"非常識"で時代の先を行く躍動する北九州の80床病院
45年前、当時としては異例だった夜間透析が可能な施設として開院した小倉第一病院。そのチャレンジ精神は2代目にも受け継がれた。働き方改革、ワーク・ライフ・バランスにも早くから着手。構想中の新病院にも、画期的なアイデアが注ぎ込まれる。
―新病院建設を計画中ですね。
2020年の秋に、移転を完了しようと動いているところです。
当院は、2017年12月に45周年を迎えました。建物の老朽化が進み、スタッフにとっても使い勝手の悪い箇所が多々あるので、50周年を迎えるまでに刷新したいと考えています。
新病院のコンセプトは、「患者さんにとって快適で、楽に過ごせる空間」です。
例えば、今は別々の階に分かれている病床フロアと透析室フロアを同じ階にペアで設置し、スタッフステーションも共同にします。
患者さんは移動が楽になり、スタッフは情報を共有・交換できるようになる。医療の質の向上につながるはずです。さらに担当フロアの垣根を越えてスタッフ同士が協力しやすくなることで、時間や人数にもゆとりが生まれます。効率化もできるでしょう。
私が知っている範囲ですが、病床と透析室がワンフロアに展開している病院はほとんどありません。おもしろい試みになると確信しています。
もう一つの核にしたいのは、感染管理です。現在は、ノロウイルスやインフルエンザなどの感染拡大を、マスク着用や手洗いの徹底といった個人の取り組みで防いでいます。そうではなく、病院の構造や内装などのハード面から感染管理ができないかと考えています。
今の建物は凹凸が多く、感染管理という観点から見ると不向きです。なるべく平面にすれば、ほこりがたまりにくく、掃除もしやすくなるでしょう。
そもそも、日本の感染管理は欧米よりも遅れています。今回は、設計段階から感染管理の専門家に意見を求めることにしています。それこそカーテンの取り付け方から最新の汚物処理法、壁面の素材にまで注意を払い、日本の病院ではまだ取り入れていない技術を組み込んでいきたいと思っています。
―超高齢社会を迎え、地域で必要とされる役割も変わってきているのでしょうか。
新病院にはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を併設しようと考えています。
透析患者さんは年間156日以上病院に通うので、肉体的負担が大きい。また、高齢化と長期透析による骨関節の合併症で、サルコペニア、フレイルに属する方が増えているのも特徴です。著しい筋力低下や虚弱によって通院が困難になる患者さんは、年々増えています。サ高住は病院に併設する予定なので、通院も楽にできると思います。
福岡県医師会が2015年に実施したアンケートでも、医療が必要な高齢者を受け入れられる特別養護老人ホームが少ないという結果が出るなど、透析を受けている患者さんの高齢化による問題が浮上してきています。患者さんが透析を継続しながら暮らせる場を提供することも、大事な役割の一つになっていくと考えています。
新病院建設では、その他にも、透析患者さん向けの料理教室を開くキッチンスタジオなど、さまざまなアイデアを盛り込みたいという構想があります。土地探しをしていた期間は5年。その間に父から理事長職を受け継ぎ、また、医師会の仕事をする中で視野も広がりました。そのすべてを注ぎ込むつもりです。
―ワーク・ライフ・バランスにも早い時期から力を入れてきた病院として知られていますね。
5年ほど前から「短時間正職員制度」を取り入れています。これは、子育てや本人の病気、家族の介護や病気など明確な理由がある場合に、最短週2日の勤務まで認めるという制度です。
給与は働いた分に比例し、週2日勤務であれば正規給与の5分の2になる。利用年数に制限はなく、フルタイムに戻るのも自由です。この制度は働き方改革にもつながり、今まで辞めざるをえなかった職員が残ってくれるようになりました。
しかし、予期せぬ落とし穴もありました。理由さえあれば、経験を積まないうちから時短勤務をしていいのだと、少し勘違いして就職する人が出てきてしまったのです。 また、制度を利用していない職員の一部では、不満が積もっていきました。さまざまな環境、考え方の職員がいるのだと気付けなかった。こちらの落ち度でした。
そこで、仕事面で努力している職員を評価するため、学会発表や資格取得に対する手当を付け、給与に反映する仕組みを作りました。こちらは、ボーナス査定の評価基準にもなるので、それまで主観的で曖昧だった評価がクリアで分かりやすくなった。モチベーションのアップにもつながっているようです。
スタッフには自己研さんに励んでもらいたいので、外部の勉強会への参加を促すため「勉強会スタンプラリー」も実施しています。年間の優秀者は表彰もします。
もちろん、職種によって勉強会の数に差はありますが、当院は透析、糖尿病の専門病院なので、少なくとも専門分野に関連する知識は事務や介護職の人にも学んでほしい。最終的には、学んで成長できることを喜べる組織になってほしいですね。
当院はもともと、周りの誰もしていなかった夜間透析ができる病院としてスタートしました。父も、前例のない取り組みに積極的だった。80床と小規模ですが、自由に迅速にアイデアを実現できるところが強みだと自負しています。
日本透析医学会は2025年問題より前に透析患者が減少を始めるという試算を出しています。その中で生き残るためには、建物だけではなく組織も成長しなければいけません。これからも末永く地域医療を支えられるよう、"常識破り"な病院であり続けたいと思っています。
医療法人真鶴会 小倉第一病院
福岡県北九州市小倉北区真鶴2-5-12
TEL:093-582-7730
http://www.kdh.gr.jp/