QOLの向上を目指して カギは多職種連携
長崎県の小児在宅医療の支援事業をけん引する岡田雅彦准教授。ニーズが増す中、多職種間での連携を図り、医療的ケアが必要な子どものQOL向上のために奔走する。
◎小児在宅医療の現状
現在、私たち小児科医が直面している問題は、救命できたものの、さまざまな障害が残った子どもたちの増加です。
その背景にあるのは、2500g未満で生まれる低出生体重児が増えていることです。2018年2月現在、日本は世界で最も新生児の死亡率が低い国です。多くの子どもは退院し、元気に生活が送れるようになります。しかし、中には医療的ケアを生涯必要とする子どもがいます。その子どもたち全員がずっと病院にいることができるわけではありません。
国の方針としても、小児の在宅医療を積極的に進めています。小児在宅医療を選択するご家族の目的は大きく分けて二つ。一つは、自宅で最期を迎えるため。もう一つは、在宅で医療的ケアを受けながら生きていくというものです。
現在、小児在宅医療を受けている子どもは、医療的ケア児と呼ばれます。医療的ケア児は全国でおよそ2万人にのぼります。人工呼吸器を着けて、家で生活している子どもは約3500人います。長崎県内で私が把握している数は約80人。今後もますます増加していくと考えられます。
◎連携することの重要性
小児の在宅医療は、成人の在宅医療以上に多職種の連携が欠かせません。医療、福祉に加えて、教育機関との連携も必要となるからです。
ここで問題となるのは、小児には介護保険が適用されないため、成人の在宅医療とは異なる医療・介護の枠組みで行われるということです。
一般的に在宅医療はケアマネジャーが中心となりサポートしますが、小児の在宅医療にはそのような存在がいない。多職種の連携をつなげるコーディネーターが欠けているのです。
現在、厚生労働省はどのような職種がコーディネーターとなるか指針を出していません。医療的ケア児に対しての社会的な準備が整っていないので、各自治体に一任されています。長崎県は、障害者の相談に応じて、助言や連絡調整などの必要な支援を行い、サービスの利用計画を作成する障者相談支援専門員をコーディネーターとしています。
医療依存度が高いことも小児在宅医療の特徴です。さらに、心身や、就学などの社会生活における成長を見守っていかなければいけません。障害者相談支援専門員は本来福祉の分野の職種ですが、成人の在宅医療にはない医療について勉強してもらわなければいけません。その上で、福祉計画を立ててもらう必要があります。
教育機関においては、学校で看護師を配置するよう努めていますがまだ十分ではありません。また、移動手段も通常のスクールバスでは医療的ケアを必要とする小児は利用できないので、親が車で送り迎えをしているのが現状です。
また、学校の教員も小児在宅医療を受けている子どもには医療的ケアのルールがありますので、それを病院で学ばなければなければなりません。
現在のところ、コーディネーターを中心として、このような問題に一つずつ対処している段階です。
長崎県では、多職種連携のツールの一つとして、「あじさいネット」を運用しています。これは、元は大学病院のような拠点病院と、かかりつけ医、薬局の間で、患者の診療情報を共有するためのネットワークです。それを医療従事者、福祉の方などの連携にも活用を広げています。メーリングリストを作って、情報を交換することにより、リアルタイムに患者の状況を把握することができます。携わる人々が連携を取っていこうという意思が大切ですね。
私たちドクターが生命の維持に努める。その先の生活の質の向上は、福祉の方の協力が必要不可欠です。医療従事者は各自治体のリーダー的な存在となり、職種間の垣根を取るために、声かけをしていかなければなりません。
◎「知る・増やす・つなぐ」
在宅医療のあるべき姿は、生命と健康の維持だけではありません。病院の機能がそのまま家に移行したと考えるのではなく、その先にあるのは、「普通にできること」をどう経験してもらうか。
例えば、在宅医療を受けている子どもたちにとっては、花火大会に行くことは考えられません。私は2年前から、在宅医療を受けている子どもたちを毎年、花火大会に招待しています。
長崎港の近くに建つ港を一望できるビルの1室を、企業の厚意で提供してもらっています。そこで子どもとそのご家族に花火を楽しんでもらっています。
また、「長崎県在宅小児を支える会」という医療的ケア児を持つ親の会を立ち上げています。その会合に私も出席し、生の声を聞くことで、それをフィードバックするように努めています。
現在、在宅医療を前提とした医療機器の開発が進められています。外出するために、軽量化し、バッテリーが長持ちするものなどです。日常生活に合わせた機器ですね。
小児在宅医療の実情はまだまだ知られていません。まずは、情報を発信し、理解を深めてもらうことが大切だと思います。そして、医療的ケアが必要な子どもの支援を、少しでも厚くしたい。
そのためには、小児在宅医療に携わる人々がつながらなければいけない。私は、「知る・増やす・つなぐ」を長崎県の医療的ケアが必要な在宅小児の支援事業のキャッチフレーズとし、活動しています。2015年度から、長崎大学病院、長崎医療センター、聖家族会みさかえの園の3施設で協働しています。
医療的ケアが必要な子どもが、できるだけハンディを感じることなく生活を送ってほしい。目を向ける人が増え、子どもたちのためのチームが広がることを願っています。
長崎大学医学部 小児科学教室
長崎市坂本1-7-1
TEL:095-819-7200(代表)
http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/peditrcs/