浜松医科大学整形外科学講座 教授 浜松医科大学医学部附属病院 松山 幸弘 病院長

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何事にも前向きに高みを目指して突き進む

【まつやま・ゆきひろ】 1987 広島大学医学部卒業 1992 名古屋大学医学部附属病院整形外科医員 1995 米ミネソタ州ミネソタパインセンター留学2006 名古屋大学大学院医学研究科機能構築医学専攻助教授 2007 同准教授 2009 浜松医科大学整形外科学講座教授 2014 同附属病院副病院長 2016 同病院長

 「皮膚を小さく切開することだけが最小侵襲手術ではない」と語る松山幸弘病院長。整形外科学講座の教授と病院長職と二足のわらじで多忙な日々を送る中でも、常に「何が患者のためになるのか」を第一に考えている。

真の意味での最小侵襲手術を追求

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◎目指すのは患者に「優しい」診療

 整形外科学講座は1976年に開講以降、整形外科の最後の砦(とりで)として、地域の医療機関では手に負えない難治性疾患や希少疾患を受け入れ診療しています。

 患者のニーズに対応するために運動器の障害を脊椎疾患、股関節疾患、膝関節疾患、スポーツ障害、手・末梢神経疾患、肩関節疾患、腫瘍性疾患、関節リウマチ、小児の疾患、代謝性骨疾患に分けた専門外来制で診療しているのが特徴です。

 「難治性運動期疾患に真の意味でのミニマル・インベイシブ・サージャリーで挑む」ことに信念を持ち、明るく楽しい医局作りを目指しています。

 「ミニマル・インベイシブ・サージャリー」は「最小侵襲手術」と訳されるので、傷あとを極力小さく切開する手術や、ダビンチのようなロボット支援手術や内視鏡下手術を想像する方も多いでしょう。

 しかし、私は「安心・安全であること」「合併症が少ないこと」「長持ちする運動器再建であること」の三つこそが真の意味での最小侵襲だと考えています。

 いくら傷口が小さくても、運動器再建の効果が不十分であるなら患者のためとは言えません。負担が少なく、それでいて安全で、手術によって十分な効果を得ることこそが真の意味での最小侵襲であると考えています。

 私が専門とする脊椎・脊髄外科領域では、代表的な難治性疾患として「脊柱変形」「脊髄腫瘍」「脊椎靭帯(じんたい)骨化症」の三つの疾患を多く扱っています。これらは手術的加療によりまひや合併症を発症する可能性が高く、多くの脊椎脊髄外科医も敬遠しがちであることから難治性疾患と呼ばれています。

◎先進的な医療を積極的に導入

 脊髄腫瘍や脊椎靭帯骨化症の場合、32チャンネルの術中神経機能モニタリング専用機を使って、筋肉の動きや反応を観察する「脊髄モニタリング」を行いながら手術を進めます。

 モニタリングする者が術者に筋電図波形変化を適宜伝え、負担がかかれば術者は5分ほど手を止めたり、神経の浮腫炎症を取るためにステロイドを投入したりします。

 また、いくら先端医療がそろっていても、術者が十分な技術を身に付けていなければ最大限の効果を得ることはできません。そこで当医局では整形外科全般を九つの専門診療班に分けて、班ごと専門性に特化した臨床技術を磨きます。

 術中脊髄モニタリングの確立と術者の手術手技の向上により、脊髄腫瘍や脊椎靭帯骨化症も術後にまひが残ることも少なく、車いすが必要になることはほとんどありません。

 現在、髄内腫瘍の手術において術後まひの悪化率は20%、腫瘍の全摘出率は80%を超えるなど高実績を残しています。

 脊柱変形や脊椎腫瘍の場合は、術中移動型CT「オーアーム」を用いて手術を行います。術中に得られたCT画像をもとに再現された3D映像を、ナビゲーションモニター上で確認しながら手術を進めます。腫瘍の存在部位の正確な位置の把握、最適な位置にスクリューを入れるのに有効です。

 当医局で行われるどの手術にも3人以上の医師が入ります。複数人で施術することで手術時間が短縮し、患者の身体的負担が軽減され、合併症発症の抑制にもつながります。

◎患者に応じた手術法の選択

 脊柱変形は欧米と比べて日本は高齢の患者が多くいる一方、学校検診をすると1.5%程度に症状が見られるなど、幅広い世代に患者がいる疾患です。

 しかし、重症化して手術による矯正固定術を要するのはそのうち10%程度。当院では脊柱変形の手術を年間約100例実施しています。

 高齢者で脊柱変形の症状のある患者にはより安全に手術をするため、新たな手術術式を導入することもあります。骨粗しょう症のある高齢の脊柱変形患者には薬物治療を併用しながら手術をするなど、患者にとって適切な方法を選択した上で手術を行います。

 主に脊柱変形の矯正固定術と変形を伴う腰部脊柱管狭窄症の手術において、当院では2014年から側方進入腰椎椎体間固定術(LLIF)を導入しています。

 腰椎の側方を小さく切開して椎体間に大きなケージを挿入。その後背中を切開し、背骨を矯正というように2段階で手術を行うことで、出血量を減らすように努めています。

 この手術法において、当院では従来通りに小さく切開するのではなく大きく切開を加え、椎体椎間板をよく見えるようにすることで安全な手術を心がけています。腸腰筋上や後腹膜腔を大きく展開することにより、腸管損傷や尿管損傷といった重篤な合併症を防ぐことにもつながっています。

 当院では40代以上の患者の手術実績が多く、国際学会「スコリオシス・リサーチ・ソサエティ」が認定する15施設のうちの一つとして、さまざまな国の研究チームと共に、成人の脊椎変形疾患の治療に関する研究を行っています。

