画像という武器を用いて本当の問題を見抜く
「次のブレークスルーはAIがもたらす」と語る山下康行教授。同時に「だからこそ人間の判断がより重要になる」と強調する。放射線診断の現在地、そして未来を聞いた。
―来年の学会の準備はいかがですか。
2019年4月11日(木)〜14日(日)、パシフィコ横浜で開かれる「第78回日本医学放射線学会総会」の会長を務めます。第75回日本放射線技術学会総会学術大会、第117回日本医学物理学会学術大会、2019国際医用画像総合展との合同開催です。
今回、テーマを「革新的な放射線医学を ―患者に寄り添って―」としました。「革新」の部分については「AIの導入」をメインの話題として取り上げたいと考えています。
CT、MRIといった画像診断機器の性能は、30年ほどの間で目覚ましい発展を遂げました。いまや7テスラのMRIの導入なども少しずつ広がっています。そうした中で、AIは診断の支援をはじめ、画質の向上や被ばく量の低減における大きな進化をもたらすと考えます。
一般的に高画質の画像を得るためには、比例して検査時間を多くかける必要があります。そこでAIに画像処理のパターンを学習させることで、短時間で撮った画像のノイズを除去し、上位機種と比較しても遜色のない画質に自動的に加工する。そんな技術の研究も進んでいます。
私もメーカーとの共同研究などに関わる中で、実用化への手応えを実感しています。うまく活用すれば放射線診断専門医が不足している現状の改善にもつながるかもしれません。
一部の読影診断はコンピューターの作業に置き換えることも可能でしょう。高度で難しい判断などについては人間が担う。よく「AIが仕事を奪う」という論調もありますが、AIには利点ばかりではなく欠点もあります。それを理解した上で共存する方法を探ることが大事だと思います。
一方、医療資源を賢く有効に使おうと、世界的に「チュージング・ワイズリー」という動きが広がっています。人口10万人当たりの医療施設のCT、MRI保有台数は日本がナンバーワン。ただし、画像診断の質については必ずしも標準化が図られているとは言えません。患者さんに十分なメリットを提供できているかどうかも大いに疑問です。
来年の学会で「患者に寄り添う」をテーマに含めたのは、あらためて私たちの医療のあり方を見直そうというメッセージを発信したいと考えたからです。
―教室の特徴は。
低被ばくのCT検査の追求など、当教室の研究実績は全国的にもトップレベルにあると自負しています。
放射線診断医の強みは視野の広さだと思います。私が学生によく言うのは「画像という武器を用いて患者の全身を診る」のが専門医であるということ。
ピンポイントの専門性をもつことも大事ですが、その土台としてジェネラルな力があって初めて、患者さんの本当の問題に気づくことができます。
訓練を自然に重ねられるよう毎週、症例検討会、研究のカンファレンス、抄読会を全員参加で欠かさず開いています。医局全体で作成した教育用のティーチングファイルシステムなども活用し放射線診断のあらゆる領域を学習できる環境を整備。外来や当科の病床で患者さんと接する機会の確保にも努めています。
認知症の鑑別やがんの予後予測などをAIで解析する試みも進めたい。また現在、冠動脈治療の必要性を判断するFFR(冠血流予備量比)の検査はカテーテルを用いていますが、私たちの研究によれば画像診断でもほぼ同じ評価が可能。常にさまざまな技術革新が起こっています。
技術を使いこなすと同時に、私たちは画像の向こう側に悩みを抱えた患者さんがいることを忘れてはいけない。この点を何より強調しておきたいと思います。
熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学分野
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/radiology/