市民公開講座「地域で支える、在宅医療」【3月24日】
住み慣れた場所で最期まで―。福岡市在宅医療医会と福岡市医師会、福岡市は3月24日、市民公開講座「地域で支える、在宅医療」を市内の天神スカイホールで開き、医療・介護職を含む143人が参加した。
高齢多死社会を目前にし、今後増える可能性がある一人暮らしの「自宅死」。参加者は、訪問診療に従事する医師の事例発表を聞きながら、どう準備し、支援すべきかを考えた。
判断の基準は「患者にとって最善とは」
福岡市にある「むらおかホームクリニック」の村岡泰典院長は、家族も親類もいない92歳の女性を自宅で看取(みと)った経験を「認知症+末期がん高齢者の『在宅ひとり死』を支援した事例〜多職種連携で本人の希望に寄り添う」と題して紹介した。
夫を亡くした後、訪問介護を利用しながら1人で暮らしていた認知症の女性は、末期のがんが見つかり入院。しかし、ケアマネジャーや病院の看護師に「自宅で過ごしたい」と強く主張した。
そこで村岡院長、看護師、薬剤師など8人による医療・介護チームが編成され、支援体制を構築。女性は入院から5日後、自宅に戻ったという。
チームは、患者の意思が確認できない場合などを想定して厚生労働省が策定した「"人生の最終段階"における医療の決定プロセスに関するガイドライン」をもとに、患者にとって最善だと思われる治療方針を慎重に判断。訪問診療・看護で認知症の薬の種類や量を調整し、がんにも対応したほか、訪問介護で女性の日常生活をサポートした。
同時に財産管理や亡くなった後の葬儀のことも検討し、成年後見人や身元保証人を決定。退院から3週間後、患者は自宅でチームのメンバーに見守られて最期の時を迎えたという。
村岡院長は「一人暮らしでも、認知症でも、自宅で最期を迎えることは可能」と強調。医療従事者が患者から療養や最期について事前に聞いておくことの重要性も語った。
多彩な支援網質疑応答も活発に
同公開講座では、佐伯俊資・福岡市地域医療課長、岡本育・みゆうクリニック院長、本田賢二・福岡市消防局救急課、馬男木幸子・福岡市社会福祉協議会地域福祉課長も登壇。「在宅」をキーワードにそれぞれの取り組みや現状を語った。
講演後は参加者からの質問も受け付けた。
父親が在宅で療養していたという参加者は、「もともとのかかりつけ医に訪問診療を依頼したが対応してもらえなかったのはなぜ?」と質問。講師を務めた岡本院長は、訪問診療の対象場所を医療機関から半径16km以内を原則とする「16kmルール」について説明した上で、「制度や医師の高齢化で対応が難しい場合もある。かかりつけ医に訪問してもらえない場合は、病院の地域連携室や、ケアマネジャーに相談することで、訪問可能な医師などを紹介してもらえるはず」とアドバイスした。