地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立こころの医療センター 村上 直人 院長

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多様化する精神医療への戦略と挑戦

【むらかみ・なおと】 1983 千葉大学医学部卒業 浜松医科大学精神科入局 1992 榛原総合病院精神科 2005 静岡県立こころの医療センター副院長 2012 同院長

―病院の沿革について教えてください。

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 1956年に「県立精神病院養心荘」として開院し、今年で開設62年になります。

 開設当時は統合失調症など重度の精神疾患の患者は長期入院が当たり前で「治療して退院させる」という考えはほとんど根付いておらず、長期に入院することによって、患者に本来備わっていた生活能力まで損なってしまう「施設症」と呼ばれる状態を引き起こす要因にもなっていました。

 「入院患者が増えれば新たに病棟を建て増し・増床させる」ということが一般的に行われており、1980年代初頭には日本における精神病床数が30万床を超え、世界でも有数の精神病床を有する国になっていました。

 「調子が悪くなれば手早く入院治療を施し、できるだけ早い時期に家庭に戻す」という理念のもと、千葉県精神科医療センターが全国に先駆けて精神科救急を開始したのはこの時期です。その取り組みは次第に全国に広まり、当センターは現在、静岡県中部地区の輪番病院および全県の3次救急を担っています。

 現在の建物は1991年に造られましたが、病床の多くが4床室でした。しかし、緊急性の高い急性期の患者や重症の患者の治療には対人関係から生じるさまざまなストレスは有害であるため、静穏な療養環境が必須です。そのため精神科救急病棟の施設基準においても病室の半分以上に個室が求められています。

 そこで新病棟建設時の350床から個室化と看護師などの人的資源の集約化を行い、現在の172床までダウンサイジングしました。

 1996年に「静岡県精神科救急システム」の運用が始まり、当センターでは2001年に急性期病棟を開設しました。1990年代になると症状や、暴力行為などの行動が改善しない患者への対応が問題となってきました。こういった患者は「治療困難例」「処遇困難例」と呼ばれ、看護師をはじめとするスタッフの数は現実的な問題として施設基準以上の配置を要します。診療報酬上の手当てがない中でこうした患者を受け入れることは病院経営を圧迫することにつながりかねず、民間病院からの要請もあり、公的病院である当センターがこうした患者の多くを受け入れることが求められました。

 「処遇困難例」の中には殺人から軽微な犯罪に至るまでの「触法行為」を犯した患者も多く含まれていました。そのような患者の入院・治療を行う「司法精神病棟」の必要性が認識され始め、重大な犯罪を行った精神障害者に対する「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)」が2005年に施行されました。同法は殺人や放火、強盗、傷害などの重大な刑事事件を起こした後、精神状態を理由に不起訴となった場合などに、検察官が医療観察法の申し立てを行い、裁判所で入院や通院などの処遇が決定されるものです。現在、医療観察法における指定入院機関は公的病院に限られています。人口550万人当たり33床の病床数が必要という国の試算に基づき整備が進められ、当センターでは人口367万人の静岡県の対象者を受け入れるため12床を整備しましたが不足が生じ、県内のすべての対象者の受け入れには至らず、他県の指定病院に患者の受け入れをお願いしているのが現状です。

―多職種連携を核とした多彩な精神疾患への対応。

 2013年に急性期病棟をスーパー急性期病棟に格上げし、スーパー救急病棟2病棟と男女混合病棟、男子慢性期およびそこに併設された医療観察法病棟の4病棟という現行の体制がほぼでき上がりました。ハードの変化だけでなく、こうした体制を支える精神保健福祉士や作業療法士、臨床心理士といったスタッフの増員、医療安全への配慮・医療技術の向上のための教育研修を行うなど、ソフト面の変革と強化にも力を入れました。

 精神科救急が対象とする疾患は、統合失調症と感情障害の2大精神疾患が中核です。しかし精神疾患の併存症として発達障害や物質依存症を認めることは珍しいことではなく、著しい認知症の行動・心理症状により自宅や施設での介護が困難になり入院を依頼されることも増えてきています。

 精神科救急病棟には入院患者の60%を3カ月以内に退院させるという要件があり、入院の初期からゴールを見据えた治療計画を立てる必要があります。そのために医師、看護師、臨床心理士、作業療法士、薬剤師による多職種チームを編成し、特定の疾病や病態ではなく症例単位で診療する方向にかじを切りました。

 薬物療法をはじめとする各種療法によっても症状が改善せず長期入院を要する症例は、統合失調症の患者をはじめ一定数存在します。こうした「重度かつ慢性」と呼ばれる難治症例に対しては、麻酔科医師による筋弛緩(しかん)剤の使用下において施行される「修正型電気けいれん療法」や、「治療抵抗性統合失調症」に対して有効性が認められるものの顆粒球減少症などの副作用発現の可能性があるため、原則1週間ごとの血液検査が義務付けられている「クロザピン」の使用を積極的に行っています。

 2016年には慢性期の男女混合病棟の4床室四つを8床の個室に改装しました。これによりスーパー救急病棟の運用や病院全体の治療能力が向上。長期に在院していた患者の病状改善や退院できるケースも徐々に増えてきました。

―地域の医療機関との連携と今後の展開。

 「退院促進事業」の推進により長期入院患者が減少すると同時に退院後の患者の支援が重要になってきています。継続型就労支援作業所の整備も進み、精神疾患を持つ患者を取り巻く環境は著しく改善されてきました。

 一方で核家族化や高齢化、独居化が進み、患者の中には退院しても自宅で生活することが難しい人が増えている現状があります。当院においても訪問看護の患者数は年々増加傾向にあり、今後はデイサービスや訪問看護だけでなく、入院以外の方法で居住し支援する施設の充実が急務となっています。

 また精神科のクリニックで治療中に重症化し入院治療を要する患者や、一般病院の救急救命センターに自殺企図などで搬送されて身体的な治療は終えたものの、その後精神的に不安定な状態が続く患者の紹介を受けることも増えてきました。

 静岡県内の地域医療連携ネットワーク「ふじのくにねっと」に2017年7月から参加しています。病院、診療所、薬局などの参加施設が、登録した患者の治療履歴や検査データ、薬の処方内容といった医療情報を共有することで、地域全体が大きな病院となって病気を治していこうという狙いです。

 現在は運用を開始したばかりで市場は小さいですが、今後ネットワークが広がれば医療機関同士の連携がしやすくなり、患者さんにもメリットがあると考えています。

―今後の展開を。

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 地域医療構想をもとに在院日数の短縮を進める国の医療政策や、2000年に施行された介護保険制度により訪問看護・介護などの在宅サービスや老人保健施設などの施設サービスの利用者数が増加。それにより当院でも早期退院、重症患者の積極的受け入れや精神科救急に力を入れる方針に変わってきました。

 薬物療法をはじめとする治療技術の進歩、精神疾患に対する社会的認識の変化、少子高齢化による疾病構造の変化で多様化する精神疾患に標準的かつ高度な医療を提供できるように、地域の精神疾患の中核医療機関として、どんな患者にも最後までシームレスに対応していきたいと思います。また医療だけでなく行政や福祉との連携をさらに強化していきたいと考えています。

地方独立行政法人 静岡県立病院機構静岡県立こころの医療センター
静岡市葵区与一4-1-1
TEL:054-271-1135(代表)
http://www.shizuoka-pho.jp/kokoro/


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