未来の医療を生み出せる社会の先導者でありたい
地下2階、地上11階の新病院棟「1号館」が完成。慶應義塾大学病院のこれからの医療を担う機能が凝縮されている。北川雄光病院長は「ダイナミックに変化していく姿を見せたい」と力強く語ってくれた。
―新病院棟が5月開院。
慶應義塾大学医学部は昨年、創設100周年を迎えました。記念事業の一環として新病院棟(1号館)の建設を進め、5月7日にオープンします。2020年には、病院が開院100年の節目を刻みます。
完成した1号館が診療の中心を担います。築50年を超える建物も使用してきた中で、医療の質については高い評価をいただいているものの、設備面の満足度は十分とは言えませんでした。今回の新病院棟により、大幅な改善を図ります。
手術室は19室から25室となり、都内有数の規模に拡大。内視鏡手術、ロボット支援下手術、移植手術に特化した手術室のほか、ハイブリッド手術室、血管造影装置や画像診断装置を備えた部屋もそろえました。
7.4万㎡の延べ床面積で1フロアあたり4看護単位に対応。診療科ごとに病棟を分けず「共用」の概念を取り入れました。患者さんに応じて関連する診療科が集まるクラスター診療を推進します。
広々としたスペースは患者さんの快適さの向上にも貢献するでしょう。外来スペースについてもブースの数を増やし、診療科ごとに受付から会計まで完結できるよう工夫しました。待ち時間の短縮につながると期待しています。
医療従事者や医学部、看護医療学部、薬学部の学生たちが勉強をしたり、ミーティングしたりと、誰でも自由に利用できるスペースも設けました。教育面でもベストな環境が整ったと思います。
当院のすぐそばで新国立競技場の建設が進んでいます。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には、一定数の外国人患者の受け入れも想定しています。院内表示、多言語への対応など、国際化に向けた準備にも取り組んでいるところです。
新病院棟は職員のモチベーションを引き上げるに違いありません。ただ、これまでやってきたことを単に移し替えただけでは、新しい時代に対応できない。
私の最大のミッションは働く仕組みをどう変えていくか。病棟ごとのローカルルールなども撤廃し、設備や人材の共有化、各部門の標準化を進めます。働き方改革がさけばれる中、チーム医療によって質を落とさない。いや、むしろ高めながら個々の負担の軽減に挑みたいと思います。
―外科学の教授として人材育成の方針を。
外科医の希望者が減少しつつある現状にあっても、全国でも有数の入局者数を維持しています。
まずは、関連病院で外科専門医取得の要件を十二分に満たすほどの豊富な手術経験を積んでもらいます。「外科医のやりがい」を育んでもらうのです。その上で専門性を絞ったら、目指す方向性に合った関連病院でさらに修練していく。
「外科」という広い間口から入り、しだいに個々が自分の道を見つけていくシステムです。私自身も「こんな研修を受けたい」と思える仕組みを、50を超える関連病院と一緒に作り上げました。
当院の伝統の上に成り立つ教育システムだと思います。というのも病院開設と同時に開講してから100年近く、ナンバー講座制ではなく一つの「外科学」として活動してきました。幅広い領域を学べる環境は、新制度が目指す専門医のあり方とも合致すると考えます。
臨床研究中核病院、がんゲノム医療中核拠点病院に私大病院として唯一選定されるなど当院には新たな医療を創出する責任があります。福澤諭吉先生もおっしゃった「社会の先導者たれ」が一つのキーワード。私の世代が思いもしないような「次の医療」を描ける人材を輩出したいですね。
慶應義塾大学病院
東京都新宿区信濃町35
TEL:03-3353-1211(代表)
http://www.hosp.keio.ac.jp/