未来を決める「行動力」 全員参加で健康経営を
第二次世界大戦勃発直後、航空機メーカー「川西航空機(現:新明和工業)」の企業立診療所として開設してからまもなく80年。戦後、当時の社長が「明るくみんなの力を合わせて再起しよう」という願いを込めた「明和」の名前は、今、地域にしっかりと根付いている。
―明和病院の強みの一つが、外科治療をはじめとする肝胆膵がんの治療ですね。
この病院に来るまで、兵庫医科大学に四半世紀在籍。第一外科で、肝がんを中心とする肝臓外科に取り組み、胆管がん、膵臓がんも治療してきました。2001年に、この病院に赴任してからも、その流れを継続しています。
肝胆膵の手術は難しく、侵襲も強い。もともとこの病院には、肝胆膵外科をする土壌がなく、医師、看護師などスタッフの知識・技術の向上と、院内環境の整備を同時に進める必要がありました。ICU(6床)を造り、手術室を増室。検査部門、術後管理部門など関連部門も急ピッチで強化し、肝胆膵がんの治療も可能なように病院機能を適合させていったのです。
当初、私を含めて4〜5人だった外科医は、現在16人。肝胆膵領域に関しては高度技能指導医3人を擁し、腹腔鏡下手術や血行再建を伴う難易度の高い手術にも対応できるようになりました。
臨床研修病院、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設Aの認定も受け、若い医師の教育にも貢献。地域のハイボリュームセンターの役割を果たしています。
2013年にはがんを早期発見・治療するための「明和キャンサークリニック」を病院近くに開設。これも肝胆膵領域を含むがん医療推進の大きな後押しとなりました。
がんを診断するために大きな力を発揮する「PET-CT装置」、骨転移などを診断する「シンチグラム診断装置」を設置。それまで他施設に依頼していたがんの三大治療法の一つ、放射線治療も高精度なものが可能になり、肝移植を除く肝胆膵がんの治療すべてが可能になりました。
―遠隔転移がある進行がんの治療にも定評があると聞いています。
外来での化学療法や分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬などを使った薬物療法によって、局所治療が可能になるまでがんを縮小させ、手術や放射線治療で根治を目指す―。そんな集学的治療によって「諦めない姿勢」を貫いてきました。
他の医療機関で「もうできる治療がない」と言われた患者さんもお見えになります。しかし、治療が奏功し、膵臓がんで肝転移がありながら、5年を経過した人もいる。肝胆膵がんに限らず、乳がん、肺がん、胃がん、大腸がんなどの患者さんも治療しています。
私自身、「諦めない」をモットーに外科医として歩んできました。1990年代には、ラジオ波焼灼療法を外科医でありながら大学で開始。だからこそ思うのは、「自分が持つ武器」をできるだけ多くして治療に臨むべきだということです。
肝がんで言えば、内科医はラジオ波焼灼で治そうとし、放射線科医は肝動脈塞栓術、外科医は手術で何とかしようとする...。しかし本来は、患者さんやがんの状態に応じて、さまざまな選択肢を使い分けたり組み合わせたりする必要があると思うのです。
若い医者によく言うのは、「診療ガイドライン漬けのドクターになるな」ということ。ガイドラインのみに沿っていたら、医療の進歩は妨げられるでしょう。
当院では、ガイドラインから一歩踏み込んだ治療で、予想外に長く生きられる人が出てきています。ガイドラインは重要ですが、あくまで参考にするもの。しがみつくべきものではない、というのが私の思いです。
―超高齢社会に入り、求められる医療が変わってきています。必要とされる医師像も変化しているのでしょうか。
患者さんにとって大事なのは、病気やけががきちんと治ること。治療した医師の専門が内科か外科かなどは問いません。
高齢者が多くなり、1人の患者さんがいろいろな病気を同時に併せ持っている時代です。その都度、違う診療科、違う病院に杖をついて行かせるようでは、「高齢者ファースト」の医療とは言えないでしょう。
これから必要とされるのは、患者が頼って来るような高度な専門性を持った医師か、深く広く知識を持った総合医のような医師。地域密着の中規模病院で欠いてはならないのは、後者です。特に内科や外科では、そのような総合力のある医師がますます必要とされる時代になると思っています。
―医師、職員の教育について聞かせてください。
私自身、およそ1500例と多数の肝切除の経験。当院に赴任したばかりのころは、肝胆膵専門は私と部下の2人だけでしたが、今は、多くの医師に集まってきていただいています。
物事を達成したいと思ったとき自分一人では何もできません。一番大事なのは人を育てることです。中でも特に重要なのは、組織の中の自分たちが教育・指導すること。基本は自分たちで汗をかき、どうしてもできない、わからない部分を外部に頼るのがベストだと思います。
外科医でも、ある程度手術できる人が、他施設に見学に行くからこそ多くのことを吸収でき、勉強になる。まったくできない人が見学に行っても、「すごかった」で終わり、ほとんど身に付かないでしょう。
昨今はコンサルタントを招くなど、すぐに外の力を借りたがる傾向にあります。お金さえ払えば簡単なことですが、人材教育もマネジメントも、ベースに愛情があることが大事なのではないでしょうか。
当院では月1回、院内でランチョンセミナーを開いています。職員が講師になり、疾患や最新の治療法、制度などについて話をしています。教える側になることで、職員にも自覚と自信が芽生え、より深く学ぶきっかけにもなる。自分たちで教育するということには、ひとことでは言えないメリットがあると感じています。
―理事長として、今後目指す病院の姿と、具体的な取り組みを。
病院の理念にもある「親切で信頼される病院」として、地域の中規模病院のトップランナーでありたい。大規模病院の真似をするのではなく、小回りが利く中規模病院にしかできないことを実現していきたいと考えています。
当院では親切、信頼、周知、遂行、スピードの五つの「S」を具体的な目標に掲げています。2018年は、この「明和の5S」を実行するため推進運動を開始。職員には「こころざし」と「行動力」を持って仕事に従事することを訴え、全員に理念が定着した「理念浸透型健康経営」を目指しています。
すでに部署長には私の思いなどを伝えました。これからは、他の職員およそ550人を少人数ずつのグループに分けて、私から話をする機会を設けたいと考えています。
私が職員に伝えたいのは、上司ではなく患者さんの顔を見て働くこと、職員全員が経営感覚を持って働くこと、日々診療科や部署の垣根なく働くこと。人事評価では、多面評価を取り入れ、診療面でのアクティビティーのほか、医療人として、そして、人としてどうかという視点も、ないがしろにしないようにしています。上司からだけでなく部下からも評価されるシステムによって、「現場主義」「全員参加」が具現化できるのです。
医療法人 明和病院
兵庫県西宮市上鳴尾町4-31
TEL:0798-47-1767(代表)
https://www.meiwa-hospital.com/