奈良県立医科大学整形外科 田中 康仁 教授

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活気づく足の外科 時代に合う「足専門家」を

【たなか・やすひと】 1984 奈良県立医科大学卒業 同附属病院臨床研修医 2004 奈良県立医科大学整形外科講師 2009 同教授 2017 奈良県立医科大学スポーツ医学講座教授(併任) 同再生医学・人工関節講座教授(併任)

 足の外科ひとすじ30数年。田中康仁教授は、「足の外科」のエキスパートとして日本有数の診療実績を持つ。

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◎ポピュラーになった足の外科

 常に地面に接する足は負担がかかり、外傷や障害が起こりやすい部位です。足の外科の診療対象は、外反母趾(ぼし)や変形性足関節症など変形を伴う疾患、外傷やスポーツ障害、リウマチや糖尿病などの全身疾患に伴う足病変、骨端症などの思春期に多い疾患や先天性内反足などの新生児の病気など、多岐にわたります。

 しかし昔は、足の疾患は「疾患」としてきちんと扱われず、私が研修医のころは患者さんに「外反母趾」という病名を告げても病気だと認識していない方が多くいらっしゃいました。

 外反母趾の患者さんは若くして靴などの不適合により疼痛(とうつう)を生じ受診する場合と、年齢を重ね変形が進行してどうしても我慢できなくなり受診する場合があります。最終的にはどちらも手術をすることになりますが、後者の場合は70代以上が多く、重症なので手術の難度が上がります。できたら軽度〜中程度で手術矯正したほうが成績も良好です。

 とは言っても、外反母趾の手術である「骨切り術」は、いわば人工的に骨折を起こして変形を治すわけですから、回復には患者さんが思っている以上に時間がかかります。美容目的の手術はおすすめできません。

 手術方法も、かつては医師それぞれが画一的な術式で行っていましたが、現在は足の特徴や病態に一番適した骨切り術を選択する時代になりました。手術用プレートなどの器具も足用ができて、性能も上がっています。関節鏡も足用が開発されて、低侵襲で手術できるようになりました。

 「日本足の外科学会」の会員数も、この10年で約2倍に増加。現在1600〜1700人ほどでしょうか。スポーツ外科やリウマチを入り口に「足の手術をしっかり学びたい」という新しい人が多く入会してきています。

◎糖尿病足病変を防ぐ

 糖尿病の患者数は2016年で1千万人を超え、予備軍もほぼ同数いると推計されています。合併症と言えば網膜症、腎症、神経障害が三大疾病ですが、足病変も見逃せないリスクです。

 壊死(えし)や腫瘍がひどくなると、足を切断せざるを得なくなります。今や世界では、5分に1人のペースで切断する状況になっていると言われています。これを防ごうと活動するのが「一般社団法人アクト・アゲインスト・アンピュテーション」です。杏林大学の大浦紀彦先生が発起人で、私も加わっています。

 2016年の診療報酬改定で、人工透析患者の病院間連携に保険点数が付くようになりました。血流障害による足の壊死を防ぐための末梢血管ステント治療も保険収載され、糖尿病足病変予防のための「フットケア外来」も増えています。

 しかし日本では「フットケア」という言葉が医療に限らず使われています。正しく理解してもらうためのPRが必要でしょう。「医療」としてチーム医療で進めるフットケアの普及のために「日本フットケア学会」が設立されました。私もフットケアの啓発に努めています。

 メディカルスタッフを含むチームで患者のQOLや医療の質を向上しようという機運は高まっています。今後のムーブメントになることを期待しています。

◎足は構造が複雑で面白い

 足は骨や靭帯(じんたい)といった「部品」が多く、形態も複雑です。その中心にあって軟骨に囲まれているのが距骨。末梢血管が詰まることで壊死しやすい骨です。その距骨をアルミナセラミックの人工骨に置き換える人工距骨置換術を開発したのが、十数年前。今、この人工距骨の使用が全国で増えつつあります。

 足を観察するには、超音波が有用です。組織が薄いので上から当てたら全部見える。対象を追いながら新しい病態も見つけられます。

 奈良医大では足の手術はほぼすべて、整形外科医による超音波ガイド下伝達麻酔で実施しています。超音波で末梢神経や穿(せん)刺針、薬液の流れを確認しつつ行うことで、必要最小限の麻酔薬で確実な効果を得ることできる上、局所麻酔なので、ハイリスクの患者さんにも対応できます。

 交通事故などによる下腿の開放骨折の患者さんが運ばれてきても、この方法ならば必要な部分の神経伝達をすべてブロックできます。整形外科医が1人で当直していても処置することが可能になります。研修医必須のテクニックですね。1カ月もあれば習得できますので、全国的に普及できればと思っています。

 日本で初めてペインクリニックを始めたのは奈良医大整形外科です。伝達麻酔も、その伝統を受け継ぐものかもしれません。超音波ガイド下で生理食塩水を筋膜間に注射して痛みをとる「ハイドロリリース」も各地で始まっています。「超音波ガイド下」は、次世代の治療手技として楽しみな分野です。

◎足疾患専門の医師

 アメリカやイギリスにはポダイアトリーという足病学があり、ポダイアトリストという専門の足病外科医がいます。ナポレオンも専任を抱えていたそうで、それぐらい「足」は整形外科にとって重要な領域です。

 目が悪かったら眼科、歯なら歯科に行くように、足の調子が悪かったら足病院へ行く。欧米では当たり前です。これだけ足の患者さんが増えたのですから、日本でも行政が関わって体制を整えていく段階です。

 今は糖尿病足病変で言えば、まず糖尿病内科医や看護師が診て、患者さんをさまざまな診療科に振り分けています。潰瘍があったら形成、骨がつぶれていたら整形、爪の変形があれば皮膚科...。将来的には、総合的にワンストップで診られるような仕組みができればいいですね。

 日本はもちろん、東南アジアでも足の外科は注目されてきています。足は骨だけで28個あり、それだけ疾患は多種多様。非常に面白いジャンルなので、醍醐味(だいごみ)を味わいたい人は、足だけにぜひ「足」を踏み入れてほしいですね(笑)。

◎県唯一の医大として

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 奈良県内にある医大はここだけです。大学でしかできないと考えている骨軟部の悪性腫瘍や重度先天異常の治療、難しい脊髄手術などの分野には引き続き力を入れていきます。

 また、奈良医大整形外科には半世紀前に世界で初めて切断指の再接着に成功した歴史があります。以来、血管縫合などのマイクロサージャリーが強みで、足の指を手に付けるなどの複合組織移植も得意としています。

 われわれの教室には手、足、肩、膝、股関節、脊椎、骨軟部腫瘍と七つの研究グループがあり、それぞれをカバーしています。再生医学、スポーツ医学、リウマチ学、リハビリテーションなど、グループを横断するチームもあります。

 特にスポーツ整形は活発ですね。AT(アスレチックトレーナー)やPT(理学療法士)も含めたチームの勉強会が盛り上がっています。中でも、足のけがは海外から相談に来る人もいます。

 関節内出血など血友病性疾患の治療にも力を入れています。頑張らねばと思っているのは小児整形。いくら少子化といっても、必ず小児の先天障害の患者さんはいます。可能な限り県内で治療を完結させたいという思いでやっています。

奈良県立医科大学整形外科
奈良県橿原市四条町840
TEL:0744-22-3051(代表)
http://www.naraseikei.com/


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