小児から高齢者まで心の問題を解決したい
奈良・三重両県で精神科の病院、診療所など20余りの施設を展開するハートランドホスピタルグループ。グループの先駆けとなった病院「ハートランドしぎさん」は奈良県内の精神科病院で最大の700床を有する。精神科医として臨床に携わりながら運営のかじを取る徳山明広院長に話を聞いた。
◎認知症患者の身体合併症に対応
1934年に開設された信貴山病院は、1998年の新病院建て替えと同時に「ハートランドしぎさん」に改称し現在に至ります。小児から高齢者まで全年齢層の心の問題を解決することを目指しています。特に精神科救急、高齢者の認知症、子どもと大人の発達障害に力を入れています。
推計では65歳以上の高齢者の認知症患者数は2025年には約700万人に増加、約5人に1人が認知症になるとみられています。
当院でも認知症の患者さんが年々増加しています。精神科病院として、行動・心理症状(BPSD)がある精神的に不安定な認知症患者を積極的に受け入れています。
また、認知症をより正確に診断するため、今年はMRIの導入を検討しています。すでにCTでの画像検査は実施していますが、MRIによる画像検査では脳の形状の異常などが精緻に確認できます。
現在、国内では内科で認知症を診ることができる病院は少ない。たとえ診ることができても入院時には「24時間付き添ってください」と言われることもあるようです。しかし、共働き家庭が増える中、対応するのは難しい。ところが、精神科病院には内科などの身体科を診る医師がほとんどいないのが実情です。
そのため、当院では認知症の患者さんで身体合併症がある患者さんを診ることができる体制を作っています。内科、放射線科、歯科の常勤医のほか、整形外科、皮膚科、泌尿器科の非常勤の医師が精神科医と協力しながら患者さんを診ます。
身体合併症の中でも特に問題となるのが、がんです。当院では、認知症で末期がんの患者さんの疼痛のコントロールなどをしながら終末期医療にも関わっています。
認知症患者だけでなく、高齢化によって他の疾患の患者さんにも合併症が増えています。精神科病院といえども「精神科しか診ることができません」では社会に求められる医療サービスを提供しているとは言えないでしょう。
◎子どもから大人まで発達障害に対応
近年、発達障害の増加も精神科医療の課題となっています。文部科学省の調査(2015年度)によると発達障害に対する特別な指導を受けている小中学生の数は、2006年度と比較して約6.1倍に増加しています。
大人の場合、うつ病などの精神疾患に発達障害を併存している患者さんがまれではないことが分かってきました。
当院では従来からあった「子どもの発達外来」を2016年4月に新組織「子どもと大人の発達センター」とし、内容を充実させました。
現在、国内には子どもから大人までの発達障害を専門に診断、治療する病院やクリニックはほとんどありません。多くが、子どもは診るけれども大人は診ない、あるいはその逆という施設です。
しかし、われわれとしては、子どもから大人まで、1人の患者さんを年齢で区切ることなく、長期にわたって診ることが大切だと考えています。それによって発達の段階に応じた診断や治療が適切に実施できます。
新センターでは、これまで対応できなかった20歳以上にも対応。奈良県以外の地域からも多くの患者さんが来院しています。今年4月にも医師を増員するなどセンターの強化を図る予定です。
◎訓練プログラムを実践
子どもと大人の発達センターでは、通常の診察だけでなく、発達障害に対するさまざまな治療プログラムに取り組んでいます。
まず、小学生までの子どもを対象にするのが「感覚統合療法」。遊具を使いながら脳の感覚を統合し、行動、情緒、学習能力の発達を促します。
例えば何人かが一緒に乗って、同時に前後に動かすブランコがあります。他人との協調性が必要ですから、遊びの中から対人関係を学ぶことにつながります。また、ボルダリングは、患者さんが自身の右足、左足の感覚をつかみ、バランス感覚の改善が期待できます。これは脳の発達に効果をもたらします。
「ペアレントトレーニング」は、親御さんに子どもの行動を理解してもらい、子どもさんへの対応の仕方を学んでもらうもの。適切な対応によって、子どもは社会への適応行動を増やし、不適応な行動を減らせます。同時に、親のストレスの軽減も目指します。
小学生を対象に少人数のグループで取り組む「ソーシャルスキルトレーニング」もあります。友達から誘いを受けたけれども、それを断りたい時にどうやって断るかなどを実践的に学習。社会性をプログラムによって習得します。
大人の患者も多数受け入れています。大人の発達障害という概念が浸透してきたためか、「社会で生きづらさを感じている」という人の来院が増えています。
大人の場合は、来院した日、1日だけで精査をして診断をするのが当院の特徴。仕事をしている方も多いので通院の負担を減らすことが第一の目的です。
午前中に来院した患者さんに、問診(事前に資料を郵送)や心理検査を実施。患者さんに休憩を取ってもらうなどしている間に、担当した医師、看護師、臨床心理士、精神保健福祉士ら多職種で、診察前と後にカンファレンスを開いて、患者さんのアセスメント結果を検討して、今後どのように支援していくかなどを話し合います。面談をした日にカンファレンスを開きますので、スタッフの記憶が新しいうちに結論を出せるのもメリットです。
大人の就労支援のための「成人発達障害就労準備デイケア」を設けています。発達障害の特性があり、能力があっても仕事を続けられない患者さんはコミュニケーションのスキル習得を目指し、就労支援施設での実習をします。そうすることで現場で役立つスキルと自信を養ってもらいます。
◎ブランドイメージの確立を目指す
病院として、医療安全の確立に努めることは当然として、それに加えて就任以来一番大事にしてきたのが「接遇」です。
病院の入り口には「コンシェルジュ」を配置。初めて来院した患者さんやご家族などが困っている様子を目にしたらすぐ対応できるようにしています。
また、現場責任者の担当者ミーティングを毎朝実施。その日入院する患者さんの情報などを事前に共有し、最良の医療サービスを提供できるよう準備します。
現在、患者さんやご家族からの入院希望、また医療機関からの入院依頼があれば、即時に対応できる体制にしています。
また、外来診療の場合精神科病院やクリニックなどの初診受け付けはほとんどが予約制です。当院では即時に対応できるような体制を検討しているところです。
患者さんやご家族の要望があれば、新しいことを導入する。常にその気持ちを持つことが重要です。「ハートランドに行けば専門的治療が受けられる」「ハートランドに行けば大切にしてもらえる」「ハートランドは安心できる病院」...。そんなブランドイメージを患者さんやご家族、さらには地域の方々が持ってくださるようにこれからも研さんを続けたいと思います。
一般財団法人 信貴山病院ハートランドしぎさん
奈良県生駒郡三郷町勢野北4-13-1
TEL:0745-72-5006
http://www.heartland.or.jp/shigisan/