「現場主義」で地域とともに成長
大阪府との境界に立地する男山病院。市民病院を持たない京都府八幡市と近隣の地域医療を担うべく、大学病院の機能を継承して9年前に開設された。成長路線を支えるのは、こだわりを捨て現場主義を徹底する法人トップの信念だと、荒木雅人病院長は語る。
◎関西医科大学附属病院を継承
ここ男山病院は、車で10分程度の場所にある佐藤病院が母体。京都大学出身の佐藤眞杉理事長が1978年に創設した有床診療所から発展した病院です。介護施設や透析クリニックなどを作って規模が拡大したものの、本体の佐藤病院は120床しかなく、ベッド数に余裕がないという状況でした。
一方、ここにはもともと関西医科大学の附属病院がありました。附属病院は滝井や枚方、京都にもあったのですが統合となり、ここは廃止が決まった。そこで売却時にうちの理事長が手を上げ、継承することになったのです。2009年のことでした。
大学病院の機能を引き継ぎ、スタートしましたが、何しろ、それまでは月4000万円の大赤字。老朽化した建物を新築できたのは、黒字転換し経営が軌道に乗ってからでした。約200床のうち、半分を解体、半分を運営しながらの工事でしたが、2014年に無事完了。以降、順調に推移しています。
リニューアルで、199床のうち127床 を一般急性期病床、47床を回復期リハビリテーション病床、25床を緩和ケア病床としました。法人の特色としては、在宅患者さんが多いことが挙げられます。現在は約600人、人工透析の患者さんも350人ほどいます。
理事長はじめわれわれが目指すのは、地域の医療と介護をトータルで支えること。法人内で、がん治療全般を含む急性期から看取(みと)りまで完結できる体制が整いつつあります。
佐藤病院とは、互いに診療科を補完し合う間柄で、ドクター同士で手術を手伝うなど職員同士の行き来も多いですね。
一方、管轄の違いで大変なこともあります。実はうちの敷地内に府境界線があり、当院は京都府、佐藤病院は大阪府が所在地。保健所や医師会が別など、煩雑な面はありますね。本来なら200〜300床の病院にまとめれば一番効率が良かったのかもしれませんが、2カ所で近隣をカバーするメリットもあると思っています。
◎急性期、回復期、緩和ケアの役割を全う
緩和ケア病棟は新病院完成と同時に、回復期リハ病棟もほぼ同時期に開設したものです。急性期、回復期、緩和ケアの三つは、それぞれに求められる役割と責任があると思っています。
急性期医療は当法人のバックボーンで、法人開設時からそれは一貫しています。24時間断らない救急として、当直医は外科系と内科系、必ず2人配置していますし、佐藤病院も同様です。看護職員も定期的にACLS(二次心肺蘇生法)のトレーニングをするなど、普段から積極的に救急医療にも触れるようにしています。
回復期リハ病棟は病院と自宅をつなぐ役目を持ちます。患者さんが心身ともに回復し、安心して在宅に帰れるように集中的にリハビリを実施。在宅復帰率は70%を超えています。
京都府南部はもともと緩和ケアが手薄な地域でした。病棟を開設して5年、最期は住み慣れた場所で過ごしたいという近隣の方が多く来院します。がん診療拠点病院である佐藤病院からの受け入れや、京都医療センター、京都大学医学部附属病院からの紹介もあります。
当院の緩和ケア病棟は、亡くなるまでいるのではなく、元気になったら家で過ごしてもらう、回転の速いケアを目指しています。在院日数も30日前後と、非常に短い。家族が介護に疲れたら患者さんに入院してもらうレスパイト入院も積極的に受け入れています。
また、終末期患者への輸血などに関してもニーズに合わせ、ケースバイケースで対応しています。
◎介護保険事業への取り組みと、直近の課題
今、医療と介護保険は切り離せません。退院後も、介護保険が使えないと次のサービスが受けられない。そこで入院後の早期からソーシャルワーカーに入ってもらい、何に困っていてどんな社会的支援が使えるかなど、全体的にサポートしてもらっています。
法人内にケアマネジャーが大勢いますので、入院時点で介護にも介入し、シームレスに支援します。医師は医師の仕事だけでいい、ではなく、介護にも関心をもっていただくべきだと思います。
目下の課題といえば、4月に予定される診療報酬改定への対処です。医療と介護の同時改定で、なかなか厳しい。特に急性期としては「7対1看護基準」を維持するのに非常にハードルが上がる改定です。
必要な人には長めに入院してもらえるようにしておきたいけれど、在院日数の条件はシビア。経営と実情が乖離(かいり)する中での、せめぎ合いですね。
もう一つの課題は、医師の確保です。私の専門である整形外科もあと1〜2人いるのが理想ですし、足りない診療科もある。京都大、京都府立医科大、大阪医科大、関西医科大との密な関係はありますが、医局制度が崩壊して、大学病院であっても医師が十分ではないのが現状です。お金はかかりますが、紹介会社からの派遣にも頼っています。
若いドクターが積極的に来てくれるような、魅力ある病院に進化し続けることが必須です。資格が取得できる、新しい手術方法や機器、薬を意欲的に導入する、最新の検査ができる。法人内ではそんな体制を整えていますので、外にどう広めていくか。ウェブサイトや地域連携会などを通じて、今後もPRしていきたいと思っています。
◎ぶれない信念あってこそ
私もいろいろな病院を見てきましたが、ここに残ったのは、理事長の経営に対する姿勢が真っすぐでぶれないところ、そして先見の明に感銘を受けたからです。
例えば、私が初めて佐藤病院に来たときには、もうすでにジェネリック薬品があった。四半世紀も前に、です。私は本にも載ってない薬を使うのに抵抗感があって、理事長に直談判したのですが、そのとき「先生はまだ若いから分からないかもしれないが、世の中、絶対変わります。経営を極めようと思うなら、慣習やこだわりを捨てないとやっていけないよ」と諭されたんです。この人はすごいなと。1代でここまで大きくされたわけですし、その原動力である信念は、われわれが引き継いでいかなければと思っています。
理事長は80歳を超えた今でも会議はすべて出て、物品を買うにも現場に赴いて確認、スタッフが入職するときは必ず自ら全員を面接する。徹底した現場主義ですね。経営もガラス張りにして、職員各自が経営を考え業務を効率化できる仕組みも浸透してきました。
そういう現場で育った職員が各部門長にいて、また「あなたになら任せられる」という人を育てて、世代交代しています。人は財産です。長い時間をかけて、トップのポリシーを共有していくことが肝要です。
ここも開院当時は大変な時期がありましたが、それを乗り越え、雰囲気もガラッと変わりました。今は、職員のお子さんが学校を卒業して、うちの法人に入ってきてくれます。「職場として、合格だ」と認められている。それがありがたいし、うれしいですね。
社会医療法人美杉会 男山病院
京都府八幡市男山泉19
TEL:075-983-0001(代表)
http://www.misugikai.jp/otokoyama