温泉地で体と心両面の健康を追求する
◎病院の来歴と概要
当院は戦前の1939年、傷痍軍人のリハビリのために設立されました。戦後しばらくは結核の療養所として、昭和40年代からは整形外科をメインとした現在のような体制に移っています。
診療科は内科、神経内科、 整形外科・リウマチ科、リハビリテーション科。部門は検査科、放射線科、薬剤科、看護部、地域医療連携室、栄養管理室に分かれています。
2015年3月には「訪問看護リハビリステーション」も設置。訪問看護と訪問リハビリに取り組んでいます。訪問事業は、慣れ親しんだ地でより良い状態で生活していただくための予防的支援や、自宅訪問による医療処置などを通して地域に貢献したいとの思いでスタート。認知度が高まったおかげもあり、利用者は増えています。
特に、訪問リハビリの利用者が多くなっています。週に1度、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が自宅を訪れて指導。定期的にスタッフと顔を合わせることで患者さんの運動に対する意欲が高まったり、安心感が生まれたりといったさまざまなメリットがあると感じます。
導入から約3年が経過しました。スタッフを増員し、車両も揃えました。黒字というわけにはいきませんが、地域のニーズがある限り続けていきたいと考えています。
◎「温泉」という強み
当院ならではの施設として挙げられるのが「温泉」です。皇族や文人墨客に愛されてきた三朝温泉は、世界有数のラジウム温泉として知られています。
当院のすぐ近くにも泉源が複数ありますし、少し離れた温泉街にある良質な泉源からも湯を引いています。1分間で最大250ℓという豊富な湯量を誇り、入浴はもちろん、リハビリ用プール、足湯、飲泉と多角的に活用しています。
かねてからリハビリの患者さんに好評で、県中部を中心に山陰、山陽、京阪神、九州といった遠方からお越しの方もいます。定期的に訪れる"リピーター"の患者さんも多く見られます。
薬だけが治療ではありません。慢性の痛みが劇的に良くなるということはまれですが、温泉地という非日常的な場所に環境を移し、温泉でリラックスするというのは数値では計測できない効果があると思います。
そもそも、痛みと精神状態は密接な関係があります。痛みがあると通常、脳からドーパミン、続いてオピオイドが多量に放出されます。その結果、痛みが和らぐのですが、ストレスや不安、心配ごとを抱えていると脳でドーパミンが放出されにくくなり、同時にオピオイドも減り、痛みをより強く感じてしまうのです。
現代医学においては、統計的な有意差がないと効果を唱えることができませんが、それは指標の違いでしかありません。痛みは数値化できないことも多くあります。主観的であっても、患者さんが満足したりくつろいだりしたことで痛みが和らいだと感じたら、それが何よりなのではないかと私は思います。
◎整形外科とリハビリ科の特徴
整形外科・リウマチ科の対象は脊椎・脊髄外科と関節リウマチを含めた骨・関節外科が主です。医師は私を含めて常勤5人、非常勤1人の体制で医療に当たっています。
人工関節や脊椎の手術は当院独自のクリニカルパスを使用し、温泉治療設備でのリハビリテーションを行っているのが特徴です。関節リウマチの教育入院や生物学的製剤を用いた治療にも取り組んでいます。
急性期の疾患に対応するだけではなく、回復期のリハビリテーション病棟もあり、継続して医療を受けられます。病棟は移ることになりますが、同じ医療スタッフが関わるので患者さんにとっては安心なのではないでしょうか。
リハビリテーション科は理学療法部門、作業療法部門、言語療法部門に分かれて運営。病状の時期に応じたリハビリテーションをしています。
整形外科のドクターとリハビリテーション科のセラピストは常に連絡を取り合い、情報共有を大切にしています。週に1回カンファレンスを開き、患者さんのリハビリの様子を撮影した動画などを確認しながら進捗状況を話し合います。
私も執刀に当たった一人の整形外科医として、やはり患者さんの術後の経過は気になるわけです。ですので、リハビリの様子を逐一確認できるのはありがたい。患者さんも医療者も、どちらも安心できる方法なのです。
◎地域の中で求められていること
当院は地域医療連携室・医療相談室を設置。この地のニーズに合った医療を提供することを重要視しています。
われわれが地域の中で求められているのは、やはり患者さんが整形外科的な疾患を乗り越え、いつまでも体を自由に動かせるというコンディションの維持です。
ただ、高齢の方が多いため内科の疾患も同時に多くなってしまう。内科と整形外科が協同で医療に当たる姿勢が不可欠です。
そこで、日常の緊密な連絡だけでなく電子カルテもフル活用しています。かつては内科と外科でカルテが別々でしたが、最近は1人の患者さんに関するすべての情報が同じカルテに記録されています。
困ったときなどは電子カルテに書き込みますので、診療科の垣根を越え、いつも言葉のキャッチボールをしているような感覚です。
◎鳥取県中部地震で考えたこと
2016年10月、鳥取県中部地震が起きました。金曜の午後2時過ぎに発生。そのとき私は院内の自室で打ち合わせ中でした。棚が全部倒れてしまうくらいの揺れで恐怖心を抱くほどでした。
すぐに会議室に対策本部を設置。被害状況を確認し情報収集に当たりました。同時に医師会と衛星電話で連絡を取り、外来の中止を決断。夜勤者の確保、寝具や食事の手配などにスタッフとともに奔走しました。
幸いなことにけが人はなく、建物の接合部や給湯設備などに被害があったもののライフラインは保たれていました。度重なる余震で落ち着かない日が続きましたが、翌週火曜の手術を延期するだけで水曜からは平常診療が可能になりました。
発生6日目に平常に戻れたのは、被害がそこまで深刻でなかったことも大きいですが、スタッフ全員が研修会に参加して非常時の訓練をしていたこと、日ごろからスタッフ同士の情報共有への意識が高かったことが理由だと思います。
◎体と心が揃って初めて本当の健康
ここ数年、スタッフ同士のコミュニケーションの向上に力点を置いています。新しい概念の導入も進め、最近は「ペップトーク」を学んでいます。
ペップトークとは、スポーツの試合前に指導者が選手に伝える短い激励。シンプルで前向きな言葉を使うコミュニケーションの方法です。
院内研修で、まずは同僚とのコミュニケーションをスムーズにするところから始められればと思います。さまざまな気付きを得た上で患者さんとの良好な関係構築にも応用できればいいですね。
医療において円滑な人間関係や信頼関係は非常に重要。医療は双方向的なものですから、コミュニケーションはすべての源だと思うのです。
患者さんがこの病院に来るのは、痛みなど体に不具合がある時です。しかし、原因が心にあることも多くあります。その場合、体だけを治療して「はい、治りましたよ」と言っても十分ではありません。体と心。両方の健康を私たちはしっかり考えていきたいと思っています。
公益社団法人鳥取県中部医師会立 三朝温泉病院
鳥取県東伯郡三朝町山田690
TEL:0858-43-1321(代表)
http://www.hosp.misasa.tottori.jp/