可能性は未知数 神経内科の魅力
「三重県は神経難病を研究するには非常に興味深い地域」と語る久留聡院長。院長に就任して1年が経っての思いと、若い医師に発信していきたいという神経内科の魅力を聞いた。
◎院長に就任して1年「ロボットリハ」スタート
当院に着任して21年、院長に就任して1年が経ちました。病院の経営状態は比較的安定しており、小長谷正明・前院長の時代から約10年をかけて施設整備を進めてきました。現在建設中のエネルギー棟が完成すれば、ハード面の整備はほぼ完了です。
神経・筋難病疾患に対して、ロボットスーツHALを使用した歩行機能訓練が2016年に保険適用になったことを受け、当院では2017年7月に導入。扱う医師・メディカルスタッフの講習や機器の調整などを経て、今年に入り本格的に稼働を開始しました。
介助があれば自力で10mほど歩行できる患者が主な対象です。疾病への効果、適切な使用頻度、他の疾病への効果については未究明の部分が多く、研究的側面の大きな分野。今後は国立病院機構内の他の施設と連携して共同研究を進めていく予定です。
◎患者本位の医療を
できる限り患者の希望に応えた医療を提供することで、生活の質の向上とさらなる充実を目指しています。
神経難病の場合、全く意思疎通できない人もいれば、意思疎通できる人もいるなど、知的・認知機能はさまざま。完全に意思表示ができない患者は家族の希望を優先します。増悪が進んでいない患者の場合は、積極的な治療をどこまで希望するかなどの要望を聞いて治療の方針を決定し、できる限り患者本位の医療を提供するようにしています。
また医師や看護師、リハビリスタッフはもちろん、精神的な問題を抱える患者には臨床心理士や精神科医が段階に応じて寄り添い、ケアしています。
◎三重県の地域性と神経難病の研究の魅力
三重県牟婁(むろ)郡を中心とする紀伊半島南部は、ALSとパーキンソン認知症複合(PDC)という神経変性疾患の世界的多発地域です。その発症頻度はALSが日本平均の10〜20倍、PDCは世界平均の50〜100倍と言われており、これらは「紀伊ALS/PDC」また「牟婁病」と呼ばれています。
一時は収束したと思われていましたが、近年また増加傾向にあることから、昨年10月、三重大学の紀伊神経難病研究センターとともに南牟婁郡紀宝町に現地調査に行きました。原因も治療法も未解明ですが、三重大学や他の医療機関とも協力しながら患者をしっかりとフォローし、亡くなった後は病理解剖することで解明につなげていきたいと考えています。
1950年代から1970年代に多発した整腸剤キノホルムを原因とする神経難病「スモン」。キノホルムが販売中止になった1970年以降、新規の発症はなくなりました。
国はスモン患者の恒久対策として「スモンに関する研究調査班」を設置。当院は事務局としての役割を担っています。2017年現在、全国にいるスモン患者は1320人。スモンの薬害に苦しむ患者の最後の一人まで、健診と健康管理に努めることで責任をもって患者を支えていきます。
重症心身障害や神経内科などの旧療養所系の診療科を専門として選ぶ医師は少なく、医師の高齢化が深刻です。そこで、急性期病院では診療する機会の少ない筋疾患をより深く知ってもらう場として年に一度「鈴鹿夏季筋セミナー」を開いています。開催は今年で8年目。参加して興味を持った人の中から神経内科や当院を選ぶ人が出てくることに期待しています。
三重県は牟婁病を含め他の地域にはない独特の神経難病があるなど、神経内科医にとっては興味深い地域であると言えます。三重県で神経内科を学ぶことの魅力を今後より一層、若いドクターに向けて発信していきたいですね。
独立行政法人国立病院機構鈴鹿病院
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