近畿大学医学部消化器内科学教室  工藤 正俊 主任教授

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今、肝がん治療は転換期の真っただ中に

【くどう・まさとし】 1978 京都大学医学部卒業 1979神戸市立中央市民病院(現:神戸市立医療センター中央市民病院) 1987 米カリフォルニア大学留学1999 近畿大学医学部消化器内科学教室主任教授2008 近畿大学医学部附属病院病院長

 肝がん克服を目指して新規薬剤の開発や「次の標準治療」の確立に向けたプロジェクトを進める工藤正俊主任教授。今年1月にも、世界初となる臨床試験の成果を米国で報告してきたばかりだ。「もうすぐ肝がん治療が大きく変わる」ー。そう確信する理由を探った。

◎ 10年の経験を糧に成功にこぎ着けた

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 近大で確立した新しい医療を世界へー。その思いを基本方針として、肝臓、胆膵、消化管の三つのグループが臨床、研究に取り組んでいます。

 それぞれが専門性を高めつつ、グループ間の境界線はつくりません。肝臓グループに属していても、胆膵疾患の患者さんを担当するなど、和とチームワークを重視した教室として機能することを目指しています。

 2017年の当教室の英文論文数は、およそ110編。国内大学の消化器内科の教室において、おそらくトップクラスでしょう。昨年1年間のインパクトファクターの点数が600ほどありましたから、量だけでなく内容についても高い質であると自負しています。

 近畿大学医学部附属病院が有する929床中、消化器内科のベッド数は101床。平均在院日数などの面でも、当院の全診療科の中で上位に位置しています。

 1999年に旧第2内科から独立し、10人でスタートした当教室のメンバーは現在40人近く。モチベーションの高い人材が集まっています。2016年には、北野雅之准教授が和歌山県立医科大学内科学第二講座の教授に就任しました。

 世界に目を向けた研究と臨床の成果は、私たちが日々向き合う患者さんたちに「最高の医療」として還元していきたいと考えています。

 逆説的に言えば、最高レベルの医療を実践しているということは、現在の医療の限界を理解することでもあります。打破するにはどうしたらいいのか。それを考え続けることが、私自身のテーマでもあります。

 近年、私の活動の中心は、新規の分子標的薬、免疫療法薬などの臨床試験です。これまで20近くの国際共同治験に参加し、ステアリング・コミッティー(運営委員)に選任されたり、プロジェクトのトップを務めたりしてさまざまなグローバル規模の薬剤開発の推進に関わってきました。

 どんなにすぐれた薬剤であっても、臨床試験の「デザイン」が不完全であればプロジェクトの成功は難しい。特に肝がんの領域におけるいくつかの臨床試験は残念ながら失敗しましたが、その原因から学んだことは多くあります。

 ここ10年間ほどの経験を踏まえて、昨年から今年にかけて、成功と言えるプロジェクトが続いています。進行がんの一次治療薬としてはレンバチニブ、二次治療薬ではレゴラフェニブにおいて、生存期間の延長に寄与するデータを示すことができました。

◎ルールの再定義で世界初の成果

 2010年から2017年に私が主任研究者として取り組んだ医師主導型臨床試験の結果を、今年1月、サンフランシスコで開かれた「米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム」で発表しました。950の演題のうち肝胆膵領域の口頭発表は4題。その一つに採択されました。現地メディアなどの反響も非常に大きかったですね。

 国内の33施設と連携して、切除不能の肝がんに対する「肝動脈化学塞栓療法(TACE)と分子標的薬ソラフェニブの併用療法」の有効性、安全性を検証。世界で初めて実証に成功しました。

 TACEは、肝がんに栄養を供給している動脈を薬剤とスポンジ様物質で塞栓し「兵糧攻め」で死滅させる治療法です。ただし、塞栓すると腫瘍が低酸素状態に陥って血管新生を促進し、がんの増殖を活性化します。世界的な標準治療となっているものの、再発の可能性が高いのです。

 血管新生を抑制するのがソラフェニブです。併用療法の理論そのものはずいぶん前から存在していました。国内外で臨床試験が実施されてきたのですが、いずれも失敗に終わっています。

 私たちが成功できた要因の一つは臨床試験の主要なエンドポイント(評価項目)である「無増悪生存期間」の定義を変更したことにあります。

 これまでの臨床試験の方針は、一般的に用いられるがん化学療法の治療効果判定基準「RECIST」に基づいていました。肝臓内に「何らかの新たな病変」が起こると、TACEによる増悪でなくても「TACEが不成功」と見なされ、その時点で試験を打ち切るというストッピングルールが設けられていたのです。本来なら長期間の投与で治療成績が高まるはずが、短期間にとどまっていた。結果、併用療法の効果が検証できなかったということです。

 そこで、私たちはストッピングルールを見直しました。TACEは日本で開発された技術。特性を知り抜いていることを強みに「TACEによる増悪」の基準を新たに作成しました。

 従来の試験では平均20週ほどだった投与期間をおよそ倍の38週に延ばすことができ、TACE単独の治療と比較して、併用療法は明らかに高い効果を示しました。臨床試験のデザインの工夫が成功につながったというわけです。

 次のステップとして考えられるのは、別の薬剤とTACEによるコンビネーション試験。また、分子標的薬と免疫療法薬を組み合わせることで、一部のケースについては塞栓を薬物療法に置き換えることができるかもしれません。新しい標準治療の開発に向けたプロジェクトに、近いタイミングで着手する予定です。

◎肝がんの領域は日本の得意分野

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 現在、注目している治療の一つは門脈腫瘍栓に対するカテーテルを使用した抗がん剤治療の動注化学療法と分子標的薬とのコンビネーション。

 また、ラジオ波焼灼療法による肝がんの治療後に、免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブやペムブロリズマブを投与すると、再発を抑制できる可能性があります。2017年2月に、私たちは3年間のプロジェクトとして治験を開始。世界的にも例がありません。

 分子標的薬のペムブロリズマブと、免疫療法薬のレンバチニブを組み合わせた肝がん治療の治験も進めています。この組み合わせは、日本が世界に先駆けています。国内の実施施設は、国立がん研究センターと近畿大学のみ。フェーズ1、2を終え、近いうちにフェーズ3に移行します。

 肝がんは再発が多いのです。治療を繰り返す中で肝不全が起こり治療を中断せざるを得ない。そんな患者さんをたくさん診てきました。

 かつての肝がん患者さんの余命は平均3カ月。現在は50カ月ほどになり、5年生存率も50%前後に向上しています。治療成績は着実に良くなり、新規薬剤の併用によりさらに高めることは十分に可能ではないかと思います。

 肝がんの治療に関してはスクリーニングによる早期発見の仕組みが整っていることもあって日本が最も進んでいると言っていいと思います。

 切除、TACE、ラジオ波焼灼療法、動注化学療法などの従来の治療に対してブレークスルーをもたらしたのが、国内で2009年に承認された分子標的薬。近年、効果が高くて副作用の少ない薬が開発され、既存の治療との組み合わせで、さらなる効果も期待できます。

 数年以内に肝がんの治療は大きく変わるでしょう。転換期の真っただ中にある。私たちはそんな時期にいると思います。

近畿大学医学部消化器内科学教室
大阪府大阪狭山市大野東377-2
TEL:072-366-0221(代表)
http://www.med.kindai.ac.jp/shoukaki/


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