増える成人先天性心疾患 情報発信と後継育成が要
小児先天性心疾患の治療を受けた患者が成人し「成人先天性心疾患」となるケースが増えている。岡山大学心臓血管外科は、国立大学として全国初となる専門センターを2014年に開設。同講座の3代目教授に就任した笠原真悟教授に課題などを聞いた。
―成人先天性心疾患への取り組みを教えてください。
小児先天性心疾患の治療成績が飛躍的に向上した結果、多くの患者さんが成人を迎え、成人先天性心疾患となる比率が非常に高くなりました。さまざまな制度で保護されていた子どもの頃とは違い、病気を抱えながら自分の力で社会生活を送らなくてはなりません。
そのため、心疾患はもちろん、全身疾患、精神面や社会的なケア、妊娠、出産への対応など、多方面からの支えが必要となります。そこで2014年、心臓血管外科を中心に循環器内科、小児科、麻酔科、産婦人科、メディカルスタッフなど各専門分野の専門家が結集して診療にあたる「成人先天性心疾患センター」を開設しました。
国立大学としては全国初の試みで、小児も含め、国内有数の実績を積んでいるという当大学の強みが生かされた施設になりました。開設から間もなく、全国から患者さんがお越しになり今後も増え続けると予想されます。
―課題や要望は。
大きく分けて三つあります。一つは、循環器内科の医師に成人先天性心疾患の周知を徹底し、当センターのような専門施設に紹介をうながすこと。日本における患者数は45万人を超えたと言われていますが、現場でもまだまだ認知されてないのが実情です。
教授就任後は各方面から講演依頼がありますので、成人先天性心疾患の普及活動を積極的にしています。講演先では、聴講した医師から「どこに紹介すればよいか分からなかった」といった声も聞かれました。
二つ目は、保護者に対してですが、患者さんの手術や病気の既往歴を記録すること。先天性心疾患の患者さんが30、40代になる頃には、その両親は70、80代。記録がなければ親の記憶も薄れますし、子どもに病気のことを伝えることなく亡くなってしまう場合もあります。発症後に適切な治療が受けられるよう、親が子に病気の記録を残してあげることが大切です。
そして三つ目は、経済的な保障を中心にした支援の充実です。一生涯付き合わなければならない病気なので、国のサポートが必要だと感じています。
―2017年に教授就任。今後の展望は。
岡山大学はチーム力が強い。当科は医師13人で、年間の症例数は小児が約400件、成人は60〜70件の実績がありますが、それは麻酔科、小児科、新生児科、看護師などを含めたトータルの力があってこそ実現できる数字です。
チーム力の底上げを図るため、当大学の22の関連施設を統合する「岡山大学病院群心臓血管外科専門医プログラム委員会」を設立しました。今、同門の施設に赴いてトレーニングをするプログラムを作り、実践しています。同委員会を活用することで同門の先生たちと足並みを揃えながら、心臓血管外科の未来を担う若手を育てたいと思っています。最近は女性の医師も多い。特に小児の場合は繊細な技術が求められるので、ぜひ積極的に進出してもらいたいですね。
定年までの期間を三つの時期に分けて考えています。最初の4年は足場固め。良い人材を揃えて、育てたい。次の4年は成長した精鋭たちと、チャレンジ精神を持って実績を積む。そして最後の4年は、後進に道を譲るための準備期間に当てたいと考えています。
スムーズな世代交代は組織の責任者としての責務。しっかり準備をしてバトンを渡すことが、私に課せられた使命です。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科心臓血管外科
岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-223-7151(代表)
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