熊本赤十字病院 宮田 昭 副院長/曽篠 恭裕 救援課長

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避難誘導システムと自己処理型水洗トイレ開発
「日常」を変えると災害時が変わる

 災害発生時、携帯端末を通じて本人の避難を誘導すると同時に、自らが避難したことを家族などに知らせ、避難を促す―。そんな新たな技術を熊本赤十字病院が考案し、特許を取得した。

 同院は企業と共同で災害時にライフラインが止まっても機能が維持できる水洗トイレの開発にも成功。災害に強い社会づくりに積極的に取り組んでいる。

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左:宮田 昭 副院長【 みやた・あきら】 1988 熊本大学大学院医学研究科修了 2016 熊本赤十字病院副院長兼国際医療救援部長 インド・スマトラ島など多くの海外救援で日赤基礎保健ERUチームリーダーとして活動

右:曽篠 恭裕 救援課長 【そしの・やすひろ】 2015 熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程環境共生工学専攻(在学中) 2013 熊本赤十字病院国際医療救援部救援課長 日赤基礎保健ERU管理要員・国際赤十字FACT登録要員として国内外救援活動に従事

◎「連絡を取りたい」が避難を遅らせる

 開発の中心となったのは、ともに国内外の災害現場で活動してきた宮田昭副院長と曽篠恭裕救援課長。2011年の東日本大震災後、「人々が津波に流されずにすむ方法はないのか」と、被災事例の検証を進めてきた。

 日本赤十字社や自治体の報告書、当時の状況を報じた新聞、内閣府の調査分析結果などにも目を通す中で気が付いたのが「大事な人と連絡を取ろうとする」「家族を探す」ことで、結果的に避難が遅れてしまった人の多さ。

 被害を免れた人たちの避難のきっかけにも目を向けると、「率先避難」という解決の糸口が見えてきた。率先避難は、大声で叫びながら避難を開始した中学生たちが小学生や周辺住民を巻き込んで多くの人たちの命を救った「釡石の奇跡」として注目された。文献調査で目立ったのは「家族や近所の人が避難しようと言った(避難していた)から」との理由。避難開始を一斉に通知して安否確認をしつつ、避難行動を誘発する、そんな技術を目指した。

◎バーチャルで「一緒に逃げる」を演出

 考案した仕組みでは、災害発生時、携帯端末が現在地の位置情報を取得。避難場所までの経路と避難開始ボタンが表示される。ユーザーが避難と同時に避難開始ボタンを押すと、事前に登録してある家族などに、避難を始めたことが発信される。

 登録している家族などが避難を始めたという情報も同一画面に表示され、把握できる仕組み。安否を知ると同時に、「あの人が避難したのだから私も」という心理状態を生み、バーチャルで「誘い合って逃げる」状況をつくりだす。

 特許は、日本での取得が完了。韓国、中国、米国でも特許として認められ、取得手続きを進めているほか、欧州でも審査中だ。今後、携帯電話会社などと連携し、携帯端末の基本機能として組み込むことで実用化を目指す。宮田副院長は「常日頃から使っていなければ、いざというとき活用できない。災害時だけでなく、日常的に使えるものへの応用を考えたい」と話している。

◎災害時使えるものを"ふだん使い"する発想

 宮田副院長らは、これまでも水や電気、ガスなどが使えない海外の被災地で仮設診療所を設置するための資機材(緊急対応ユニット:ERU)の開発に取り組んできた。2004年には、国際救援用仮設診療所資機材を独自に開発。この資機材は海外の災害現場で活用される一方、新潟県中越地震や熊本地震の避難所での生活環境改善にも活用されてきた。

 ただ課題もあった。仮設診療所用の備品が被災地に届くのは、早くても発災から数日後。被災地の人にとっては「使い慣れない」ため技術要員の派遣が必要で、使用後には機材を再度梱包して送りなおす必要もあった。

 そこで生まれたのが、災害時に使えるトイレやシャワーなどをつくり、いざという時に避難所となりうる場所に設置、日ごろから活用するという発想「スマートデザインシェルター構想」だ。

 「阪神・淡路大震災時には、トイレに便が積み重なり"トイレ難民"が多く出たし、インドへ被災地支援に入った時には砂に穴を掘って用を足す必要があった」(宮田副院長)という経験もあり、2012年、九州電力総合研究所とトイレ開発のための共同研究を開始。その後、同じ九州電力グループのニシム電子工業が引き継ぎ、「完全自己処理型水洗トイレ TOWAILET」(1室/2室)を完成させた。

◎ライフライン不要抑えた臭いやコスト

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 トワイレの特徴は、電源設備や上下水道から独立している点と、遠隔で使用状況などが確認できる点。太陽光パネルとリチウムイオン電池を備え、停電後も一定時間運転が可能。さらに微生物による分解処理とフィルター処理を併せた独自の浄化処理技術で、1日300回、10年間使用しても汲み取りの必要がないという。

 1室タイプは幅2.14m、奥行き2.92m、高さ2.51mで、内部には温水洗浄便座付きの洋式便器、手を洗う台などを装備。「用をたすときの音が気になる」との声に配慮し、音が漏れにくい造りにした。

 「日本の避難所の風景はこれまでほとんど変わってこなかった。それを変えたい」と曽篠課長。被災時に避難所となる全国各地の学校や公園、公共施設、医療拠点となる病院、大規模なイベント会場、国際的な災害救援の現場などでの活用を見込む。

 宮田副院長は「支援に入った国際機関から被災地にコレラが蔓延してしまった例もある。清潔なトイレは公衆衛生の基本。発災時、必要なものが『すでにそこにある』という状態をつくることができるよう、広げていきたい」と話している。

熊本赤十字病院
熊本市東区長嶺南2-1-1
TEL:096-384-2111(代表)
http://www.kumamoto-med.jrc.or.jp/


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