シンポジウム「がん患者・家族(遺族)になって気づいた医療者とのコミュニケーション」では、患者らが講演。聴講した医療者からの質問にも答えた。
【講演内容抜粋】
川上澄江氏/がん患者遺族
「母を介護し看取(みと)って感じた医療者とのコミュニケーション」
感情論をぶつける患者である母と、冷静に事実を伝える医師との板挟みになり、葛藤(かっとう)を抱えた、と患者家族の思いを紹介。「病院は細分化されており、誰に何を聞けばよいかわからない。一緒に進んでいきましょうね、という情報だけでない気持ちや言葉のコミュニケーションがほしかった」と話した。
行田泰明氏/医療法人社団淳友会わたクリニック診療部長
「緩和ケア医が進行食道がんになって気づいたこと」
「生きたい」という闘病意欲と「死んでしまうのだろうか」という悲嘆と不安の感情が幾度も交錯したという闘病時の思いと治療経過を紹介。
「緩和ケア医として何気なく交わしていた『変わりないですか』『変わりありません』という会話も、患者にとっては最良の状態を維持しているのではなく、つらい症状を抱えている状態に変わりはなく、言っても意味がないと思っている人が多いことに、がんサバイバーを経験して気づいた」という。
加藤那津氏/若年がんサバイバー&ケアギバー集いの場くまの間代表
「遺伝性乳がんと診断されて」
親が自分を責めてしまうのではないかとの思いから遺伝性であることを家族に切り出しにくく苦悩したという加藤氏。「ステージ0の早期の乳がんで、放射線治療・ホルモン療法をしたが、4年後に局所再発。ステージ4の今となっては意味を見いだせないが、予防的切除に関する情報をもっと教えてほしかった」と若年がんサバイバーの本音を医療者に訴えた。
長谷川一男氏/NPO法人肺がん患者の会ワンステップ代表
「肺がん患者になって気づいた医療者とのコミュニケーション」
がんサバイバーの中には、「様子を見ましょう」「何でも好きなことをしてください」といった普通の言葉すらネガティブにとらえてしまったり、インターネット上の真偽不明な情報に惑わされたりする人が多いことを、自身が代表を務める患者会のアンケート結果と共に紹介。
「怯えて生きていかないためには病気に関する正しい知識を持ち、医師とのコミュニケーション力を上げ『患者力』を向上させることが重要」だと語った。
【質疑(一部)】
Q:病院内のがん情報コーナーは利用されているのか。
「治療に関してや治験など欲している情報がないのであまり利用しない」(長谷川氏)「医師との向き合い方に悩んだ時、MSWや臨床心理士に相談に乗ってもらうためにがん相談支援センターを利用する」(加藤氏)
Q:患者に「死ぬからいいんだ」と言われたら。
「患者の言うことを否定せず、傾聴し、寄り添う姿勢を見せることが大事だと思う」(行田氏)「きっと本音ではないはず。医療者や病院に対する不満を込めた言葉だと思うが、どのような対応が正しいのかはわからない」(倉田宝保・関西医科大学呼吸器腫瘍内科教授=座長)