踏み出した変化への一歩 基盤は「満足の創造」
40歳を目前に1月、トップに就いた金重総一郎新院長。70年近い病院の歴史を受け継ぎながら、「医療者の新しい働き方を全国に発信できる病院にしたい」。そんな未来図を描く。
―新体制での運営は
当院は泌尿器科と産婦人科、透析医療を柱として1951年に開設しました。1992年、前院長の岡部亨医師が救急科をスタート。2次救急の体制を確立し、慢性期と急性期の両面の底上げを図ってきました。
この1月以降は、病院内部のマネジメントについては私、地域連携は地域医療推進部長に就任した岡部を中心とする体制を敷いています。
ここ岡山市北区の御津医師会は在宅医療の推進に力を入れており、「ときどき入院、ほぼ在宅」の仕組みづくりを目指しています。
「慢性期に近い救急患者」を多く受け入れている当院が「ときどき入院」の部分を担う。ある程度回復したら、在宅医療に取り組む先生方にお任せする。密な連携に努め、スムーズに自宅に戻れる流れを確立しています。
また、2016年に整形外科を開設。脊椎を専門とする医師が着任しました。小切開での鏡視下脊椎手術を中心に行っており、関節系の疾患などについては近隣の医療機関と一緒に診療に当たるなど、地域との協力体制もさまざまな形で広がっています。
今後、予定している計画の一つとしてグループ病院の「岡山中央奉還町病院(岡山市奉還町)」と当院の統合があります。奉還町病院は回復期リハビリテーション病棟、緩和ケア病棟、透析の機能を有し、当院で手術した患者さんなどを受け入れ、在宅復帰を後押ししています。
現在、岡山中央病院は急性期病棟のみ。地域の慢性期病棟へのニーズは高いため、2病院の機能を合わせることで、幅広い患者さんを受け入れます。当院の駐車場の一画や隣接地を活用し、新たな病棟の建設を検討しています。
当院のルーツである産婦人科領域では、地域貢献の意味でも、お産の体制をもっと充実させていきたい。お産の数は年間で700件ほど。気持ちとしては、地域はもとより、国内でも有数の出産数の病院を目指したいと考えています。
産科外来、病棟の大幅なリニューアルを計画しています。ご家族みんなで貴重な時間を過ごすことができる空間をつくり、2人目、3人目もここで産みたいと感じてもらえる。そんな病棟にすべく、プランを練っているところです。
女性専用外来をもつ隣接の関連施設「セントラル・クリニック伊島」の機能も含めて全体を見直し、女性の健康を総合的にサポートできる環境を再整備します。
―院長の専門は放射線治療ですね。
「放射線がん治療センター」を拠点に高精度放射線治療を提供しています。岡山市内に数ある医療機関の中でも、強度変調放射線治療(IMRT)を実施しているのは当院を含めても数施設。前立腺がんのIMRTや乳がんの術後照射を中心に、緩和的放射線治療にも積極的に取り組んでいます。
2012年のセンター開設時に、中四国地方で初となる動体追尾機能搭載の最新鋭リニアックを導入。肺の腫瘍に対してピンポイント照射が可能です。国内でも、いまだ十数台しかありません。
早期のがん、特に肺がんを対象とする放射線治療の成績は「切る治療」と比較しても遜色ありません。外来での1回当たりの治療時間は、およそ20分。平均して4回ほどで終了します。痛みはなく、かなり高齢の患者さんであっても生活はほぼ「いつもどおり」。副作用を起こす割合は、極めて少ないのです。
以前なら「もう治療方法がない」とされていた患者さんでも、現在の放射線治療の技術であれば、根治を目指すことができます。
近年、オリゴメタスタシス(少数転移)は積極的な治療が長期生存に寄与するとも言われています。がん患者さんがもつイメージは「転移したら終わり」。でも放射線治療で長期間、生活の質を保つことができるかもしれない。その可能性を伝えていきたい。
「自分らしく生きる時間」を少しでも長く過ごしてもらうために「2度目の照射」を見すえた緩和治療を提案することもあります。照射後、状態が上向いたら抗がん剤治療が可能となる患者さんもいます。徐々に抗がん剤が効かなくなり、状態が悪化してきたら再び放射線治療を施す。
限局的な照射によって正常細胞への影響を抑えられるからこそ可能な治療法です。侵襲が大きい治療を繰り返すことは難しい。放射線治療の低侵襲性は患者さんの負担減はもちろん、前向きな気持ちを引き出すことにもつながります。
そのほか、放射線治療が高い確率で進行性胃がんに伴う出血を止めたり、食道の狭窄を改善したりできることは、医療者にも意外と知られていません。
一般的に、放射線治療は緩和治療の第一選択とは考えられておらず、普及を目指して、地道に有用性をアピールしていきたいと考えています。
―「働き方」については。
開院以来、当院が大事にしてきたのは職員一人一人の心の成長です。その心をもって提供する医療が、患者さんを、地域を幸せにすると確信しています。では、どうやって成長を持続していくか。それを考えるのが私の仕事です。職員の成長を促し、長く、楽しんで働ける職場でなければ成長の機会も奪われてしまいます。もう少し余裕ができるといいのではないかと感じています。
そのために人間でなければできない領域、ICTなどで補える領域を、しっかりと整理して優先順位をつけたいと思います。私が当院で勤務し始めた2012年は、電子カルテシステムの入れ替えに着手したタイミングでした。責任者の一人としてプロジェクトに携わったことで、病院全体がどう動いているのか、何を電子化すれば効率化を図ることができるのか、よく理解することができました。
効率化による最大のメリットは、時間を生むという点だと思います。患者さんに対してもっと力を入れるべき部分を手厚くすることができる。医療の質は、職員が時間に追われていてはなかなか上がりません。
治療方法に関して、ある範囲はコンピューターが説明し、患者さんが疑問に感じたことについて特に医師や看護師が時間をかけて説明し納得してもらう。そんな労力の配分もできるでしょう。若い人の登用なども進め、新しい働き方を推進する部門を立ち上げます。どんな仕組みを、どう活用すれば医療者の働き方を改革できるか。全国に向けて成功例として発信できるものにしていくつもりです。
―目指す病院の姿は。
同じ診療内容であっても満足する患者さん、そうでない患者さんがいます。確かな技術と知識をもつことは大事なのですが、目の前の患者さんにそのまま当てはめていいとは限りません。
特にがんの場合、全力で治療して取り除いたものの、寝たきりになってしまうことだってありうる。数年しか生きられないかもしれないが、できるだけ苦しまない生活を送りたいと、病気と付き合っていくことを選択する方もいます。
患者さん、職員の両方に対する満足度の向上を追求していきたい。グループ内の統合など、これから当院は大きく変わっていきます。その基盤が「満足の創造」だと位置付けています。
社会医療法人 鴻仁会 岡山中央病院
岡山市北区伊島北町6-3
TEL:086-252-3221(代表)
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