名古屋市立大学大学院医学研究科腎・泌尿器科学分野 安井 孝周 教授

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東海地区唯一 融合画像使い針生検

【やすい・たかひろ】 東海高校卒業 1994 名古屋市立大学医学部卒業 2000 同大学院修了 2003 同大学腎・泌尿器科学分野助教 2010 同講師 2015 同教授

 尿路結石、がん、男性不妊など、幅広い領域の研究、診療に取り組む名古屋市立大学大学院医学研究科の腎・泌尿器科学分野。名古屋市立大学医学部附属病院は2017年6月、前立腺がんの疑いがある人への生検法で先進医療実施施設の承認を得た。安井孝周教授は「正診率が向上しているという実感がある」と手応えを口にする。

◎全国4カ所目

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 2017年6月、前立腺がんが疑われる人に対する先進医療「MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく針生検法」を開始しました。当時、全国で4カ所目。現在も5カ所しかなく、東海地区で唯一です。

 一般的に、「前立腺がんの疑い」があるとわかるのは、自治体や勤務先の検診時。PSA検査によってです。これは非常に敏感なマーカーで、がんでなくても生検の必要があるとする「要精査」という結果が出る場合があります。

 それまでは、超音波画像を見ながら前立腺の十数カ所に針を刺す系統的生検をしていました。しかし、早期でがんがまだ小さい場合、がん細胞を採取できないこともあったのです。針を数多く刺せば、診断の精度は上がりますが、合併症が起きる可能性も増えてしまいます。

 この先進医療では、最新の装置「バイオジェットシステム」を使い、事前に撮影したMRI画像を生検時の超音波画像上に融合。その画像を見ながら、がんがある可能性が高い場所を狙って、針を刺すことが可能です。

 融合画像を使うことによって、小さながんを見落とすリスクを低減できます。早期診断ができれば、根治することも可能となります。開始からまもなく1年、約50例に実施し、「診断の精度が上がっている」という実感があります。保険収載に向けて、データを積み重ねていきたいと思っています。

◎結石など5領域で研究

 ここでは、「尿路結石」「尿路悪性腫瘍」「小児泌尿器科」「男性不妊」「排尿生理」の5グループに分かれて基礎、臨床研究に取り組んでいます。

 私の専門でもある「尿路結石」については、石が小さいうちに薬剤で溶かすことができないか、研究を進めています。

 結石はカルシウムを主成分とし、大きくなって下降すると痛みが出ます。治療法は痛みを取りながら自然に出るのを待つか、内視鏡などで砕石するか。そこで、結石が小さなうちに溶解する治療法の開発を目指しています。

 当研究グループでは、微小な結石が自然消失する現象を発見しました。それまでは、一度形成された結石は消失しないと考えられていました。しかし、新たに発見した消失過程に、マクロファージの貪食作用が関わっていることがわかってきたのです。

 そこで、マクロファージの働きを活性化させ、結石ができにくくなる方法を探っています。この研究は、結石溶解治療の開発に発展させることができます。

 薬や食事のように、体に負担のない方法でマクロファージを活性化できるのなら、多くの人に実践してもらえるのではないかと思います。

 尿路結石は、生活習慣病の一種で、環境が大きく影響します。発症は40〜60代が多く、高血圧や糖尿病など他の生活習慣病に比べて早い段階で劇的な症状が出ます。

 食生活や尿量のほか、酸化ストレスといった細胞レベルでも、できやすい環境があります。食生活の欧米化で結石に良くないとされる脂質を多く取るようになり、罹患(りかん)者は増加しました。全国の調査では、1965年から約3倍に増加したと報告されています。遺伝子レベルで研究が進んでも、画期的な再発予防法は開発されておらず、急務となっています。

◎がんに温熱療法

 「尿路悪性腫瘍」では、温熱療法を取り入れています。泌尿器に多い固形がんに有効な方法です。がん細胞に親和性のある磁気を帯びた微小な粒子を注入し、磁場照射します。がん細胞だけを高温にし、死滅させることができます。

