鳥取大学医学部器官制御外科学講座麻酔・集中治療医学分野 稲垣 喜三 教授

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理想の麻酔科医像を描き患者に寄り添う

【いながき・よしみ】 鳥取大学医学部卒業 1990 大阪大学医学部助手 1999 鳥取大学医学部講師 2001 鳥取大学医学部助教授 2003 鳥取大学医学部麻酔・集中治療医学分野教授

◎手術、ICU、ペインクリニックの3本柱

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 私たちが担当しているのは手術室における麻酔管理、ICUにおける重症患者の全身管理、ペインクリニック外来における疼痛(とうつう)緩和の三つの専門領域です。加えて、コンサルタントの形でがん性疼痛の緩和にも携わっています。

 鳥取大学にはさまざまな外科系診療科と手術部、MEセンターから構成される低侵襲外科センターがあり、構成する診療科が集まって新規手術の申請に対して厳正に審査し、協議を重ねています。また、手術方法の変更要請や中止勧告を、診療科以外の医師が行います。

 その中で、われわれ麻酔科医には、手術室におけるコーディネーターの役割があると考えています。

 鳥取大学は中国地方で初めて補助人工心臓の植込み手術や、「TAVI」と言われる経カテーテル的大動脈弁置換術を開始しました。

 ICUでは、こうした先進的な外科医療や敗血症性ショックをはじめとする重篤な全身性疾患に対応するために、種々の高度医療機器を用いて治療と管理に専心しています。

 周術期に、常に集中治療医と麻酔科医が同じ動線におり、一人の患者さんをシームレスに診る体制が整っているのが特徴です。ICUでは、鎮静や鎮痛プロトコルが定められており、早い段階でのリハビリテーションの介入で患者さんの早期離床を目指しています。

◎東洋医学の視点を大事に

 ペインクリニック外来では、がん以外の慢性痛や術後痛、外傷後痛、腰痛などさまざまな痛みを扱っています。

 「痛みを緩和する」と聞くと、神経ブロックで和らげるというイメージを持つ方が多いと思います。ところが、慢性痛の場合、神経ブロックでは効かないことの方が多いのです。

 痛みと情動は密接な関係があり、気分が落ち込むと痛みが増悪します。そこで重要になってくるのが、薬物療法に加えて精神面へのアプローチです。患者さんとじっくり向き合って、痛みを増悪させない行動や生活を指導しています。

 また、鳥取大学のペインクリニック科の特徴と言えるのが、漢方薬を積極的に活用しているところです。西洋薬の基本は「一つの原因に対して一つの薬効」ですが、慢性痛の患者さんには無数の訴えがあります。

 漢方薬は、一つの包材にさまざまな薬効を含んでいます。複数の症状を訴える患者さんに漢方薬を併用することで、西洋薬の処方数を減らしていくことができます。

 さらに私は鍼灸(しんきゅう)も治療に採用。西洋医学だけに偏らず、東洋医学も融合させて患者さんの症状を和らげることに注力しています。がん性疼痛の緩和のケアチームでも、漢方薬を積極的に使用しています。

◎旺盛な研究意欲で広いテーマに取り組む

 麻酔科では、医療機器の開発に力を入れています。最近では、鳥取県の医療機器開発支援事業のプロジェクトで医療用ヘッドライトを開発しました。

 また、気管挿管や消化管内視鏡操作の医学教育のためのシミュレーターの製作にも携わりました。従来のものよりも、限りなく人間に近いのが特徴で、より臨場感が得られると好評です。

 麻酔科では、幅広い研究が行われています。遺伝子から患者個人の薬効を予測する研究や、ノーベル賞で話題になった時計遺伝子や抗酸化作用の遺伝子といった、遺伝子と麻酔や重症疾病との関係を解明する研究にも活発に取り組んでいます。

 さらに、心筋細胞のiPS細胞を培養して、どの麻酔薬がどのように作用するのか、といった「iPS細胞と麻酔」というテーマでも研究を続けています。未知でありながら、近いうちに必要になるであろうと考えられる分野です。

◎鳥取県の麻酔科医療の現状

 当科の弱点は、麻酔科医が15人しかいないため、術後鎮痛が手薄になってしまっている点です。術後すぐはまだしも、最後までフォローできていないのが欠点だと自覚していますし、悔しさを覚えるところです。

 現在、県内で約40人が麻酔科医として働いています。公的病院八つのうち六つは鳥取大学麻酔科出身の常勤の麻酔科医が対応しています。

 鳥取県は人口が少ないので10万人当たりで割ると麻酔科医の数が多い印象を持たれることがあります。しかし、県の医療需要を十分に満たしているとは思っていません。

 手術数が増えるから麻酔科医が増えるわけではありません。麻酔科医がいて安全性が高まるから、手術の件数が増えるのです。病院の医療収益のかなりの割合を手術が占める現状では、麻酔科医の充足率は、病院経営の面からも大きな課題になります。

 ただ、少ない麻酔科医数ではありますが、全員が一丸となって大学、ひいては鳥取県の麻酔科医療を支えているという共通認識を持つことができているところが、鳥取大学麻酔科の特徴であり、科長として誇りに思っているところです。

 4月から始まる「新専門医制度」で、麻酔科専門医プログラムを鳥取県で選択するならば、鳥取大学のプログラムしかありませんので、私たちには追い風と言えます。より多くの仲間が入局することを期待しています。

◎まずは理想を描くところから

 後進によく伝えているのは「自分が患者になったときに、どのような麻酔科医に身を委ねたいかを考え、その麻酔科医を理想像として描きなさい」ということです。

 もちろん、理想の麻酔科医像は一人ひとり異なりますが、それでいいのです。その理想像に向かって研鑽(けんさん)することが、大切であると指導しています。

 全身麻酔中は、患者さんとの会話が成り立ちません。それゆえ、患者さんが訴えたいことを感じとる感性が大切です。患者さんの「声なき声」を、モニターの数値や波形、麻酔科医の五感を使って「聞き取る」ことが求められるのです。だからこそ、私たちはおごることなく研鑽することで、患者さんの信頼が得られると思っています。

◎麻酔科医のこれから

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 今後、医療の現場においても、AI(人工知能)が活躍していくことは間違いないでしょう。すでに5年ほど前からそれに近いモニターが出てきています。薬も単純な投与量ではなく、ターゲット・コントロールド・インフュージョン(TCI)法による血中濃度で投与する方法が主流になりつつあります。

 近い将来、患者さんの膨大なデータを瞬時に処理、管理するAIも出てくるでしょう。そうなると、麻酔科医の重要性が小さくなるのかと言うと、私はそうではないと思います。AIが導き出した答えが本当に正しいか、見抜く力が必要だと考えるからです。その力はどこにあるかと言うと、やはり患者さんに直接触れる、目で見るといった人間の五感を駆使した基本的な診察の中にあります。

 薬に対する反応はもちろん、挿管するときも、患者さん一人ひとりすべて反応が異なります。確かにAI化しやすい科ではあると思いますが、そういうところこそ人として卓越した知見と技量が求められますし、それを磨くことこそ、麻酔科医が生き残る道だと確信しています。

鳥取大学医学部器官制御外科学講座麻酔・集中治療医学分野
鳥取県米子市西町36-1
TEL:0859-33-1111(代表)
http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/departments/medical/masui/


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