化学療法を横断的に実施する専門家を育成
2002年、近畿大学医学部に開設された腫瘍内科。従来の臓器別ではなく横断的に、がんの化学療法を中心とした診療に対応できる医師を養成するという狙いがある。2007年に2代目教授に就任。講座運営のかじ取り役である中川和彦教授に話を聞いた。
―開設の経緯は。
当時国内には腫瘍内科がほとんどありませんでした。初代の福岡正博教授は、もともと第4内科(呼吸器内科)の教授で、肺がんを中心に治療、研究をされていました。今では治療法も目覚ましく発展している肺がん分野ですが、当時は手術以外の治療法がほとんどない状況でした。このため、福岡前教授はもっと大学として抗がん剤をはじめとした新薬開発などに積極的に関わることが重要だと考えていました。
呼吸器内科の場合はがん以外に、ぜんそくやCOPDの治療をする必要があります。消化器内科、腎臓内科など他科も同じように、がんのみを専門に扱うわけにはいかない。しかし、がんの化学療法の専門家は将来的には求められる人材だと考えていました。
そこで第4内科をがんの専門家を育成するために、発展的に独立させようという方針を打ち出し、これに伴って腫瘍内科が誕生したのです。
―講座の特徴は。
臓器の専門診療科と連携しながらではありますが、臓器横断的がん診療を進めていくところが大きな特徴です。胃がんや肺がん、乳がん、時には原発不明がんなど、さまざまな患者さんの診察にあたります。
また、研究については体系的に学び、その上で専門的に突き詰めていく必要があります。このため、肺がん、胃がんなど、腫瘍内科医がそれぞれ専門領域を持ちながら取り組みます。臓器によって、治療方法の歴史や考え方は違いますので、異なる考え方をぶつけ合いながら学ぶのも腫瘍内科学全体の理解を深めるのに役立ちます。
そして、当講座のもう一つの特徴としては、医局員同士の情報交換やディスカッションに充てる時間をできるだけ多く取りたいと考えていることです。これは医局員が情報を共有化し、いち早く薬剤の特徴などを知って診療や研究に生かすことを目的にしています。
近年、薬剤開発のスピードが特に加速しています。
しかしわれわれは、臓器横断的に抗がん剤全体について学びますので情報量が豊富です。
当講座に対する腫瘍内科医の派遣要請も増加しています。地域でがん診療に力を入れる中核病院からは腫瘍内科を作りたいという声も多く聞かれています。
また2025年問題を見据え、在宅でがん患者を支える医師との連携も課題です。例えば在宅で過ごすがん患者さんの緩和ケアを、がん診療の専門家たちが共に支えることも必要で、今後の制度設計を共同で検討していくことが求められています。
単なる標準治療でなく、未承認薬も含めた治療方法を選択肢として患者さんの立場に立って提案できるがん薬物療法専門医を育成するのが腫瘍内科の役割です。
がん患者さんが、残された時間をどのように満足して生きていくのか。われわれの知識やスキルが患者さんの幸せにつながっていく重要な仕事だと思います。
―がん診療を担う地域の人材育成に注力しています。
文科省は2007年に「がんプロフェッショナル養成プラン」を立ち上げてがんの専門医療人の養成に力を入れてきました。
これに伴い、近畿地区でも、本学を中心に国公私立7大学9学部が連携してがんの専門家を養成する「7大学連携個別化がん医療実践者養成プラン」というプログラムを企画し、2017年度の補助事業に採択されました。ゲノム医療や希少がん・小児がんなどの診療に貢献する人材の育成に力を入れていきます。
近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門
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