 脊髄腫瘍摘出手術は日本でも実施している病院は少なく、静岡県内では当院だけです。県内に限らず、関西、九州からの患者も多く、年間約50例の手術を実施しています。

技術伝承で地域貢献

◎新専門医制度開始を前に

 新専門医制度では浜松医科大学医学部附属病院が静岡県内の整形外科領域の基幹施設となっています。

 当医局には約80人が在籍しており、その中でさまざまなことを見聞きして学び、成長できる環境が整っています。

 本プログラムの約18ある連携施設にはスポーツ医学、手外科・末梢神経、脊椎外科、関節外科、救急医療、リハビリテーションなど特色ある病院がそろっています。

 各病院をローテーションすることでプライマリケアから最先端の研究や臨床を体得することができます。どの施設でも1人あたり100〜200例と多くの手術件数を経験し、手術手技を高めることができるでしょう。

 新専門医制度では医師が都市部に集中することが懸念されています。

 横浜や東京、名古屋、大阪にもアクセスしやすいという利点が裏目に出る形で、静岡県でも新専門医制度のもとで専門医を目指す医師の約30%が他の地域に流出してしまい、特に外科系の流出が深刻です。

 絶対数が足りなければ、協力病院に医師を派遣することもままならなくなるため、地域の病院もその点を非常に危惧しています。

 専門性の高い領域と、最先端技術を学べる点は当プログラムの強みとなることに間違いなく、都市部の病院にも全く引けを取らない内容になっています。

 都市部に行くことと質の高い教育を受けることがイコールではないことに気付いてもらい、若い医師が今後多く集まってくれることに期待をしています。

病院経営を考える

◎院長としての2年間を振り返って

 浜松医科大学医学部附属病院は病床数613床、この地域の3次救急医療を担っています。1995年に特定機能病院の承認を受けており、「最新かつ高度な医療」を提供し続けることは当院の責務の一つです。

 2015年に国立大学病院として初めて手術支援ロボット「ダビンチXi」を導入。泌尿器科における前立腺がんの前立腺全摘術をはじめ、呼吸器外科における縦隔腫瘍摘出術、上部消化管外科における胃がんの胃全摘術など対応する分野は広がりつつあります。

 放射線透視下でのカテーテル操作による治療と手術を併用して行える専用手術治療室「ハイブリッド手術室」を2016年に開設。心臓血管外科での利用を開始し、その翌年からは「経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)」を開始するなど、特定機能病院として高難度手術の実施・確立にも取り組んでいます。

 私は2年間副院長として病院の医療安全を担当し、2016年に病院長に就任。今年の3月末で2年間の任期が満了します。整形外科学講座の教授と病院長を併任するのは多忙を極めましたが、所属する科を越え、これまで見えなかった病院の全体像を把握し、マネジメントするという経験はとても勉強になりました。

 国の交付金が年々減少し、国立大学の病院であっても各自での収益確保が求められています。

 そこで病院長に就任してすぐ、手術室の稼働率を上げることで収益を上げていこうと考えました。

 手術に伴う入退院の促進、麻酔科医を含めた手術室のスタッフの充実と配置の調整は必須です。

 病棟では日々の病床稼働率を把握し、病床が無駄なく埋まるように、かつ手術が増えても受け入れられるように入退院の調整を行いました。

 全12室ある手術室に対し、術後、麻酔が覚めるまでの患者を収容する待機室を新たに4室造りました。待機室では看護師によるバイタルチェックが行われ、麻酔が覚めたら病棟に移動させます。海外の医療機関の手術室では一般的に置かれている待機室。導入して、効率よく手術室を利用できるようになりました。

 手術の予約に関して、これまで1週間前に取っていましたが、2週間前までと少し早めました。余裕を持たせたことで直前にキャンセルが出ても次の手術を入れるなどの対応ができるようになりました。

 こうした取り組みにより手術室の回転が上がり、年間約6000件だった手術件数は2年間で約7200件まで増加させることができました。

 現在、病床稼働率は平均90%、平均在院日数約12日を維持しています。

◎若い医師に求めること

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 当院が難治性疾患や希少疾患を多く診ていることもありますが、当医局のスタッフは「ここで治療の勝負をつける」という意気込みを持って診療に臨んでいます。100%を目指さなくても良い。しかし何事もポジティブに考え、感謝の気持ちをもって対応できる人を私は大いに歓迎します。

 若い時期だけでなく広い視野を持ち海外にも目を向け、チームワークを大事にしながらも常に新しいことにチャレンジしようとする気持ちは医師として重要なことだと思いますし、私自身も常に意識していることです。

 昨年12月に、脊椎・脊髄の国際学会「アジア・パシフィック・スパイン・ソサエティ」の日本の代表になりました。毎月のように海外の学会に参加して講演や、手術手技の教育に携わっています。

 K(困難な症例を進んで行うべし)K(断るべからず)S(最後まで最善を尽くせ)K(感謝の気持ちを忘れるな)I(いつも笑顔と笑いを大切に)の五つから成る「KKSKI」。これは私の若手整形外科医の教育方針であり、私自身のモットーでもあります。

 病院長に就任して病院の運営業務に慣れることに精いっぱいだった1年目。その後はそれまでの経験を生かし、思い描く病院経営に取り組むことができ、あっという間の2年であったように感じます。

 病院長退任後も、これまで同様忙しい日々が続きそうですが、「KKSKI」を胸に、教育・臨床・研究含め、何事にも精力的に取り組んでいきたいと思います。

浜松医科大学医学部附属病院
静岡県浜松市東区半田山1-20-1
TEL:053-435-2111(代表)
https://www.hama-med.ac.jp/hos/


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