鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器・乳腺甲状腺外科学 前村 公成 准教授

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

遺伝子解析で変わる 膵臓がん治療

【まえむら・こうせい】 鹿児島高校卒業 1991 鹿児島大学医学部卒業 同第一外科研究医 1997 米ジョンズホプキンス大学医学部外科リサーチフェロー 2006 済生会川内病院外科部長 2009 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器・乳腺甲状腺外科学助教 2015 同准教授

-がんの特性を見極めた上での集学的治療法開発に力を入れていると聞いています。

k-25-1.jpg

 私は肝胆膵外科が専門で、その中でも特に膵臓がんをメインとして、その治療を胆道がんにも応用しています。

 われわれの研究班ではこれまで、がんの特性を見極めるための分子生物学的なアプローチとしてCTC(血中循環腫瘍細胞)やCSC(がん幹細胞)の解析を行ってきました。現在取り組んでいるのが、膵臓がん患者さんのマイクロRNA解析です。マイクロRNAは、発がんに密接に関与することが明らかになっています。私たちもその点に着目し、千葉大学機能ゲノム学の関直彦先生らと共同で基礎研究を進めています。

 例えば、鹿大病院では、膵臓がんが疑われるすべての患者さんに対して超音波内視鏡での組織生検を実施。その組織サンプルの中からマイクロRNAを解析するプロジェクトをスタートしました。

 また、膵液の中には、膵臓がん特有のものがあることも推測されるため、がん患者さんとそうではない人、それぞれの膵液のサンプルを収集し、比較解析する取り組みも行っています。

 膵臓がんは、難治性がんの代表とされ、かつては切除不能と診断されるケースも多かったのですが、近年では化学療法の進歩などにより、手術への変更(コンバージョンサージェリー)も可能になりました。当院でも長年にわたる術式の改善で術後の合併症発生率が減少するなど、治療成績は確実に向上しています。しかし、このような集学的治療をもってしても、ベストな治療法は確立されていないのが現状です。

 そこで、膵臓がんに特化したマイクロRNAのデータベースを構築することにより、がんのタイプを分類し、それぞれのタイプにはどんな治療が有効なのか、あるいは効果がないのかを解明し、集学的治療の発展に貢献したいと考えました。

 こうした取り組みを実践できる重要なファクターとして、当院には、膵臓がんを専門に研究しているスタッフが多いことが挙げられます。その領域は、外科、内科、放射線科、病理科など多岐にわたります。

 MRIでの画像診断や超音波内視鏡による組織生検、診断確定などにおいて、各専門領域で研さんを積んだスタッフがそれぞれの知見を持ち寄ることにより、質の高いデータを積み重ねることが可能になっています。

 また、こうした研究ができるのも、患者さんあってこそ、です。データを解析することが治療成績の向上につながればそれが一番ですし、データそのものが医療の発展に貢献する一助となれば、病気で苦しまれた患者さんも少しは報われるのかもしれないと思っています。

-「遺伝子解析」や「がんの特性情報」が、がん治療に取り入れられる中で、外科医にはどのような役割が求められますか。

 「遺伝子解析」や「がんの特性情報」の解明が進むと、その人の病気の個性が一層はっきりとしてきます。つまり、より確実な治療法がわかるようになるということです。

 化学療法や放射線治療においては、より効果的な治療法のみを選択できるようになりますし、外科治療においても、これまでに蓄積されたたくさんの治療法の中から、一人ひとりの患者さんに合わせたベストな術式や切除範囲が選択されるようになるはずです。

 こうした「プレシジョン・メディシン(精密医療・個別化医療)」が実現されると、がんの根治に向けて、より高い精度の手術が必要となり、外科医にも一層高い技術が要求されることが推測できます。

 また、手術では組織や臓器を切除するため、患者さんには少なからず侵襲を加えることになります。当然、手術には高い安全性が求められますし、侵襲をなるべく少なくし、予後を改善することは、最も重要な外科医の役割のひとつです。

 遺伝子解析は、がん治療において、今後欠かせないものになるでしょう。われわれは研究と臨床を両立する立場として、基礎研究の成果を臨床の現場でどのようにして有効活用できるかを常に探索し続けていかなければならないと考えています。

-「双方向性画像支援機能を持つ胆道・膵再建シミュレーターおよび遠隔指導システムの開発」にも取り組んでいますね。

k-25-2.jpg

 この研究は、手術の安全性の向上につながるものです。現在、膵臓がんでは腹腔鏡手術が増えていますが、かなり近い将来、ロボット支援手術に移行していくのではないかと思われます。

 そこで、いま私たちが開腹で実施している胆道・膵臓の再建手術を、腹腔鏡手術でより安全に行うための効果的なトレーニングシステムを研究開発しています。

 専門性が高い胆道・膵臓領域の腹腔鏡手術は、専門的なトレーニングを受けた医師と受けていない医師の間に大きな差が生まれます。その技術の差を埋めるためにも、実践的で効率的なシステムが必要だと考えました。

 また、鹿児島は離島が多く、南北に長い土地なので、教育の面から見ても、遠隔指導システムのニーズは高いはずです。

 現在は、どのようなシステムで、どのような画像を共有すればいいのか、どのような手術のトレーニングに有効であるのかを、一つひとつ地道に検証している段階です。

 最近は、プロジェクションマッピングを手術に活用する技術も開発されています。当システムにも最新の画像情報処理技術やミックスド・リアリティー・システムを応用できればと考えています。

 未知なる領域を解明することも大切ですが、工学的な発展を組み合わせて、イノベイティブな取り組みを実践することもこれからの医療には必要だと思います。

 これらの基礎研究が形になり、効果的に臨床に応用できたときに、初めて医療に貢献できたと思えるのではないでしょうか。その使命を果たすために、これからも研究・臨床・教育のすべてに注力していきます。

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器・乳腺甲状腺外科学
鹿児島市桜ケ丘8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://gekaichi.com


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る