前向きな思考転換で良い組織を作る
31年間臨床一筋。仕事で断ったことは一度もない。そんな磯部潔院長はある時、病院経営を一任された。読破した1500冊の書籍から学び、実行していることとは。
◎止めることのできない医師の流出の現状
2017年4月、20ある政令指定都市で初めて、静岡市は人口が70万人を下回りました。深刻な人口減少の大きな要因となっているのが若者の県外への流出。それには東京都や大阪府といった大都市へのアクセスが良好な静岡県の立地が影響していると言えます。
静岡県の専攻医減少率は47都道府県中トップの35.4%減。医療においても専攻医の県外流出は顕著です。
静岡県は東西約150kmに伸びる長い地形が特徴的です。県内で唯一医学部を持つ浜松医科大学がある浜松市に専攻医の8割以上が集中するなど、専攻医の偏在も深刻です。
県内の医師不足を解消しようと静岡県は、県内の病院に卒後9年間勤務することを条件とした、返還不要の奨学金を静岡県内外の大学で学ぶ医学生120人に出すなど、医師の確保に取り組んでいます。
私も毎週金曜日は、医師派遣の要請で近隣の大学を訪問するなど、当院も医師の確保には苦慮しています。
◎幸せな気持ちで仕事をしよう
人口減少と専攻医流出の流れを止めることはできまん。しかし、幸いにも静岡赤十字病院には85年の歴史と伝統があります。理念にもある"人道・博愛・奉仕"という同じ方向を向き、職員全員がまとまっているのは赤十字のブランド力です。
これらを生かした病院づくりをすることで魅力を高めて、人が集まるマグネットホスピタルを作ることこそ、医師不足解消のための手段だと思うのです。
2006年に副院長に就任し、経営を任された私は1500冊の書籍を読み、そこから病院経営のヒントを得ることにしました。
また同時期に、働く環境についてなどを5段階で評価する職員満足度調査を始めました。調査の結果、同じ部署でも、不満が募って「1」ばかりの低評価を付ける人と、「5」がほとんどの高評価を付ける人に回答は二極化しました。
医療は人が人に直接サービスを提供する、極めて労働集約的な仕事です。患者に優しく接するためには、各個人がプライベートな時間の充実を図り、気持ちに余裕を持つことが重要です。
職員満足度調査で低評価をする職員は「周りが悪い」「私はかわいそう」と考えがちです。問題を不満で終わらせるのではなく、「それは自分に変えられることかどうか」と考え、変えられることであれば、「今後どうしていくか」と前向きな見方で問題と向き合ってほしいのです。「私が行動しよう、提案して変えていこう」という自立した考えを持つ人が集まれば、自主的で良い組織をつくることができると考えています。
大事なのは調査の結果そのものではなく、結果に対してどのようにフィードバックを行うか。さらに低評価をした職員をどうサポートしていくかです。
職員には「幸せな気持ちで仕事をしよう」と常々言っています。この考えが浸透し、良い方向に変わっていくことを期待しています。
◎患者が希望する最善の医療を
高齢の患者が増える中、人工呼吸器をつける、心臓マッサージで蘇生するなどの高度な医療が患者を苦しめることもあります。
10人いれば10通りある患者の希望を正確に把握し、その人に合った最善の医療を提供することで患者の希望に応えていく。そのためには、患者が理解しにくい専門性の高い内容は丁寧に説明するなど、誠実な対応と高いコミュニケーション力が欠かせません。自分で判断し、主体的に行動することが職員全員に求められているのです。
一方で、高度な医療を希望しない患者に医療をしない勇気というのも、今後必要になってくるでしょう。
静岡赤十字病院
静岡市葵区追手町8-2
TEL:054-254-4311(代表)
https://www.shizuoka-med.jrc.or.jp/