熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学 中山 裕史 講師

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CKDプロジェクトはなぜ成果を収めたか?

【なかやま・ゆうし】 1992 熊本大学医学部卒業 同第三内科入局 1993 三井大牟田病院(現:大牟田天領病院) 1997 米エモリー大学腎臓内科留学2000 熊本大学腎臓内科医員 2003 同助手(現:熊本大学大学院生命科学研究部助教) 2010 同医学部附属病院腎臓内科学講師

 熊本市が「市民の健康課題」として掲げ2009年にスタートした「CKD(慢性腎臓病)」対策事業。病診連携による早期発見・予防の体制づくりを進める中で、重要な役割を担うのが熊本大学腎臓内科だ。中山裕史講師は「全国のモデルケースとなる取り組みではないか」と語る。

◎政令指定都市で熊本市が最多の疾患とは

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 全国的に腎不全による人工透析患者が増加傾向にあります。中でも熊本市は、政令指定都市における「人口10万人あたりの人工透析実施件数」が最も多いのです。

 そこで熊本市は2009年、地域の医療機関や市民団体とのネットワークによる「CKD対策推進会議」を立ち上げ、啓発活動や受診率向上のための取り組みを本格化。われわれも推進会議のメンバーとして市のCKD対策に賛同するかかりつけ医と、腎臓内科専門医による「病診連携」システムの構築をサポートしてきました。

 検診などで腎臓病が疑われた場合、かかりつけ医はすみやかにプロジェクトが定める「病診連携紹介基準」に基づいて専門医に紹介。専門医は診断結果、今後の治療方針などをかかりつけ医に伝えます。紹介した患者数は随時市に報告される仕組みです。

 2009年以降の6年間の実績では、新規透析患者が減少。糖尿病患者の透析導入数も下降しつつあり、人口10万人に対する透析患者数についても全国平均レベルに近づいています。行政を中心にした病診連携の成功例と言っていいのではないでしょうか。取り組みは2014年に「厚生労働大臣賞優秀賞(自治体部門)」を受賞しました。

 こうした発病予防、早期発見の活動が円滑に進んだのは、そもそも透析医療に熱心に取り組んできた土壌があるからだと思います。県内の医療機関が横のつながりを意識して、患者さんの状態に合わせた管理を心がけてきた証しでしょう。

 当大学でも、透析の患者さんにリスクが高い心臓の合併症が発生すれば、循環器内科ですぐに対応してくれます。心臓血管外科による心臓弁膜症の手術などの治療と組み合わせることで、さらに予後が向上するのではないかと期待しています。

 また、人工透析患者の臨床研究をはじめ、「心腎連関」の講演会や勉強会が、循環器内科の先生方との連携により開催されています。各科が活発に関わりを深めていくことで患者さんにさらなるメリットを提供できればと考えています。

◎災害時の対策も進む

 熊本県には「熊本県透析施設協議会」という組織があります。1988年、人工透析医療の充実を図ることを目的に設立。人工透析施設を有する病院やクリニックが相互に協力し、さまざまな情報を共有。県内の9割を超える該当施設が加盟しています。

 同協議会は1995年の阪神・淡路大震災を契機に、災害対策に力を入れてきました。毎年、勉強会や訓練に取り組んでいるほか、日本透析医会が開設しているウェブ上の「災害時情報ネットワーク」も活用します。

 いざ大規模災害が発生した際には、県内の各施設が被災状況を入力することができます。誰もが閲覧可能で、今回の熊本地震の際にその有用性が明確に示されました。

 2016年の熊本地震では県内の300人を超える人が、かかりつけの施設で人工透析を続けることができなくなりました。そこで力を発揮したのが災害時情報ネットワークです。患者さんの受け入れや、透析に必要な水の調達などを各施設が協力することで「透析難民」を1人も出すことはありませんでした。

 日ごろから、顔の見える連携があったからこその成果だと思います。被害が大きい地域の情報を得たときには、「もしかしてあの病院が困っているのではないか」といったイメージがすぐに湧きやすいのです。

 震災が患者さんに与える影響なども、今後しっかりと検証して、残していかなければならないデータだと思います。例えば、どのような患者さんが震災後に悪化しやすかったのか、避難所にいた人とご自宅にいた人とで差はあるのか。長期的に調査して、災害医療に貢献できる結果を得ることができればと思います。

◎パーツではなく全身を診ることが大切

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 日本では血液透析が主流である一方で、近年は自宅や職場などで患者さん自身による「腹膜透析(PD)」も少しずつですが増えてきました。

 腹膜透析には、生活スタイルに合わせて実施できる点や、食事制限がゆるやかになったり、通院が月に1、2度程度で済んだりといったメリットがあります。「PDファースト」という言葉があるように、まずは腹膜透析を始めて血液透析に移行していくケースも見られます。

 もちろん、しっかりとした自己管理が求められますし、ある程度は専門的な知識が必要です。腹膜透析に対応できる施設はまだ多くはないのが現状ですが、もう少し広がってもいいのではないかと思っています。

 当教室の向山政志教授がいつも言っていることでもあるのですが、私たち腎臓内科にとって必要なのは「全身を診る」ことです。血液や尿の数値によって腎臓の状態を見極めていくわけですが、それは体のごく一部。さらに全身の状態はどうなっているのかを把握する能力を身につけなければなりません。

 なにしろ腎臓の病気は「合併症のオンパレード」と言ってもいいほどなのですから、いわば「総合内科」に近い視点で患者さんをとらえることが大切です。

 1人の患者さんを長く診療していく中では、心臓や脳血管の病気、がんなどが併発することも少なくありません。ときには皮膚科や整形外科的な知識をもって対応することも要求されます。

 腎臓の病気は悪化しても自覚症状がありません。しかし進行してしまったら元には戻りません。透析については多くの方にはあまり現実味がないでしょう。だからこそ、意識を変える「ひとこと」を患者さんにかけられる。そんな医師でありたいと思っています。

熊本大学大学院生命科学研究部腎臓内科学
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://www.kumadai-nephrology. com/


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