手を取り合って大きな推進力を得る
手術支援ロボット「ダビンチ」を用いた早期咽頭がん手術において国内をけん引する施設の一つ、鳥取大学。医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野の藤原和典准教授は「全国、世界に目を向ける気風が教室内で育まれている」と語る。
―ダビンチを使った手術について聞かせてください。
導入は2013年。準備はその5年ほど前に始めていました。国内では勉強する場がなかったので、技術は留学先のアメリカで習得。さらにダビンチで手術するための認定証を取得するために、香港へ何度も通いました。
その後、京都大学と東京医科大学と当大学の3施設で、ダビンチを用いた早期咽頭がんの経口的切除術が先進医療として認可され、多施設臨床研究を行ってきました。現在は承認に向けてガイドラインを作成したり、免許や教育のあり方を協議したりしています。
ダビンチを使う良さは頸部切開に比べ低侵襲な手術ができるところ。3次元の内視鏡は映像の拡大が可能で、鉗子の操作性も高く、まるで小さな手で作業しているようなイメージで手術することができます。
放射線治療では、少ない量を何度も当てるため3カ月程度の入院が必要になりますが、ダビンチだと術後1週間での退院が可能に。患者さんの負担が減りますし、仕事などへの復帰も非常にスムーズです。
―嚥下(えんげ)の問題にも積極的に取り組まれています。
以前から嚥下障害に問題意識を持って取り組んできました。高齢化がさらに進む中で今後ますます発展していかなければならない分野だと思っています。
10年ほど前には「山陰摂食・嚥下研究会」を立ち上げました。これは介護士や栄養士、看護師、リハビリ、耳鼻咽喉科、神経内科、歯科の医師など嚥下障害に携わるあらゆる職種が集まり、意見交換をする場です。
普段、診療の中で悩んでいることなどを話し合い、課題や解決策の共有を進めています。この縁で、鳥取県の日南町では住民に対して嚥下の検診を行い、スクリーニング検査で問題があった方には医療機関受診を勧める仕組みが整えられることになりました。
また、私たちの教室では誤嚥性肺炎になりやすいかそうでないかを識別する検査機器の開発をメーカーと共同で進めています。
―教室の特徴と目標を。
診察では非常に広い領域をカバーしています。これはできる、これはできないと選り好みせず、すべての治療で高い水準を目指しています。
現状に満足することなく、常に先進医療を追求していきたい。今もなお、治らない患者さんはいます。そんな現状を打破するため、医療機器の開発にも力を入れています。
地域は大切にしていますが、鳥取や山陰という枠にはこだわっていません。常に全国、世界に目を向ける気風が医局内で育まれているように感じます。小さな地方の大学という弱みを逆手にとって、強みに変えていこうとしているところは鳥取大学の特徴と言えるかもしれませんね。
「勢いがある」と言われる医局は、どこもしっかりコミュニケーションが取れていると感じます。どんなに優れている医療者でも一人の力は限られている。私たちも日ごろからお互い助け合い、手を取り合っていくことでもっと大きな推進力が得られると信じています。
情報発信にも力を入れていきたいと考えています。これまでも学会発表、公開講座開催やテレビ出演、動画配信などに取り組んできました。
今後はもっと幅広く、この領域の診療について情報を発信していきたい。今は、教室のウェブサイトをリニューアルしています。まずは、できることから少しずつ、やっていこうと思っています。
鳥取大学医学部感覚運動医学講座耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
鳥取県米子市西町36-1
TEL:0859-33-1111(代表)
http://www.med.tottori-u.ac. jp/otolary/