奈良県立医科大学 麻酔科学教室 川口 昌彦 教授

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日本で最も「幸福」な医療を確立したい

【かわぐち・まさひこ】 1988 奈良県立医科大学卒業1991 国立循環器病センター 1995 米カリフォルニア大学サンディエゴ校麻酔科 2000 奈良県立医科大学麻酔科学教室講師 2012 同教授 2016 奈良県立医科大学学長補佐

◎全身管理の総合医

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 「チームで楽しく、新しいことにチャレンジしよう」―。これが当教室のモットーです。手術麻酔、集中治療(ICU)、ペインクリニック、緩和医療、医療安全などをバランスよく、いずれも高いレベルで実践できる体制を整えています。

 これら麻酔科領域の医療は超高齢社会においてますます必要とされ、より統合されていくと思います。そんな未来に備えて「では、私たちは今なにをすべきか?」を行動の基準としています。

 私たちが最も重視しているアウトカム(成果)は、患者さんが治療を受けた後、いかに生き生きと暮らして「幸福」になれるかということ。

 かつてのように手術の成功だけではなく、術後の合併症の予防や機能回復などを視野に入れた周術期管理体制を構築しています。私がセンター長を務める周術期センターは口腔機能管理室など6室で構成。手術予定の患者さんに対して麻酔科医、歯科医、歯科衛生士、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、臨床工学技士、事務など多様な職種がチームとして患者さんを支えます。

 手術の1カ月前に運動や栄養管理、口腔ケア、禁煙、リラクゼーションなどを開始。手術に備えて体の状態の最適化を図り、術後の体力の回復まで見すえた「プレハビリテーション」に取り組んでいます。

 私たちは「全身管理の総合医」として、術後早期には「麻酔科医全員参加型」を基本方針とする集中治療、術後痛管理をします。高齢者はもともと「体のどこかが痛い」という方が多く、ペインクリニックでは急性痛と慢性痛の両方をカバーします。

 これまで「がん」の印象が強かった緩和ケアは近年、「非がん性」の疼痛(とうつう)管理のニーズも高まっています。疾患が治る人も治らない人も、すべての患者さんの幸福度を引き上げる医療を追求しています。

 中には残念ながら、術後の機能回復が期待できない患者さんがいます。医師に手術しましょうと勧められれば、なかなか断れないと感じている方もいるでしょう。医師の立場になれば、適応する手術があるのだから提案しない理由はない。

 患者、家族、医療者がしっかりと意思を共有して決断する。それを支援するために、術後10年までの生活機能をフォローするコホート研究が進行中です。どのような種類の手術は回復が難しく機能が低下しやすいのかなどを調査。「手術を受けるかどうか」「手術をするかどうか」を判断する手がかりを導き出したいと考えています。

◎医療のイメージをひっくり返す!

 ICUは閉塞された空間ですから、患者さんにとって非常にストレスフルな環境です。そこで集中治療部では、患者さんが心地よいと感じる空間の創造を目指す「エフェクティブ・メディカル・クリエーション」の一環として、「五感を刺激する快適空間」の実証実験を推進しています。

 壁面にデザインを施して視覚に訴えたり、アロママッサージで触覚を刺激したりするほか、「疑似窓」を導入しました。屋外に設置したビデオカメラで外部環境の映像を放映します。

 例えば当院から望むことができる大和三山を映すのです。朝日が昇る、曇っている、雨が降っている。そうしたちょっとした変化を患者さんが感じると、脳が活性化し、免疫力が高まり、合併症の予防にもつながると考えられています。

 ご自宅とICUを映像でつないで家族と会話できるようにするなど、活用の幅を広げていく予定です。病院内で「自分は生きている」という実感を得る。その実感が患者さんの回復を促進する。これからの医療の重要なテーマになるのではないかと思います。

 この実証実験の成果はさまざまな病棟でも展開できると思いますし、多様な産業と結びついていく可能性がある。その意味では、医療こそ次の時代の産業創生のカギを握っているのではないかとも思います。

 幸福度を高める対象は患者さんだけではありません。私が当病院の「医療安全・質評価・教育対策プロジェクト」のリーダーとして現在進めているのは、スマイルスキャンで職員1000人の「笑顔度」を測定する「スマイルプロジェクト」。院内に笑顔があふれる「日本一幸福な病院づくり」の一環です。

 これまでと同じ診断と治療を続けているだけでは、日本は行き詰まってしまう。従来の病院のイメージをひっくり返したい―。そんな思いで取り組んでいます。

 奈良県立医科大学は県や企業、地域とともに、医学を基礎とする町づくり「メディスン・ベースド・タウン(МBT)」構想を掲げています。

 2016年10月に第1回目の「奈良県立医科大学健康フェア」を開催。2017年8月の第2回は「美と健康、笑いと健康」をテーマに設定し、よしもとクリエイティブ・エージェンシーとタイアップ。「笑いヨガ」や所属タレントのシルクさんによる美容教室など、幅広い年齢層に健康づくりに関心をもってもらえるよう、コンテンツを工夫しました。

 橿原市の今井町には江戸時代の風情ある町並みを残し「重要伝統的建造物群保存地区」に指定された一画があります。年に2度、同町の順明寺で「着物でジャズ」を開催。私は実行委員長を務めています。当大学が医療相談やストレスチェックのブースを設置するなど「伝統、音楽、医療」が融合したイベントを企画しています。

◎これ以上ワクワクできることはない

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 私は神経麻酔を専門としていますので、神経モニタリングにも力を入れています。見る、話す、聞くといった機能を温存し、術後機能障害やせん妄、認知機能の低下などを防ぐには、神経モニタリングが非常に重要な役割を果たします。神経機能の回復についてあらゆる角度から研究、実践を重ねています。

 数年内に制度開始を予定している日本臨床生理学会による神経モニター専門医、認定技師の資格取得に向けて、国内初の教育プログラム「臨床神経モニター学」を開設しました。2018年度には麻酔科、脳神経外科、整形外科、心臓血管外科、臨床検査部で、術中神経モニタリングの修得を目指す臨床検査技師、臨床工学技士、医師の受け入れをスタートします。

 育成面では、幅広い領域をカバーすることができ、信頼される麻酔科医を養成したいと考えています。特に各診療科とのチーム医療がさらに重要になっていくのは間違いありませんから、その推進役を担える人格を培ってほしいと思います。

 自分たちの医療を客観的にとらえる視点も不可欠。海外留学や学会発表を奨励しているほか、国内外の講師をまねいた勉強会も開き、常に知識と技術のアップデートに努めています。

 女性医師の活躍を促進するプログラム「ママ麻酔科医制度」も整備。当院だけでなく、関連病院すべてで女性が働きやすい環境の充実に注力し、専門医の取得、出産や子育て後の社会復帰を後押ししています。

 若手も女性も、定年を迎えたシニア麻酔科医も関連病院も、相互に力を合わせて補い合う。そんな「家族」のような関係性を築くのが理想です。 医療における幸福度の重要性は、これまであまり目を向けられていなかった領域です。まさに究極のアウトカムと呼べるもの。新しい医療を確立していくということは、「人間そのものを見つめる」ことでもあります。医師として、これ以上ワクワクできることはありませんね。

奈良県立医科大学 麻酔科学教室
奈良県橿原市四条町840
TEL:0744-22-3051(代表)
http://www.naramed-u.ac.jp/~anes/


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