"感謝"を忘れず風通しの良い組織をつくる
人口7154人、高齢化率39.07%(4月1日現在)。この智頭町にある唯一の病院、国民健康保険智頭病院にこの春、新院長が誕生した。鳥取県立厚生病院から移った秋藤洋一院長だ。
―就任からまもなく2カ月。見えた地域の現状を。
私はこの病院と縁があり、自治医科大学卒業後の義務年限の最後の2年をこちらで過ごしました。その後、2009年に1年間ここに勤務。今回、3度目の赴任ということになります。
前回の勤務から9年が経過。高齢化が進んで人口が減ったという印象を持ちました。実際、智頭町の人口は10年間で1500人程度減り、高齢化率も上昇しています。
独居の方や老老介護も増えています。極端に言うと、「医療が介護・福祉にシフトしつつある」という現状がある。「在宅医療をどう支えるのか?」というのが、当院の重要なテーマです。
国の政策もあり、入院を基本として在宅復帰を目指した「おうちに帰ろう」から、在宅をベースに状態が悪化した場合などに時々入院する「おうちで暮らそう」へと価値観が変化しつつあります。
病院の役割は「患者さんの来院を待ち、その方の病気だけを診ればよい」というものから「場合によっては地域に出て行き、医療だけでなく日常生活までケアする」に変化。当院では、医師はもちろん歯科医師、看護師、リハビリスタッフ、薬剤師、栄養士が地域住民の自宅や介護施設へと「出て行く医療」も実践しています。
―院長の役割をどうとらえていますか。
院外に対しては「広告塔」。院内で求められているのは医師・看護師などの「リクルート活動」と「働きやすい職場づくり」です。
理想を言えば、「働きやすい職場」とは、病院で働くあらゆる職種の人たちが自由に意見を言い合えて、みんなで協力し合える、そんな職場。意見が言えない環境では不満が募りますし、協力し合おうという気風も育まれません。
良い職場をつくることは離職対策、ひいてはリクルートにもつながります。一人ひとりの考えや意見を聞くことで、職場環境が良くなり、離職が減ったり採用が増えたりしてマンパワーが充足。職員の疲弊が減り、生き生きと仕事ができるようになり、さらに活気付いていく。そんな良い循環が生まれることを願っています。
着任後、まずは部門ごとに職員を集め、意見を出してもらっています。すべての要望には応えられないかもしれませんが、一つひとつの意見と一人ひとりの職員への感謝を忘れず、可能なものから実行に移したいと思っています。
―展望と抱負は。
目標の一つ目は「健全経営」。少子高齢化を背景とした人口減に伴い、患者数減少も見込まれています。さまざまな課題がありますが、病院のかじ取り役として、決断力を持って当院を運営していきたいと考えています。
もう一つは、「地域住民を支える役割を積極的に果たす」こと。今は、病院完結型医療の時代ではありません。行政や地域コミュニティーなどと連携し、「地域全体でいかに住民を支えるか」といった視点を持ち合わせる必要があります。
ここ智頭は、郵便局が町と連携して、独居老人宅を訪問するシステムを全国に先駆けて生み出した地域です。この地域を自分たちで、自分たちらしく守る。その考えがしっかりと根付いています。
当院でも入院時からではなく、入院「前」から住民を支えるという自覚をこれまで以上に持って、日々の業務にあたっていきたい。医療機関、介護施設、行政など関係各所が一丸となって、地域の生活をシームレスに支える。その一翼をしっかりと担っていこうと思っています。
国民健康保険智頭病院
鳥取県八頭郡智頭町智頭1875
TEL:0858-75-3211
http://www2.town.chizu.tottori.jp/