カギは国際化と多様性|学生の感受性に期待したい
順天堂大学学長であり全国医学部長病院長会議の会長を務める。今、日本の医学教育に必要なものは―。「国際化」を主な切り口に、新井一学長が答えてくれた。
―教育のグローバル化を積極的に進めています。
医学部ではアジア圏の国々を中心に外国人留学生を受け入れているほか、年間300人ほどが海外から病棟実習に参加しています。交流を通じて、当学の学生たちも大いに刺激を受けているようです。
国際性は当学のキーワードの一つ。一般入試では英語を200点満点に設定しており、入学後の4月には学生全員がTOEFLテストを受けます。一般的に学生の英語力は入学時が最も高く、しだいに下がる傾向にあると言われています。
そこで、秋にもTOEFLテストを実施。英語力の維持、向上を図り、留学やUSMLE(米国医師国家試験)の受験なども推奨しています。
医学、スポーツ、看護の3本の柱に加えて、2015年4月、5番目の学部として国際教養学部を開設しました。文系の学部開設は当学にとって大きなチャレンジ。「グローバルヘルス」という視点をもって健康や看護、スポーツなどの分野で活躍できる人材の育成が目的です。
例えばWHОの職員や日本の医療の海外展開などを支える人材をイメージしています。来年、初めての卒業生を輩出します。
もう一点、重視しているのは多様性です。「研究医枠」で入学した学生は3年次に基礎研究室で数カ月の実習に臨み、英語の論文を発表する者もいます。海外に渡る、地域医療に従事する、あるいは順天堂医院・天野篤院長のような手術の名手と呼ばれる存在を目指すのもいい。多様な医師や研究者が育つために、さまざまなチャンスを提供できる環境を整えたいと考えています。
―「2023年問題」の取り組みは。
2010年、米国の医師国家試験受験資格を審査するNGO団体・ECFMGによる声明は、まさに「寝耳に水」でした。
従来、日本の医学部を卒業していれば米国の医師国家試験を受けることができました。ところがECFMGは2023年以降、「WFME(世界医学教育連盟)の国際基準に準拠した医学教育を受けていない者には受験資格を与えない」としたのです。
その背景には、米国以外の医学部出身者の質を担保したいという狙いがあります。医学教育に特化した分野別評価制度がない日本は国際化から取り残されるかもしれない。
そう危惧した私たち全国医学部長病院長会議は、2015年、文科省の支援のもと、医学教育の評価機関として「JACME(日本医学教育評価機構)」を設立。昨年3月、評価機関として正式にWFMEの認定を受けました。
つまり、JACMEに認証された医学部はWFMEの国際基準に則った医学教育プログラムを整備していることになります。現在、82大学のうち約30を認証。受審数は加速度的に増加していくと思います。
これから大事なのは、卒業時点でどのような医師像を求めるのか。各大学が逆算して6年間のカリキュラムをつくり、評価、改善する組織を機能させ、PDCAサイクルを確立していくことが必要でしょう。
―学生に伝えたいことは。
医学教育で必要性がさけばれているのはプロフェッショナリズムの涵養です。当学としても、アーリー・エクスポージャー(早期体験学習)によって1年次から段階的に病棟での業務や介護施設、在宅医療での実習などを通じて学生のうちに問題意識をもってもらい、「医師として生きていく」自覚を促します。
それは当学の学是である「仁」、すなわち「他を思いやり慈しむ心」です。私は学生たちの感受性に期待しています。
順天堂大学
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