患者にプラスになること それができる環境をつくる
在院日数短縮、在宅医療強化での再発防止、発達障害のケアに力を入れてきた岡山県精神科医療センターの中島豊爾理事長。4月、精神科の病床または外来を持つ公的病院と新団体を設立し、会長に就いた。そこに込められた願いとは。
―新団体設立の趣旨は。
これまで精神科医療に関する団体は、民間病院を中心に集まった「日本精神科病院協会」しかありませんでした。公的病院の精神科に対する意見も国などに届ける必要がある。窓口がほしいと思ってきました。
「日本公的病院精神科協会」ができたことで、やっと民間病院中心の団体と公的病院の団体、双方ができました。私たちの協会は、「精神科病床の有無にかかわらず参加できる」のが特徴で、自治体立や国立病院機構、日本赤十字社、済生会、厚生連の計138病院(4月13日現在)が加入しています。
日本の精神科医療は、他診療科における標準的な医療から遅れているのではないか。国の政策とも逆行しているのではないか―。
例えば、血液やCT、MRIなどの身体検査は精神科であっても必要ですが、全精神科でされているとは言い難い。必要性が低い行動制限や長期間の入院を続けている医療機関も一部にはあります。
もっと精神科医療の質を底上げしていかなければならない。そこで新団体では参加医療機関協力のもと、インターネットを活用して患者の精神、身体を含めたさまざまなデータを集積。治療の検証や教育につなげます。また、あるべき医療に対して現状はどの位置にいるのか、それを測る指標として何が適切なのかなども検討していきたいと思っています。
―「地域医療を守る病院協議会」にも関わっています。
国内には日本病院会、日本精神科病院協会、日本医療法人協会、全日本病院協会でつくる「四病協」と日本医師会があり、その中でまとまった要望等が厚生労働省へと上がっていきます。
しかし、その枠組みだけではへき地医療など抜け落ちてしまうものがある。病院経営が立ち行かなくなり閉鎖、診療所も閉じて医療がなくなり、消えゆく村々も多くあります。
岡山県はへき地ではありませんが、当院が「精神障害者にとってプラスになること」「必要なこと」をしようとすると、もう財源がない。専門的な職員を育成し、十分な賃金を払い、急性期の精神科医療を担いつつ、増え続ける発達障害の人に十分に手を届かせたいと思っても、経営的に限界にさしかかっているのです。
現状を打破するには、国に働き掛ける必要があります。協議会には、そんな思いで携わっています。
―発達障害への対応が急がれているということですね。
2016年度当院を受診した「心理的発達の障害」の人は396人。20歳以下が282人を占めます。
幼い時期に診断し、得意なことを伸ばして、社会のルールを守れるように療育すれば二次障害、三次障害を起こさずに成長できる可能性が高くなる。早い時期の適切な診療が必須です。
ただ、課題はあります。一つ目は、療育に目が向けられていない時代に育った人たちが今、成人となっていること。「引きこもり」とされる人の中に、発達障害の人が相当数含まれているのではないかと思います。
二つ目は「過剰診断」を主張するなどして子どもへの診断を拒む人の存在。本当に子どもにとってメリットがあることは何か、という視点に立てば、やはり診断名がつくことに意味があると思うのですが、軽い自閉症スペクトラム(ASD)はパーソナリティー、性格の問題だとする人もいます。
早期発見し、診断、療育につなげるには、どうしたらいいのか。私自身の中でも、ベストな方法は見いだせていませんが、何とかしなければと思っています。
地方独立行政法人岡山県精神科医療センター
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