難しさはおもしろさ 光る「耳下腺腫瘍」の実績
大阪医科大学に耳鼻咽喉科学教室が誕生して89年。昨年、「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」とその名を変えた教室は耳鼻咽喉科領域の疾患の治療、研究に幅広く取り組んでいる。「趣深い科」だと語る、河田了教授の真意は。
―教室の特色を挙げると。
より安全で確実な医療を追求するため「一人の患者さんをみんなで診る」システムを採用しています。
クリニックなどから紹介され、来院した患者さんをまずは新患担当医が診察。アレルギー、鼻・副鼻腔、頭頸部腫瘍、中耳炎・顔面神経など、11ある専門外来へと振り分けます。
専門外来で治療方針を決定した後には、すべての患者さんに対して入院前検討会、入院時診察、術後症例検討会、教授・准教授回診を実施。さらに、それぞれの内容を全教室員で共有します。
この方法の第一のメリットは、診断や治療方法の決定といった大切な場面で何重ものチェックが可能であること。患者さんやその家族だけでなく、医師にとっても安心感がある仕組みだと思います。
さらに言えば、あらゆる症例について情報が得られるため、医師のレベルアップにもつながりますし、教室の全員が一人ひとりの患者さんの状態をある程度理解しているため、担当医の急な休みや勤務変更にも対応しやすい。医師の教育やワークライフバランス実現のためにも、有益だと考えています。
―耳下腺腫瘍の手術が強みの一つですね。
頭頸部腫瘍の中でも耳の下の唾液腺である「耳下腺」で発生する腫瘍の治療に、特に力を入れてきました。
病理組織学的な種類が多く、良性で10分類、悪性は23分類。8割ほどが良性ですが、その多彩さから診断が難しい病気なのです。さらに耳下腺内には顔面神経が走行しているため、手術の難易度が高く、精緻な技術が必須。良性であってもきちんと切除しないと再発のリスクが高いタイプもあります。
私たちは全国で最も多く耳下腺腫瘍の手術を実施しており、1999年9月から2017年1月までの症例数は計916例。ここ数年は年間100例前後の実績があります。
もともと発生頻度が低く10万人に1人〜3人程度と言われています。悪性となれば、さらにまれで、経験豊富な医師もそう多くはありません。私たちの教室のウェブサイトでは疾患に対する解説や実績を紹介。特に頭頸部がんについては、部位別に5年生存率を掲載しています。紹介されてくる患者さんの数が増え、症例と検証が蓄積することによってさらに治療のレベルが上がり、さらに紹介が増える...。そんな良い循環が生まれています。
―課題は。
アレルギー性の鼻・副鼻腔疾患が増え、高齢化に伴うがん、難聴なども増加しています。耳鼻咽喉科医の数は、医師全体の4%程度に過ぎず、不足しているというのが実感です。
新医師臨床研修制度で耳鼻咽喉科が必修対象となっていないことで、魅力、やりがいが若手に十分に伝わっていない可能性もあります。醍醐味(だいごみ)を学部生や若手医師にアピールする努力をしていきたいと考えています。
喉や鼻、耳の内部で何が起きているのか―。正確にとらえるのは簡単なことではありません。嗅覚、聴覚、味覚といった生活の質に直結する機能を温存しながら病気を治すためには、手術前に病理の結果を確認し、再発のリスクなども考えながら慎重に切除範囲を定めていく必要もあります。
難しさは逆に言えば、おもしろさでもある。高度な専門性が要求されるからこそ、奥が深く、やりがいがある分野だとも言えます。メジャー科のような派手さはないかもしれませんが、じわじわと楽しさを実感できる、「趣深い科」であると思っています。
大阪医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室
大阪府高槻市大学町2-7
TEL:072-683-1221(代表)
http://oto-osaka-med.jp/