうしてどんな病気かを予想してから、CTやMRIを撮ります。
放射線検査には「機械でしか見えないものが見える」という利点がありますが、私は「人にしか見えないものがある」と言いたい。触ったときの感覚や脈のふれ方、患者さんの反応が少しでもおかしいと感じたら、そこに病気があるかもしれません。
ある男性は「下腹部の痛みで三つの病院にかかったけれど原因がわからなかった」と来院されました。直腸診をすると痛みを訴えたので精密検査をしたところ、前立腺炎が判明。このように、あらゆる可能性を考えて診察をします。
不調の原因がなかなかわからなかった患者さんの治療がうまくいき、笑顔で帰られることがやりがいですね。
ー福岡大学の総合診療部の強みはなんでしょうか。
外来だけでなく入院患者とERでの二次救急患者の診療も担当していることです。さまざまな場面での経験が積めるため、総合診療医を目指す医師にとって、良い環境だと思います。
病棟に入院している患者さんは複数の疾患がある方が多い。複合的・長期的な臨床データに触れられます。
ERには胸が苦しくなった、お腹が痛いなど突発的な症状を訴える方が運ばれてくる。頭を打った、骨折をしたという外科的なケースにも対応するのがERの特徴です。短時間での診断と素早い初期治療が求められるので研修医にとっては、良い勉強になります。
ー育成で力を入れていることを教えてください。
在宅医療に生かせるスキルを伸ばすことです。診察室などの現場と研究室、二つの場で内科全般について教えています。持ち運びできる超音波検査機器も導入しました。将来、往診や訪問診療でも精度の高い診察ができるよう教育しています。
地域に医学の幅広い知識を持つ総合診療医が増えれば、患者の容態を正しく判断し、病状に適した特定機能病院へ紹介する連携がスムーズになるでしょう。
地域包括ケアの充実を図るためにも、総合診療医を早急に育てなければなりません。全国にある79の大学病院のうち、福岡大学病院のように総合診療医が入院患者や救急患者を診ている施設は20カ所ほどしかありません。十分な教育体制はまだ整っていないのが現状です。
未来の医師を育てる者として「すべての開業医が高いレベルの診断能力を持った状態をつくる」のが私たちの目標です。「福岡大学病院出身の医師は優秀だ」と言われるよう尽力し、理想の地域医療を実現させます。
福岡大学医学部総合診療部
福岡市城南区七隈7-45-1
TEL:092-801-1011(代表)
http://www.med.fukuoka-u.ac. jp/naika/general/