社会医療法人平和会 吉田病院 宮野 栄三 院長

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「こころ」と「身体」にシームレスなケアを

【みやの・えいぞう】 1981 奈良県立医科大学卒業 1989 医療法人平和会吉田病院(現:社会医療法人平和会吉田病院)副院長 2002 きたまちクリニック所長 2015 社会医療法人平和会吉田病院院長

 「白衣は着ません。ふとした会話の中にアンテナを張って、患者がどんな暮らしをしているのか耳を傾けます」と語る宮野栄三院長。患者が欲しているものは何か。何がいま必要なのかと模索し、たどり着いた病院の在るべき姿とは。

◎奈良県の精神科病院と認知症患者の実情

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 奈良県の精神科救急は、全県を一つの区域として、当院を含めた8病院による輪番制で患者を受け入れています。県内の精神科病院は10病院と少なく、地域で分けることができないため、吉野町や橿原市、大和高田市といった他地域から救急システムで入院してくる患者も珍しくありません。

 超高齢社会に伴い、自宅や施設では対応困難な妄想、興奮、徘徊など、重度のBPSD(周辺症状)の患者が増加傾向にあります。それに伴いスーパー救急病棟を2017年8月に43床から60床に増床するなど、認知症医療には特に力を入れています。

 奈良市からの委託事業として、看護師と社会福祉士による「奈良市認知症初期集中支援チーム」を作っています。行政や家族から依頼を受けて、認知症の疑いのある患者の自宅を訪問し、本人や家族と面談。その後カンファレンスを行って評価し、必要に応じて介護や医療、行政のサービスを受けられるようにつなげていきます。

 認知症に関する知識やノウハウがなく、困っている人も潜在的に多く、地域におけるこの活動の重要性を強く感じています。

◎吉田病院のはじまり

 1928年に「あやめ池サナトリウム」という名称で、奈良県で初めての精神科病院として開院しました。

 1950年代にフランスで抗精神病薬「クロルプロマジン」の有効性が確認されて以降は薬物療法が進化していきます。それまでの精神病者に対する処遇は、病気を持つ人ではなく、「人に非ず」といった認識に基づく非人間的なものでした。

 開設者の吉田正一初代院長はその風潮に反発。博愛的な医療を基本とし、「俸給生活者の理想郷(サラリーメンスユートピア)」とする病院作りを目指しました。1万坪の敷地の中に洋風2階建ての本館のほか、赤い屋根の病棟が8棟点在。アトリエ、テニスコート、農園などの附属施設も充実しており、職員と患者が共に作業する和気あいあいとした雰囲気があったそうです。

 1931年に吉田病院と改称し、現在は213床の精神科病床と99床の一般科病床で稼働しています。

◎健康増進活動で予防医療に貢献

 世界保健機関(WHO)の欧州地域事務局が1989年から世界各国にネットワークを作って展開している「HPH(ヘルス・プロモーション・ホスピタル)」。病気や障害に関係なく、人間らしく生活できるまちづくりを目指し、健康格差解消のために取り組んでいる健康増進活動です。当院は2013年に、日本の病院では12番目に加盟しました。

 当院の「消化器内視鏡・IBD(炎症性腸疾患)センター」では、内視鏡を使った検査や治療、小腸・大腸疾患の診断と治療をしています。現代病でもある潰瘍性大腸炎、クローン病の北和地域の拠点専門医療機関でもある当院では「我が町から大腸がんでの死を失くそう」という目標を掲げています。ヘルスプロモーション活動として、ピロリ菌の保有やペプシノーゲン値を調べる胃がんリスク検診を、奈良市に先駆けて数年前から無料で実施するなど胃がんの早期発見に努めてきました。

 さらに若年者のピロリ菌の保有状況を調査し、将来の胃がん発症のリスクに備えてもらう目的で、近隣の中学校に協力を仰ぎ、同意を得られた生徒のピロリ菌検査を昨年から実施しています。陽性反応が出た場合には除菌を勧めるなど、患者だけでなく地域住民の健康水準の向上を目指し、活動しています。

 地域の約1万3000世帯を会員に持つ「平和会健康友の会」では、会員はパートナーとして病院運営や医療活動の改善について意見をもらいながら、共にまちづくりをするという理念で活動しています。

 病院内だけでなく、市内に六つある同法人の診療所や公民館などで、医療や介護をテーマにした講演などを行う「班会」や、年間約6000人が参加する「健康運動教室」、「認知症予防のためのスリーA教室」などが盛んに行われています。

 2017年11月には、厚生労働省が主催する「第6回健康寿命を延ばそう!アワード」の生活習慣病予防分野で平和会健康友の会の健康運動教室の取り組みが「厚生労働省健康局長優良賞」を受賞しました。

 高齢者のフレイルやロコモティブシンドロームの予防といった目的のほか、孤立を防ぎ、地域の人とつながる場として担っている役割が大きいと感じています。班会のほかにも趣味の場として会員同士で作ったサークルは約60あります。高齢者独居世帯が増加する中、こういった取り組みをいかに広げていくかが今後の課題です。

◎その人らしく生きるための自立をサポート

 精神科では、これまで多かった統合失調症やうつ病、躁うつ病に加えて、摂食障害、解離性障害、成人の発達障害といった現代的な疾患が増えています。幼少期の虐待が原因の心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、多様で複雑な病態の患者との信頼に基づく治療が求められ、臨床精神科医としての力量が問われています。

 大事なことはエビデンス至上主義になることなく、労働や暮らしの環境、家庭環境などの環境因子に目を向け、心を中心に置いた精神医療を行うことだと考えています。

 さらには精神障害がある人々が、この地域で自立して生きていけるような受け皿を作ってサポートすることに重きを置いており、精神障害者のためのグループホームやデイケア、通所事業所を併設しているほか、当院から徒歩10分ほどのところでは精神障害を持つ人たちによるパン屋「EDDY」を運営しています。

 これら精神障害の福祉部門は2017年9月に「特定非営利法人あず」として認可されました。よりよくするための方法や発想を自由に展開し、実現していくことを期待しています。

◎人としての患者と向き合い、寄り添う

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 吉田病院や各診療所、訪問看護ステーション、訪問介護支援事業所など当法人が一体となり、医療と介護の草の根的なネットワークを作っています。身近で頼りがいのある在宅支援を提供するほか、「平和会地域緩和ケアサポートきずな」として取り組んでいる緩和ケアでは患者の意思を尊重し、在宅と病棟のどちらであってもシームレスな心身・精神・緩和ケアサービスを提供できる環境を作り、発展させています。

 経済的理由で受けられる医療に制限がかからないよう、当院では2009年から「無料・低額診療」を開始しました。同じ理由で差額ベッド代も徴収していません。

 患者の中には身体疾患と精神疾患が併存する患者も多くいますが、精神科と一般診療科があり「こころ」と「からだ」の両面で専門的な医療を提供できるという当院の強みを生かしながら「安全かつ信頼される医療・介護・ケアの力」を発揮していきます。

社会医療法人平和会 吉田病院
奈良市西大寺赤田町1-7-1
TEL:0742-45-4601(代表)
http://www.heiwakai.or.jp/


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