頭頸部がんを研究、治療「食べる喜び守りたい」
浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座の峯田周幸教授は、喉頭がんや舌がんなど頭頸部腫瘍が専門。食べる、話すといった機能を極力残し、社会復帰を後押しする。患者と耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の10年後を見てひた走る、峯田教授の思いとは。
―力を入れて取り組んでいることは。
一つ目が研究。現在取り組んでいる研究テーマの一つは、頭頸部がんを抑制する遺伝子の不活化についてです。
がん細胞の増殖にはアクセルを踏む遺伝子とブレーキをかける遺伝子が関係します。私たちは、後者に注目。DNAメチル化によってブレーキとなる働きが抑えられてしまう「抑制遺伝子の不活化」の仕組みの解明を目指しています。
メチル化されたDNAからメチル基を外す酵素はすでに存在し、血液のがんでは治療薬に使われています。その酵素が頭頸部がんでも使えることがわかれば、治療につながる可能性があります。
二つ目は治療の際の機能温存です。
喉や舌のがんを手術で摘出すると「食べる」「話す」という重要な機能が損なわれることが多々あります。進行した鼻のがんだと、切除することで顔が大きく変形する場合もあります。病気自体は治っても社会復帰が困難になってしまうこともあるのです。
たとえ手術を避けて放射線や抗がん剤による治療を選択しても、口の中が乾く、虫歯になる、といった問題が高い頻度で起きますし、「声」か「食」のどちらかしか機能温存できない場合も多くあります。
患者さん一人ひとりの仕事や生活環境も異なります。10年後の生活まで見据え、患者さんの意向と病気の状態の双方を考えた上で、最良の方法を選ぶよう心がけています。
―「めまい」も専門とされていますね。
めまいは、発作期には「眼振」という眼球の動きが見られますが、収まってしまうと、診断が非常に難しい病気です。陽性所見がない場合、患者の訴えをどうとらえて、どんな検査をするのかが、大事なポイントで、腕が試される部分でもあるでしょう。
病名をつけられないこともありますが、わかっている範囲の状況を患者さんにしっかりと説明することが重要です。
「めまい」を訴える人の半数は、内耳の耳石がはがれて三半規管に入り込んだことが原因の耳石障害です。耳石を元の位置に戻すためには、頭を動かして耳石を移動させる理学療法を用います。
高齢者が訴えるめまいの多くは、内耳の加齢変化です。内耳は患者さんが存命中は取り出すことができないため状態の解明が困難で、現状は防いだり完全に治したりするのは難しい場合がほとんどです。
ふらつきによって二次的に起こる転倒、骨折でのQOLやADLの低下を防ぐためには、踏ん張れる筋力をつけることが重要になってきます。これまでは「メタボ」予防が推奨されてきましたが、今は「フレイル」(筋力が低下した状態)に力点がシフトしています。日ごろから肉を食べて運動をし、転倒しない体をつくることが、要支援、要介護を減らすためにも有効です。
―研究、臨床とお話をうかがってきました。最後に教育面で心がけていることは。
若い医師のモチベーションを維持し、高めることです。臨床の現場では、難度の高い手術など「ここぞ」という場面に若手も参加させるようにしています。自分でメスを握らなくても、その場に立ち会うことで得られるものは多い。自己研さんへの意識も高まると思います。
広い視野を持てるように、海外留学も薦めています。得た知識や技術、異文化に触れた経験を、帰国後の仕事に生かしてほしいと考えています。
浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
静岡県浜松市東区半田山1-20-1
TEL:053-435-2111(代表)
http://www2.hama-med.ac.jp/w1b/oto/index-j.htm