倉敷中央病院 山形 専 院長

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「エコシステム」を倉敷で実現したい

【やまがた・せん】 1975 金沢大学医学部卒業 京都大学医学部附属病院脳神経外科医員 1979 米アリゾナ州フェニックス・バロー神経学研究所 1996 倉敷中央病院 2008 倉敷中央病院副院長 2010 京都大学医学部脳神経外科臨床教授 2016 倉敷中央病院院長

―第3次中期計画が3月で終了します。

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 5年間の成果を振り返るとともに、2023年3月までの第4次計画を策定しました。第3次中期計画は基本理念である「患者本位の医療・全人医療・高度先進医療」に基づき、目標や課題を網羅的に掲げました。今回は病院が目指す方向性をさらに絞り込み、「五つの機能強化」をテーマとしています。

 一つ目は、当院にとって欠かせない高度先進医療の整備を引き続き進めていくこと。二つ目は地域に信頼される救命救急センターとしての役割を果たしていくこと。

 三つ目としてトリアージ機能の高度化を図ります。ちょっと頭が痛いと訴える患者さんが、実はくも膜下出血だった。背中の痛みが心筋梗塞の前兆だった―。軽度に見えても、大変な疾患が隠れていたという例も少なくありません。

 1次、2次、3次の患者さんを当院でしっかりと見極め、地域内で適切な診療につなげる仕組みづくりを推進します。高度な医療が必要な患者さんは当院。そうでない患者さんは、重症度や疾患に応じてしかるべき診療科を擁する医療機関で治療を受けられるよう、機能分化を明確にします。

 患者さんの利益につながるのはもちろん、医療機関にとっても「どんな患者さんがくるのか分からない」という負担を軽減できます。それぞれの強みに特化した救急医療に力を注げる環境を目指したいと思います。

 四つ目は、米国のメイヨー・クリニックでも実践されている「ディスティネーション医療」の確立です。

 患者さんは高齢の方ほどさまざまな疾患があります。当院にはすべての診療科がそろっていますので、各科が部門の壁を越えて集中的に、短期間で治療を終えることのできる体制の構築に努めます。検査と治療の日数を抑えれば、遠方の患者さんも通いやすくなるでしょう。患者さんの「ディスティネーション=最終目的地」を担います。

―最後の一つは。

 予防医療の強化です。医療がこれほど進化した時代にいまだ「もっと早く病を見つけて治療していれば」という例が後を絶たないのはなぜかと疑問に思うのです。これまでのような「待ち」の医療から、「攻め」の医療に転換していきます。

 私の専門である脳神経外科の領域で言うと、MRIで検査すれば、血管の変異を早い段階で見つけることができます。危機を察知する手段があるのに、起こるのを待っているだけでいいのか。

 脳の血管以外はなんともないのに、脳卒中というたった一つの疾患で半身不随になってしまう。それは、あまりにも理不尽なことではないかと思います。私たちが積極的に介入をしていけば長く元気でいられる方を増やせるはずです。当院が一丸となって「点検する医療」へとかじをきります。

 当院が予防医療を重視していくというスタンスを、新築移転する健診センターの名称「予防医療プラザ(仮)」にも込めました。2019年6月の開設見込みです。

 当院向かいの駐車場跡地に建設中です。5階建てで、1階のイベントスペースを中心に、倉敷市とも共同して市民に向けた啓発活動などに取り組みます。面積は現センターの約3倍。健診施設としては、国内最大級の規模を有することになります。人間ドックや健診の受け入れは現状で年間およそ3万8000人。数カ月待ちの状況が続いているのですが、新センターでは年間6万人ほどに対応可能です。

 かねてから、私が実現したいと強く願っていた事業です。市民の健康を守るのが第一であると同時に、当院が持続してより良い医療を提供していくための収益の柱としても期待しています。

―数々の取り組みと職員のモチベーションのバランスをどう保ちますか。

 当院は2016年3月に、国際的な医療機能評価「JCI(ジョイント・コミッション・インターナショナル)」の認定を取得しました。来年2月、更新の審査を受けます。

 取得して以降、感じるのは、職員が自分たちの医療に自信をもっているということです。2017年に日本医療機能評価機構の審査を受けた際にも、中心となって準備を進めてきた若手職員が堂々と対応していました。新しい世代にも、常に前進していくという姿勢が根付いていることが伝わってきて、うれしかったですね。

 当院はこの20年ほどの間に急激な成長を遂げてきたのです。私が倉敷中央病院にやってきた1996年当時、勤務しているドクターはおよそ180人でした。いまや480人が働いています。組織が大きくなると、意識や仕組みの内部統制が難しくなります。

 自分たちの手だけで意識改革を実現するのは容易ではありません。ならば「外圧」を加えて変化させてはどうか。そう考えたのが、JCI受審の発端です。

 4年間にわたる準備期間の中で、実は何度も挫折したのです。「大丈夫だろう」と思って模擬サーベイ(調査)を受けたところ、あらゆる面を指摘されて散々な結果でした。約1200もの測定項目をつくり直しましたし、建物の一部を改装したり、セキュリティーシステムの見直しを迫られたりしました。

 結果的には本審査を延期せざるを得ず、もう一度当院のあり方を徹底的に見つめ直したことがプラスになったのだと思います。挫折はしても諦めなかったのは、もともとポテンシャルがあったからでしょう。それを審査によって引き出すことができたのではないかという気がしています。

 いい面、悪い面、さまざまな部分が整理されたことで、これから何を改善すべきかがはっきりとしました。課題がなくなることはないのでしょう。病院のレベルが上がっていくと、その段階ごとのウイークポイントが見えてくる。それをくり返していく中で全体が底上げされていくものだと思います。

―今後、どのような点に注目していきますか。

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 医療の効率化においてITのさらなる活用は欠かせません。実際、当院でも多様な企業とともに導入に向けた検討を進めています。

 当院には100台のエコーなど、数多くの医療機器があります。これらはすべて有効に使われているのだろうか。例えばその検証を、ITを活用することによって進めていくといったものです。新しい機器が発売されればすぐに買うべきか。それとも待った方がいいのか。あるいは旧機種のままだが、更新した方がいいのではないか。客観的なデータに基づいた資産管理によって優先順位を判断します。

 無駄を削減することで生まれる資産はおそらく膨大でしょう。医療情勢がますます厳しくなっていくこれからの時代は、外部の力を借りた危機管理を欠かすことはできません。

 生き残りを図るという側面では、やはり基本となるのは地域連携です。倉敷市中心部には公的病院がないことも後押しとなり、医療機関同士の信頼関係も厚く、機能分化が進んでいます。

 第4次中期計画で挙げているトリアージをはじめ、それぞれの医療機関が持ち味を発揮し、知恵を出して助け合う。「医療のエコシステム(生態系)」の構築が、今の私の夢ですね。

公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院
岡山県倉敷市美和1-1-1
TEL:086-422-0210(代表)
http://www.kchnet.or.jp/


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