スポーツ整形 軸に生まれる好循環
請われて始めたサッカーチームのサポートをきっかけに、スポーツ選手・愛好者の診療にも力を入れ始めたのがおよそ20年前。スポーツチームの遠征への帯同、外部との交流で医療レベルがアップ。意欲あるスタッフが集結し、患者も集まる好循環が生まれている。
―スポーツ外来などに注力するようになった経緯は。
私が父の跡を継いだ時、ここは有床診療所でした。当時から「外傷は可能な限り断らない」というスタンスで受け入れてきました。
後輩の整形外科医を呼んで医師2人体制にし、増床して45床の百武整形外科病院にしたのが20年ほど前。ちょうどそのころ、学生時代にサッカーをしていた縁で、佐賀県サッカー協会の仕事をさせていただくことになりました。その後、Jリーグ「サガン鳥栖」のチームドクターに就任。チームドクターは3人いて、日ごろの連携が大事だと他の2人にも非常勤で当院に来てもらうようになりました。
私自身、プロスポーツに携わるのは初めてだったので、何ごとも手探りでしたね。他チームのスポーツドクターからも、数多くのことを学びました。
医師、メディカルスタッフを問わず、スタッフにはいろいろな技術を学んでほしいと思っています。スタッフは日ごろから、先進的な取り組みをしている全国のスポーツ医療施設に研修に行ったり、スポーツ医学系の学会に参加したりしています。
特に医師は、著名なスポーツドクターが勤務されている関東の病院に、毎月1週間の研修に行き、新しい技術や情報に触れています。医学や技術は日々更新されていきます。2年、3年の国内留学以上に、私たちにとっては意味があると思うのです。そこで得た知識や技術が日々の診療にフィードバックされています。
スポーツに携わりたいと、当院で働いているスタッフもいます。自主的にスポーツクラブで指導して腕を磨くなど、みんな勉強熱心です。スポーツをしていた者同士だからこそ、心情を理解し、的確なサポートができる部分もあるのではないかと思います。
関わった患者さんが、以前のようなプレーを取り戻した姿を見るとうれしいですね。7人制ラグビーの副島亀里ララボウラティアナラ選手は、当院で手術を受けた後、現役に復帰。リオデジャネイロオリンピック4位入賞の立役者になりました。
―2015年4月に「百武整形外科・スポーツクリニック」を開院しましたね。
診察室が足りなくなり、外来専門のクリニックを開院。トレーニング機器を備えた疾病予防センター「J―STUDIO(ジェイ・スタジオ)」も併設しました。
ジェイ・スタジオは健康運動指導士が常駐し、患者さんだけでなく、一般の方も利用できます。学生も使用するので、使用料は極力抑え、入会金3000円、月会費は1500円〜3000円。最近では、ロコモティブシンドロームや転倒予防のための健康教室が人気です。
―プロ選手を診ることによる医療者側のメリットは。
一流の技術を身に付けられることでしょう。テーピング一つをとっても、選手一人ひとり違いますし、試合の前と後でも変わってくる。また、試合にピークを持っていくためのコンディショニング法、監督がどんな指導をしているのかなど、すべてが勉強になります。
ある時、監督から「けがだけではなく、選手の悩みも聞いてもらえたらうれしい」と言われたことがありました。選手は体が資本ですが、そこだけ見ていてもだめなんですね。ドクターは大事な体を預けてもらうのですから、選手と信頼関係を築かなければいけません。それは、スポーツ選手以外の患者さんと向き合う時も同じでしょう。
―今後の課題や目標は。
スポーツ医学の啓発です。今、地域の中学校や高校、大学の運動部を定期的に診察していますが、選手のコンディションに対する指導者の意識は、まだ低いように感じます。
九州サッカー協会医学委員会でも、スポーツ障害をなくそうと、これまで随分活動をしてきましたが、まだまだ不十分です。例えば、高校サッカーやラグビーなどは3年間が勝負なので、その間に優勝させたいとなると、監督が選手に無理を強いてしまう。有名校になるほど、そんな現実があるのです。
けがが完治しないままプレーを続ければ、選手生命を縮めてしまうかもしれません。年に何回かは、監督とけんかになります。選手には未来がありますから。
現在、佐賀県サッカー協会スポーツ医学委員会の委員長は、当院のスポーツ外来専門医です。彼が中心となり、県下のサッカー愛好者が楽しくプレーできるよう、大会に帯同したり、講習会を開いたりしています。今後も、そのような地道な活動が必要だと思います。
―病院の経営面では。
「働き方改革」を進めたいと考えています。具体的には、スタッフの増員と勤務時間帯の変更ですね。できれば、朝から午後5時までと、昼から午後10時までというように、勤務時間を分けたいと考えています。
学生と高齢者では来院する時間帯が異なります。当院では、学校の授業や部活、仕事が終わってから駆け込んでくる患者さんのため、スタッフが定時を超えて働くケースが出てきています。
患者さんがゆとりをもって来られるように、そして職員に残業をさせずにすむように、勤務時間帯によって医師や看護師、リハビリスタッフなどをグループ分けする仕組みを作れないか模索中です。ただそのためには、あと2人ほど医師が必要です。理想の病院作りは、まだ道半ばです。
診療所時代、父とともに働きながらいつも言われていたのは、「患者さんの身になって考え、行動する」ということでした。私はいつも患者さんから教えられ、成長してきたと感じています。これからも、スタッフたちと切磋琢磨(せっさたくま)し、背中を押されながら、地域医療とスポーツ医学の底上げに尽力したいと思っています。
百武整形外科・スポーツクリニック
佐賀市水ケ江4-2-15
TEL:0952-26-2006
http://www.hyakutake-hp.com/