県立広島病院 木矢 克造 院長

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マニュアルにない連携を現場でどうつくるか?

【きや・かつぞう】 1975 山口大学医学部卒業 広島大学医学部附属病院(現:広島大学病院) 1976 中国労災病院 1985 双三中央病院(現:市立三次中央病院) 1988 文部教官広島大学助手医学部附属病院 1993 県立広島病院脳神経外科部長 2000 広島大学医学部臨床教授 2009 県立広島病院副院長 2015 同院長

 「想定外の状況にどれだけ対応できるかがカギだろう」―。そう語るのは広島県の基幹災害拠点病院である県立広島病院の木矢克造院長。同院の災害医療活動を通じて感じたこと、今後の課題などを語ってもらった。

災害現場の医療ニーズは変化していく

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―災害対策の状況はいかがでしょうか。

 3チームのDMATを中心にして、有事に備えた定期的な訓練や勉強会の開催などに取り組んでいます。部署単位では災害時の行動指標となるアクションカードを作成。災害発生直後にどのような行動をとるべきかを共有しています。

 2013年に始まった広島県のドクターヘリ事業は、基地病院が広島大学病院、協力病院が当院です。県内全域をおよそ30分圏内でカバーするとともに、山口、広島、岡山、島根、鳥取の中国地方5県で広域連携の協定を締結。島根、山口県の出動要請が多いことも特徴です。

 また、全国自治体病院協議会の災害医療の取り組みとして、中四国地方の9県による搬送ネットワークの構築も進んでいます。つい先日も、ドクターヘリによる徳島県へのテスト飛行を実施したばかりです。

 1月、広島市の中心部でバス2台とバイク1台が絡む事故が起こり、当院に6人の患者さんが搬送されました。

 DMATのメンバーは院内にすぐさま「対策本部」を立ち上げ、ホワイトボード上で受け入れの流れを整理。整形外科など、関係する診療科の医師らが救命救急センターに集まりました。

 多職種が自分のすべきことをすぐに理解して行動に移すことができる。日ごろの訓練の成果を発揮できた一件だったと思います。

―大規模な災害が発生すれば、組織や地域を越えた連携が欠かせません。

 やはり、近い将来起こると言われる南海トラフ地震に対する職員の関心は高く、若手を中心にした机上訓練なども活発です。とは言え自然が相手ですから、むしろ想定外のことが多いと考えておくべきでしょう。

 阪神・淡路大震災を契機に、東日本大震災、広島土砂災害、熊本地震と、医療機関は災害が起こるたびに教訓を得て、また新たな課題と向き合ってきました。

 実際、東日本大震災規模の被害状況では、駆けつけたはいいが、力が及ばない部分も少なくありませんでした。当院のDMATもそんな苦い経験をしています。

 課題の一つは、DMAT、JMAT、各医療機関の救護班など、さまざまな災害医療チームが現地に集結して任務に取り組む中で、「全体」としてどう機能させるかという点でしょう。

 DMATの活動ではまず指揮命令系統を明確にして情報の収集、共有に当たる「CSCA(コマンド、セーフティー、コミュニケーション、アセスメント)」が重視されています。

 災害現場に必要な医療は急性期、亜急性期、慢性期へと刻々と変化していきます。活動する災害医療チームが徐々に入れ替わっていく過程で、情報を誰が引き継いでいくのか。現地の方々が取り残されたような気持ちになったり、医療が不足したりすることはないか。

 フェーズの移行に応じた連携の重要性は、阿蘇医療センターの甲斐豊院長の講演を聞いたときにも感じました。

 熊本地震の際に、甲斐院長は「急性期後の阿蘇地域における保健医療救護体制等の復興」を目的として「ADRO(阿蘇地域災害保健医療復興連絡会議)」を設置。情報を一元化して支援が適切に行き渡るよう、さまざまな支援チームの動きをADROがコーディネートしたのです。「その場で連携体制をつくっていく」ことが、円滑な災害医療を実現する一つのカギだと思います。

 南海トラフ地震が発生したシミュレーションでは、当院が位置する広島市南区の辺りは3〜4mほどの津波がやってくると想定されています。

 地域災害拠点病院である広島大学病院、広島赤十字・原爆病院、広島市立広島市民病院、広島市立安佐市民病院とすぐに連絡を取る仕組みはありますが、もし各院が同じような浸水被害や揺れによるダメージを受けたとすると、うまく拠点病院間の連携が図れないかもしれません。

 当院は基幹災害拠点病院ですから、大規模災害時には、救命救急センター長が県庁を本部として医療機関の指揮を執ります。広島市内の交通が寸断されて移動できなかったり、当院の医療機能がストップしてしまったりしたら、地域災害拠点病院のどこかがバックアップすることになる。

