滋賀医科大学精神医学講座 山田 尚登 教授

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うつ病、認知症の大敵 不眠を解き明かす

【やまだ・なおと】 東海高校卒業 1982 滋賀医科大学医学部卒業 同精神科神経科研修医 1988 同大学大学院修了(医学博士) 1989 同大学精神科神経科助手 1991 カナダアルバータ大学精神科学外教授 2007 滋賀医科大学精神医学講座教授

 睡眠障害と精神疾患との関わりについて第一線で研究を続ける山田尚登教授。「精神疾患は治らないのではない、治せばいい」との決意のもと患者の早期退院を実現している。診断基準が確立されていないうつ病を客観的に評価診断するバイオマーカーの開発にも挑む。

◎「治す精神医療」を掲げて

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 モットーは「患者を治す精神医療」です。精神医学が大きな変革を遂げつつある昨今、「生物学的なエビデンスに基づく科学的な医療」を重視しています。

 精神疾患というと治りにくいイメージがありますが、当精神科の平均在院日数は30日ほど。全国でも精神疾患患者の在院日数が短い大学病院の一つでしょう。

 病気は治らないのではなく、治せばいい。長くても、半年以内に治療を終えることを目標にしています。 大事なのはガイドラインに基づく標準的治療を徹底することです。

 診療内容は多岐にわたりますが、特に力を入れているのが精神疾患の症状として出やすい睡眠障害に対する診療です。日本睡眠学会認定の医療施設として、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)や睡眠潜時反復検査(MSLT)なども用いて診療に当たっています。

 そのほか、うつ病に対する薬物療法や修正電気けいれん療法、高照度光療法、不安ストレス外来やがん患者の緩和ケアもカバー。統合失調症に関しては、治療抵抗性統合失調症に対する最終選択薬・クロザピンの導入を積極的に勧めています。

◎不眠でうつ病に

 睡眠障害は、精神疾患と密接な関わりがあります。

 眠れないと、極度の疲労や気分の変動、ストレス、欲求不満や衝動性が生じるのに加えて、注意力・記憶力・実行機能が低下します。免疫力も低下して、血圧が上昇し、太りやすくなり、2型糖尿病のリスクは通常の2.5倍に高まる。不眠は情緒的、認知的、身体的にダメージを与えるのです。

 精神疾患の患者さんには睡眠障害が多く、うつ病に限れば9割以上。うつ病が原因で不眠になる人もいるけれど、逆に不眠はうつ病の危険因子とも考えられます。大学生のときに不眠だった人は、その後うつ病を発症する確率が40%近いというデータもあり、睡眠の異常は生涯長きにわたって影響するのです。

 不眠でうつ、うつで不眠になるという悪いサイクルが形成されるなら、不眠を解消することでうつ病が良くなるかもしれない。実際、抗うつ剤に睡眠薬を併用した場合と、プラシーボ(偽薬)を併用した場合を比較すると、睡眠薬の方が治りが良いことが実証されています。 精神疾患を治すには睡眠の知識が重要だということ。脳の中枢系に作用する薬を組み入れて治療しないと、治すのは難しいのではないかと思います。

◎認知症患者の9割が「SAS」

 睡眠障害の一つに、睡眠時無呼吸症候群(SAS)があります。呼吸が10秒以上止まるのを1回と数え、1時間に5回以上、あるいは一晩の睡眠中に30回以上起こることで診断します。

 当大学の医学部附属病院に入院するうつ病の患者さんに、SASがどの程度あるか調べたことがあります。通常なら無呼吸の比率は男性4%、女性2%程度のところが、8割に診断が付きました。認知症患者さんについて調べると、正常だったのはわずか11.7%。つまり9割近くがSASだったのです。

 無呼吸の間は、低酸素状態になります。脳内に低酸素ストレスを与えると、「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質が増える。アミロイドは脳の神経細胞を変性させ、これが認知症の原因になります。逆によく眠ると、アミロイドβが排出されやすくなる。数万人単位という台湾での大規模な研究でも、SASの人は認知症になりやすいという結果が出ました。

 ところが睡眠時の無呼吸と認知症の関係が実証されているのにも関わらず、「睡眠時の無呼吸」はほとんど注目されていません。 これをどうにか改善できないか。まずは不眠の改善が認知症の進行を遅らせるという実績を積むことです。症状が悪化してからだと難しいですが、早い段階で介入できれば、認知症はかなり予防できると考えています。

◎睡眠脳波でうつ病診断

 無呼吸は慢性的な疲労や眠気、頭痛などを伴うため、うつ病と誤って診断されるケースがあります。そのくらい、うつ病の病態生理はいまだ不明な部分が多い。診断の生物学的指標も確立されていません。

 精神疾患の世界的な診断基準となっているアメリカ精神医学会の「DSM-5」でも生物学的診断基準の導入を模索してはみたのですが断念、問診による診断マニュアルとなった経緯があります。

 結局、問診で評価するしかないのですが、専門医ですら客観性や信頼性において妥当性が不十分なことがある。一般医ならなおさら、適切な診断が難しく治療開始が遅れる場合も出てきます。

 そういう状況にあって、うつ病の危険因子であり、症状に表れやすい睡眠は、うつ病への早期介入を可能にする指標になります。脳波で客観的な評価が可能ですし、睡眠中は脳の異常な活動をとらえやすい。 そのような背景から研究開発を進めてきたのが、1チャンネルの脳波計「スリープスコープ」です。医療機関で行うPSGのような睡眠検査を自宅でできるコンパクトな機器で、うつ病患者の睡眠脳波に現れる特徴波を特定することで、うつ病診断の補助に使えるものです。

 われわれと日本大学、スタンフォード大学で臨床試験を実施、解析は神戸大学、機器の開発は「スリープウェル」が担当しました。今後、治験プロトコルの作成と最終版のプログラム開発を進めています。

 完成すれは、日本発のバイオマーカーとして世界で使われるようになるでしょう。どの医師が診ても、うつ病を客観的に診断できる手助けになる。投薬効果の測定にも使えます。

 うつ病患者さんがまず受診するのは内科、その次が産婦人科です。そこでの活用はもちろんのこと、妊婦健診で計画されている精神疾患のスクリーニングにも役立つかもしれません。

◎社会的損失を防ぐために

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 厚生労働省が指定する5大疾病の中で、最も患者数が多いのが精神疾患。2014年で患者数392万人ですから、現在は400万人を超えているでしょう。 若い年齢層の死因の1位は自殺ですが、そのうち75%に精神障害があります。若い人の活力や命が失われることによる社会的損失は甚大です。

 また、うつ病による経済損失は3兆円近く、統合失調症でも2兆円に上るそうです。解決に向けて真剣に取り組まないといけない問題です。

 しかし、診断にはあいまいな部分があります。例えばC型肝炎なら問診後に検査で肝機能障害と診断し、最後に疾患として認定できますが、うつ病はいまだに症状レベルでしかない。やはり特異的な検査が必要なのです。

 うつ病のタイプも多様です。「スリープスコープ」、将来的にはAIを活用するなどして補助診断を重ねれば、もっと細かく分類して診断できるようになるでしょう。結果、それぞれのタイプに合わせた適切な治療が可能になる。そのための仕組みを作るのも、私たちの役目だと思っています。

滋賀医科大学精神医学講座
大津市瀬田月輪町
TEL:077-548-2111(代表)
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqpsy/


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