病院経営に新しい視点 ブランド戦略で患者数増加
1906年開設。百十余年の歴史を誇る横須賀共済病院は、神奈川県三浦半島において高度急性期医療の最前線を担う基幹病院だ。長堀薫病院長は院長就任後、さまざまな改革を試みている。
―病院経営で力を入れていることは。
経営の柱は人材育成とインフラの充実。病院経営を先導するのは事務職ですので事務から隔年1人、MBA社会人大学院に入学させています。最初の職員はデータサイエンスを学び、培った分析力で全国における当院の位置付けを可視化。何が得意でどこを伸ばすべきかを明確にしてくれました。
医師について言えば、外科系は全国トップ50に入る手術件数をこなしています。循環器内科には最新治療を行うスタッフがそろい、さらに新しい技術を学ぶため、フランスに留学中の医師もいます。2014年に小児科も復活。周産期医療にも力を入れています。
毎月、横須賀米海軍病院から医師に来ていただき、研修医への英語の講義を実施。英語で発表する機会を設ける意味もあり、年2回、臨床病理検討会も同院と開催しています。
インフラでは最新のCT4台、MRI3台、血管造影装置8台を導入し、2017年には、手術支援ロボット「ダビンチ」を設置。今春、保険適用の範囲が広がったので、外科、婦人科などに、どんどん取り組むよう指示を出しています。
私の着任後、離職率は4年で3%減。職員を大切にする姿勢を示したほか、組織全体に変化を起こすことを目指す「システミック・コーチング」を取り入れたのも大きいと感じています。
―ブランド戦略にも積極的です。
2015年、院内外に当院の魅力を発信するため、ブランド推進室を作りました。ヒントをつかんだのは、MBAの経営セミナー。ビジネスの基本から学び、当院に欠けているのはマーケット戦略だと気付いたのです。普通の会社なら当たり前の「情報発信」をしてこなかった。私たちが質量ともに高い医療を提供していることを、職員でさえ自覚していませんでした。
イベントなどを積極的に仕掛けた結果、周知が進み、患者数は年3%ずつ増加。院内外の医療従事者向けにも、年に1回「幸せを育む講演会」を開き、ダライ・ラマの主治医であるバリ・カーズイン先生や、自然写真家の西村豊さんに来ていただきました。
―今後の方向性を。
地域には、当院以外にも医師会が整備した救急センター、慢性期主体の病院、総合病院、開業医と、質の高い医療プレーヤーが揃っています。地域医療構想が打ち出される前から、これらの機関が連携すれば、非常に高度な医療が提供できるのではと考えていました。
そこで、慢性期中心の8病院と協約を作り、ネットワーク化を進めています。それぞれの病院の得意分野に合わせ当院の患者さんを振り分けるという仕組みです。今は、双方がウィンウィンになる形を作るために模索しているところ。当院が軸となり、協約の幅を広げて絆をもっと強くすることが今後の課題です。
2025年問題もあり、国民は医療への意識を変えなければいけない時代に突入します。患者数は増加し、医療従事者は不足する。満たされた医療が国民全員に提供されて当然という世の中ではなくなるでしょう。
今、着目しているのはAIです。診療報酬や人手不足が厳しくなる中、AIを活用して、付加価値のあるところに人をシフトできないか、と。予防への取り組みにも力を入れたいですね。健康への意識を高めることも、医療現場の未来への投資ではないでしょうか。
いつも「新しいことをやれ」と先達から言われていました。やるからには徹底して取り組み、一流を目指したい。横須賀共済病院があることを誇りに思ってもらえるような病院づくりを、これからも進めていきます。
国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院
神奈川県横須賀市米が浜通1-16
TEL:046-822-2710(代表)
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