 「想定内」のマニュアルを頭の中にしっかりと定着させておくことは重要です。ただし、普段から顔を合わせ、関係性を構築できる相手は限られます。広島市南区医師会と当院による合同訓練や協議の場はつくりやすいが、現実的には行政や消防、警察、自衛隊、保健所などの機関が一堂に会した訓練は難しい。

 想定外の状況や、変わっていく医療ニーズに適応できるよう「オプション」をどれだけ用意できるかー。今後の議論を進めていく上で一つのポイントだと思います。

 変化に対応していくという意味では、病院経営そのものにも通じるかもしれませんね。当院に勤務する職員は約1500人。医療情勢が複雑化していく現在、多様な職種をまとめてどうチームとして乗り切っていくか。視点の置き方に共通点があると感じます。

働き方改革はどんな影響を及ぼすのか

―救急医療については。

 当院の救命救急センターで受け入れているのは3次救急が中心です。救急医が常駐し、特徴の一つは小児重症例を含めた集中治療に力を入れていることです。

 救急患者数は増加傾向にあります。近年明らかに割合が高まっているのは、転倒などによる外傷や内因性の疾患を要因とする高齢者の1.5次救急です。

 「一人暮らしで不安なので救急車を呼んだ」というケースや、軽症で繰り返し搬送される例も少なくありませんから、まさに超高齢社会を反映していると言えます。広島市では救急車の出動件数が年々増えており、受け入れる医療機関がなかなか決まらないという問題が顕在化しています。

 そこで当院は、7月ごろを目指してラピッドカーの運行をスタートする計画です。広島市消防局のOBで緊急走行経験のある人材をドライバーに迎え運用します。

 まずは試験的に十数キロ圏内でスタート。現場での病院前診療後、医療機関への搬送については救急車とも連携します。夜間や悪天候時など、ドクターヘリが運航できない状況下のバックアップとしての機能も期待しています。

 都市部における「高齢者の生活の場」で起こる救急医療の要請は、これからもっと大きな問題となるはずです。国は地域包括ケア病棟などの活用による軽症患者の受け入れを推進し、重症度に応じた医療機関の機能分化を図っています。この取り組みがどのように作用するかによって、当院の救急医療の役割も変化すると思います。

 働き方改革に関する議論が活発化していくと思いますが、救急医療のあり方も深く問われていくことになるでしょう。昼夜を問わず高度な医療を提供できる環境がある。その実現は、医療者の献身的な姿勢に支えられてきた側面があったことは否定できない事実だと思います。

 長年の問題を浮き彫りにしたという意味では国が働き方改革に着手したことには意義があると思います。ただし、働き方を適正化するとなると現場の医師数の増加が不可欠です。現実は、都市部も含めて地方は働き手が足りない。

 医師が偏在しているのに働き方の仕組みだけが出来上がっていくと、中には救急医療をやめざるを得ない医療機関が出てくるかもしれない。

 当院の救急医療も決して人員が潤沢というわけではありません。多様な診療科がある中で、救急科は医師の確保が難しい領域であることは間違いありません。新専門医制度との関わりなど、越えなければならないハードルは多くあります。

人の気持ちが分かる医師を育てたい

―今後の動きなど。

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 大きく三つの役割を果たしていきます。一つ目は広島県の医療を俯瞰(ふかん)的にとらえることのできる機関であること。二つ目は広島都市圏の医療を支えていくこと。三つ目は地域に貢献する人材育成に努めることです。

 人材育成については広島大学との密な連携のもと、大学では主に研究面を、私たちは「力のある臨床医を育てる」ことに主眼を置いて研修体制を整えています。

 一人前の医師という定義は難しいのですが、育成面で最も大事なのは患者さんの気持ちが分かる人を育てていくことだと考えています。人間として他人の思いをちゃんとくみ取れるかどうか。病院での診療においても災害の現場でも、あらゆる医療の前提となるものだと思います。

 そこに高い技術と豊富な知識が加わった、「この先生に診てもらえば間違いない」と患者さんや医療者が感じるプロフェッショナルを輩出していきたい。

 高度急性期を軸にした病院であり続けるという目標は今後も変わりません。救急医療のほか、政策医療、先進医療の分野についても積極的に新たなプロジェクトに関わっていきます。

 1998年、中四国地方で初めて認定された当院の総合周産期母子医療センターは、現在、妊娠・出産から成人まで、あらゆるライフステージを医療で支える「生育医療センター」へと発展しました。

 脳、心臓、血管領域の一貫した診療を提供する「脳心臓血管センター」や、「消化器センター」「呼吸器センター」などさまざまな診療機能の整備を進めています。診療科にとらわれないチームワークは、当院の強みの一つでもあります。

 ここ数年間で、改善推進部がけん引するTQM活動、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動などの成果も見え始め、組織の活性化、リーダー育成などにつながっています。医療、経営、危機管理。バランスのとれた病院を目指したいと考えています。

県立広島病院
広島市南区宇品神田1-5-54
TEL:082-254-1818(代表)
http://www.hph.pref.hiroshima.jp/


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