"いい医療"を志してみんな戻ってくるのです
大学と病院の一体化をはじめ、さまざまな「聖路加の医療と教育」の変革を成し遂げてきた福井次矢学長・院長。受け継いできた強み、そして未来に対する思考は、実に興味深い。
―取り組みを振り返って。
地域医療を担う総合病院として欠点はないが、突出した診療科や特徴があるわけでもない。聖路加国際病院は、そのような存在として認識されてきたのではないかと思います。
人間を生物学的に突き詰めていく研究が背後にあってこそ診療の質が高まる。基礎医学を研究する側面を持たなければ最先端の医療に追いつけない。2005年、私が院長に就任した当初の改革イメージはこのようなものでした。
高度な基礎研究が可能な共同研究ラボラトリーをつくり、また「1人を診る病院」から「集団を診る病院」へ変わる必要があると考え、統計学や疫学といった公衆衛生学的なアプローチによる臨床研究を推進しました。現在までに、思い描いていたことの多くは実現できたと考えています。
元来当院は、1930年代からたくさんの医学生たちが学ぶために集う場であり、卒後の臨床研修制度の改革を唱えた日野原重明先生がいたこともあって、日本が戦後のさまざまな研修制度を構築する上でモデルとなってきました。
現在、私が座長を務める厚労省の「医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループ」の議論が最終段階に入っています。現行制度の到達目標の骨格は私が京都大学にいたころに作成したもの。今回の大幅な見直しは、2020年度に適用される見込みです。
―看護教育も特徴です。
1920年の附属高等看護婦学校設置以来、外国人講師による教育などにより質の高い看護師を養成し続けてきました。看護学部の臨床実習は一般的に24単位であるのに対して、当学は大きく上回る34単位。国内で最も長く実習の時間を確保しています。
ずっと米国的な医療を実践してきた聖路加国際病院は、ある意味では「特異な病院」でもあります。
例えば平均在院日数。私が大学を卒業した1976年当時の全国平均は30〜40日。ところが聖路加国際病院は平均14日でした。現在は8日程度です。懸命に短縮化を進めてきたわけではなく、当初から「回復したら地域に戻っていただく」医療を普通に行っていたのです。
ここで研修を受けて他の医療機関に勤務する医師たちに声をかけると、教授などのポジションに就いていても、タイミングさえ合えば多くが戻ってきてくれます。聖路加国際病院なら「いい医療」に携われることを知っているからです。
私自身もその一人。京大から戻る決断を最終的に後押ししたのは、日野原先生の「戻ってほしい」という一言でした。
「人が集まる」という事実は、当院が大学などからの医師の派遣に頼らなくてもよいことを意味します。外部に依頼しなければ人材を確保できない診療科は一つとしてありません。その点でも極めて「特異」ではないでしょうか。
―今後見すえているのは。
大学と病院のコラボレーションをさらに強めていきます。2017年4月に開設した国内5番目の公衆衛生大学院では文系・理系を問わず、医療者でない方々も多数学んでいます。聖路加国際病院が有する膨大な臨床・検診データの活用も可能です。
新たな学部や大学院のコース開設などのほか、最大の目標はメディカルスクールの実現です。4年制大学を卒業後、さらに4年間の医学教育を受けてもらう。1学年あたり、多くても40人ほどの少人数制を考えています。ハーバード大学の公衆衛生大学院を修了し、1984年の帰国時から持ち続けている構想です。実現すれば、日本の医学教育が変わると思います。
学校法人 聖路加国際大学 聖路加国際病院
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