共同制作でチーム医療促進
九州がんセンター(福岡市南区)が1月、患者向けの医療ガイドブック「がんと向き合うあなたへ〜知りたいこと、伝えたいこと〜」を発刊した。
がんの基礎知識から最新治療まで、A4サイズ144ページ(オールカラー)にわたり62のテーマで構成。同院では初のガイドブック発刊で、さまざまな部門の職員が集まって知恵を出し合った。同院の藤也寸志院長は、「多職種が共同で本を作り上げたことでチームワークの強化にもつながった」と言う。
正しい情報をしっかり伝える手段を
がん患者やその家族に正しい情報は届いているのか―。
そんな疑問をきっかけにしてガイドブック発刊の計画が持ち上がったのはおよそ2年前。2014年度の厚生労働省「患者体験調査」によれば、がん診療連携拠点病院などが開設しているがん相談支援センターの利用率はわずか7.7%。いまだ窓口の存在はあまり知られていない。
「日々の診療の中で、情報が行き届いていないことを痛感している。科学的根拠にとぼしい情報を信じてしまっている患者さんやその家族もいる。九州唯一のがん専門病院として、正しい情報を分かりやすく伝える必要があると考えた」(藤院長)
ポイントは、医師や看護師のほか、薬剤師、理学療法士、医療ソーシャルワーカー、事務職など、多様な職員が制作に関わり、顔写真や、テーマの監修者として名前入りでメッセージを発信していることだ。
編集委員の中心として制作プロジェクトを引っ張った森田勝統括診療部長は、「チームによるがんのケア」をテーマに九州がんセンターの取り組みを紹介。イラストなどをまじえて、「患者や家族もチーム医療の一員」であることを強調する。
看護部長は、2人の看護師が協力して質の高い看護の提供に努める「パートナーシップ体制」や訪問看護ステーション開設に向けた訪問看護準備室の活動状況などを報告。臨床研究センター長は注目のキーワードである「プレシジョン・メディシン」「免疫チェックポイント阻害薬」を解説している。
「がんって何だろう?」から「AYA世代のがん患者が受けられるサポート」まで、29項目のQ&Aも掲載。多様な角度から、患者のさまざまな疑問に応える一冊となっている。
職種間の垣根なくしテーマを絞り込んだ
これまで、九州の医療機関が同種のガイドブックを制作したケースは決して多くはない。
苦心した点の一つはテーマの絞り込みだ。日ごろ患者からよく受ける質問をベースに検討を重ねた。「職種間の垣根をなくして、みんなで患者さんが本当に聞きたいことは何かを考えた。チームワークの醸成や、当院が目指すべき方向性の共有は、本を制作した目的の一つでもある」(藤院長)
発行部数は4000部。福岡市内の主要な書店で販売しているほか、九州・山口の関連病院などにおよそ3000部を配布した。医療者と患者のコミュニケーションを深めるツールとして活用してほしいとの思いからだ。
藤院長は「ぜひ待合室などに置いてもらいたい。患者さんが手に取ることで少しでもがん医療への理解が広がってほしい。チーム医療を印象づけることで、医師以外の職員にも自由に質問していいんだということが伝わればうれしい」。
がんを宣告された患者とその家族は大きく動揺する。ガイドブックが不安を払しょくし、医療者が円滑に医療を進めるための「道しるべ」にもなればと期待を寄せる。
「医療者の目線ではなく誰もが理解できる言葉になっているだろうかと悩み、何度も読み返しては修正した。もちろん、この一冊でがん医療のすべてを網羅できたわけではないが、共同制作の経験は医療の質の向上につながると思う」(藤院長)
■ガイドブックに関する問い合わせ
TEL:03-5441-7450(バリューメディカル)