第91回日本内分泌学会学術総会 特別公開フォーラム「スポーツの力が未来を拓く」
行政の視点から健康社会に向けたスポーツ活用の展開を考える
4月26日から28日までの3日間、第91回日本内分泌学会学術総会がフェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎市)で開催された。会長は、宮崎大学医学部内科学講座神経呼吸内分泌代謝学分野の中里雅光教授。合計で、約2700人が参加した。
スポーツ行政を発信
学会初日、内分泌とも関係が深い、スポーツを活用した日本社会の未来に向け、健康行政に関する公開フォーラムが開かれた。
ストレス軽減、医療費抑制、介護予算圧縮に向け国民とスポーツを結びつけ、社会の健全化を目指す日本行政。宮崎県の河野俊嗣県知事と、ソウルオリンピックの金メダリストでありトップアスリートの見地から医学的エビデンスを応用しながら政策運営に取り組む鈴木大地スポーツ庁長官が、今後のスポーツ行政を語った。
■「スポーツランドみやざきの取組と今後の展開について」 宮崎県知事 河野 俊嗣 氏
温暖な気候と整備された施設を活用し、年間を通じて多くのスポーツ合宿を受け入れている宮崎県。その経済効果は、春季キャンプだけでも126億6100万円(2017年)と算出されている。
「今後は、スポーツキャンプ地・合宿地としての付加価値を高め、観客の県内観光・県内消費の促進に注力するとともに、健康長寿社会を目指し、生涯スポーツの振興と競技力の向上を図っていきたい」と河野知事は語る。
注目は、日常生活で健康を意識できるように開発され、宮崎県が公式運用するスマートフォンアプリ「SALKO(サルコ)」。宮崎の方言で「歩こう」を意味するという。
宮崎県は車社会。男女とも1日当たりの平均歩数が全国平均より少なく、厚労省が発表した「メタボ率」は全国ワースト4位(2015年度)だ。
知事は「スポーツ環境に恵まれ、通年で一流アスリートが集まる土地柄であるにもかかわらずスポーツ行動率が低い」と指摘。「特に運動実施率が低い働き盛り世代や子育て世代を中心に、スマホアプリを活用したウォーキングの普及啓発・生涯スポーツの振興を目指す」と述べた。
■「スポーツの力が未来を拓く」 スポーツ庁長官 鈴木 大地 氏
スポーツ庁は、2017年4月から2022年3月をスポーツ基本計画の第2期として、日本スポーツの重要な指針を策定。関係者・機関が一体となって「スポーツ立国」の実現を目標としている。「2015年度に42兆3644億円にまで膨らんだ国民医療費を抑制するのもスポーツ基本計画の狙いの一つ」だと鈴木長官は言う。
企業の生産性向上のため社員の心身の健康を考慮しながら、健康意識向上のための啓発・支援をする「健康経営」を先進的に行う企業とも積極的に意見交換すると語る長官は、「健康は、個人だけのものでなく社会全体で取り組むべきキーワードとなっている」と強調した。
自身も幼稚園児の父親である長官。子育ての実体験を元に幼少期のスポーツ習慣についてもさまざまな取り組みを実施。幼児期運動指針を策定するなど、長期的視点でスポーツ意識・健康意識定着を目指す。
長官は、「活力ある社会構築に向け、健康行政に関わる政策決定には、常に医学的エビデンスが不可欠。広く医学会からの提言を求めている」と、参加者に協力を求めた。
学会からも提言を
座長は、同学術総会の中里雅光会長が務めた。
「近年、人が体を動かす時に骨格筋からさまざまなホルモンが分泌されることが分かっている。人の体重全体の40%を占める骨格筋は、最大の内分泌臓器と言えるかもしれない」と語った中里会長。「日本内分泌学会からもスポーツ庁に向け、サイエンティフィックな提言をしていきたい」と述べ、フォーラムを締めくくった。