 まだ、がんの場所によっては到達させられないこともありますが、他の治療法でうまくいかなかった患者に新たな選択肢を提供できると思っています。どの程度進行した時点で使うのが効果的か、さらに研究が必要です。

◎小児専門分野を新設

 小児の泌尿器の先天異常も重要なテーマです。腎・泌尿器科学分野でも研究していますが、昨年4月には新たに「小児泌尿器科学分野」を設置しました。診療では両分野で協力し合っています。大学で小児泌尿器疾患を独立した分野として研究、診療しているのは、全国でここだけだと思います。

 小児疾患で多いのが「停留精巣」。出生前に陰嚢(いんのう)まで下降してくるはずの精巣が、腹腔内や鼠径管内外にとどまっている状態です。

 治療の基本は手術です。本来あるべき陰嚢に精巣を下ろし、固定します。ただ、停留精巣の子は将来、精子ができなくなり、不妊になる確率が高まります。なぜ精子が形成しにくいのか、手術以外の方法で治療できないか、また治療法によって妊孕(にんよう)性に変化はあるのか、研究に取り組んでいます。

 さらに、小児の膀胱(ぼうこう)尿管逆流や水腎症でもロボット支援下手術を実施しています。

◎注目の過活動膀胱

 「排尿生理」に関しては、高齢になると増える過活動膀胱の治療にも力を入れています。最近、テレビなどで啓発されたことで認知度が上がり、受診者も増えています。「突然尿意をもよおし、がまんできない」「頻繁にトイレにいく」「トイレに間に合わず漏らしてしまう」ことが主な症状です。まだ、原因がはっきりと解明されていません。

 発症する前の早い段階で診断ができないかと考えています。そのために、症状の程度を調べる方法の開発を進めています。

 もし、尿の成分を調べるだけで病気を診断したり重症度を調べたりできれば、患者の負担は今よりも少なくて済みます。

 「男性不妊」では、無精子症の患者さんの精巣から精子を採取することによる人工授精に取り組んでいます。顕微鏡を使った手術で精巣の中の精細管を確認します。精子が見つかれば、取り出して人工授精を試みます。無精子症を扱っている施設は少ないため、遠方から来る方もいます。

◎手術の方法も進化

 前立腺がんや腎がんなどでは、2011年から手術支援ロボット「ダビンチ」による手術に取り組んでいます。腹腔鏡手術についても、普及し始めた2002年ごろから、前立腺がんに対して取り入れるなど、新しい技術を早い段階で導入してきました。

 腹腔鏡手術は、一般には成人のがんに多く使われる方法ですが、私たちは小児の疾患にも対象を広げています。

 鏡視下手術は傷が小さいので回復も早く、合併症も少なくて済みます。先端の細い内視鏡が開発されるなど機器も進化してきており、患者さんの負担もさらに減ってきています。

◎気持ちに寄り添って

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 疾病発症の機序解明は、どこまでいっても「終わり」がありません。ある特定のタンパク質が原因であるとわかっても、なぜそのタンパク質が発現するのか、どのようなメカニズムで「悪さ」をするのか、診療にはどのように生かせるのか、研究は尽きません。

 自分たちが取り組む治療についても、そのまま継続していいのか、検証する必要があります。

 扱う領域が広い泌尿器科なので、さまざまな専門領域があります。専攻医や若手泌尿器科医には、泌尿器科一般診療ができるようになった上で、自分の専門分野を持ってほしい。そして、診療成績と研究成果を発信してもらいたいと考えています。

 患者さんにとっても、自分の病気を専門的に扱っている医師がいるということは、安心につながると思います。

 エビデンスを基に診療に当たるのはもちろんですが、患者や家族の気持ちに寄り添うことがとても大切です。医学的にベストな治療法がすべての人にとって「良い治療」であるとは限らないのです。患者、家族の話をしっかりと聞き、きちんと治療について説明する。患者にとっての最良の治療法を一緒に考えていける医師を養成したいと考えています。

名古屋市立大学大学院医学研究科腎・泌尿器科学分野
名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1
TEL:052-851-5511(代表)
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/uro.dir/


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