よりよい医療を次の世代につなぐ
「今ある資源を有効に使い、築き上げたよりよい医療を次の世代に伝えていくことが私たちの使命である」と保富宗城教授は語る。
―講座の中心と位置付けている領域は。
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座は1945年の和歌山県立医科大学の創立とともに開講し、73年の歴史があります。診療範囲が広域におよぶ耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域。その中でも耳の聞こえや平衡感覚をつかさどる「感覚器」、食事や発声に関わる「機能」は日常生活そのものであり、これらを改善することは生活の質の向上に直結します。
当講座では「感覚器」「機能」「腫瘍外科」に主軸を置いた診療で和歌山県の医療に貢献することをモットーとしています。また、小児急性中耳炎診療ガイドライン、急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン、術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインの作成に携わってきた経験から、「感染症・免疫・アレルギー」分野については和歌山県のみならず、全国的なオピニオンリーダーとしての役割を担っているのが特長と言えます。
―耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の魅力と備えるべき力とは。
主に子どもが発症する中耳炎、50代以降で発症する人が多い頭頸部がんなど、子どもから大人まで幅広い世代を診ることができるのが耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の魅力だと思います。
頭頸部がんは診断から外科的手術、術後管理まで携わり、患者のそばで経過を見届けることができる。耳の聞こえを良くしたり、嚥下(えんげ)を改善すれば患者の喜びをじかに感じることができ、やりがいを感じますね。
診療の範囲が広域におよぶ耳鼻咽喉科・頭頸部外科では、基本となる思考過程がとても重要です。侵入抗原を微生物ととらえれば感染症、花粉ととらえればアレルギーになります。一方、微生物と宿主の問題ととらえれば炎症免疫論になるため、一つのテーマに固執してしまうと問題の本質を見失いかねません。
広い視野を持ち、科学的に考える思考力が身につけば、「感覚器」「機能」「腫瘍外科」の三つのテーマについても理解する基礎ができるでしょう。当講座では和歌山県の医療に寄与することのできる、広い視野を持つ人材の育成に取り組んでいます。希望者は国内外の病院での研修に参加し、多くの経験を積むことができます。
―教授に就任して3年目。今後の展望を。
術者の技術的トレーニングなどの準備期間を経て、2017年2月に関西圏の大学病院耳鼻咽喉科領域で初めて、内視鏡下甲状腺手術を導入しました。安全で確実な医療を提供することはもちろん、非侵襲的手術にも積極的に取り組んでいます。
和歌山県内の耳鼻科医を対象にした勉強会「和歌山耳鼻咽喉科臨床懇話会」を2016年に始め、これまでに5回開催しました。この懇話会を含めると年に5回ほど県内の耳鼻科医が集う機会があるので、和歌山県の耳鼻科医は他県と比べてつながりが強いように感じますね。
頭頸部がんにおける再建術の症例数が年々増加しています。手術は当局のほか、形成外科、消化器外科をはじめとする多くのスタッフによるチームで行われます。信頼できるチームを作り、それをいかにまとめてうまくやっていくかを日ごろから考えており、その成果こそが安全性の高まりと症例数の増加として現れてきているのだと感じています。
2016年に耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座の5代目教授に就任し、今年で2年が経ちました。1年目は準備期間、2年目は基礎固めに尽力してきました。3年目となる今年はこれまで築いてきたものを発展させていく年にしたいと考えています。
医局内外の勉強会を活性化させ、新しく導入した治療法の定着とさらなるステップアップを図ります。今の医療はもちろん、次の世代により良いものを残していくことこそ私たちの使命であると思うのです。
和歌山県立医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
和歌山市紀三井寺811-1
TEL:073-447-2300(代表)
http://orl.wakayama-med.ac.jp/