熊本大学大学院 生命科学研究部 消化器内科学分野 田中 基彦 准教授

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ウイルス性から脂肪性へ変わる肝疾患のトレンド

【たなか・もとひこ】 福岡県立山門高校卒業 1988 熊本大学医学部卒業 1994 医学博士取得 2002 熊本大学医学部助手2006 同講師 2012 熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学分野准教授

 DAA(直接作用型抗ウイルス薬)の登場で、慢性のウイルス性肝炎治療は大きな変化を遂げた。同肝炎を背景とする肝がんの発症・死亡者も減少傾向。しかし、熊本大学の田中基彦准教授は「これで安心ということではない」と警鐘を鳴らす。その言葉の真意は。

◎肝がん患者は再び増加に転じるか

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 ウイルス性肝疾患対策が進んだことで、肝がんの発生数、死亡者数は2000年代から減少してきました。しかし、ここ数年、ウイルス性肝炎を成因とする肝がんの発生が減った一方でB型・C型肝炎を背景としない肝がんが増え、総数が減らなくなっている。これが大きな問題です。

 これまで多かったウイルス性肝疾患を基盤とする肝がんを、非ウイルス性肝疾患による肝がんが上回る地域も出始めている。何年か後には、B型肝炎の母子感染を防ぐ目的で1986年に始まったワクチン定期接種の効果も加わって、ウイルス性肝疾患による肝がんはさらに減ってくるでしょう。この傾向は一層顕著になると思います。

 肝障害の中で最も多いのが脂肪性肝疾患。その多くを占めるのは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)で、患者数は1000万あるいは2000万人を上回ると推計されています。B型肝炎のウイルスキャリアは110〜130万人。DAA治療によって近年大きく減少したC型肝炎のキャリアは100万人を切ったと思われ、それらと比較しても、格段に多い。減少してきた肝がんの発生数が高齢化とも関連して増加に転じる可能性は、かなり高いと考えています。

 それに伴って、死亡者も増えると推測されます。ウイルス性慢性肝炎の方には定期的に検査を実施しているため、肝がんが早期に見つかることが多い。しかし、非ウイルス性の場合はスクリーニング検査の実施が難しく、がんが進行した状態で発見されるケースが多々あるのです。

◎糖尿病と肝がん関連周知で死亡減らす

 NAFLDは肥満や糖尿病などをベースに発症し、一部は進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと移行。肝硬変、肝がんへと進行する人も数多くいます。

 NAFLDの人の中には、合併症に糖尿病を有する人が一定数います。そこで日本肝臓学会では、日本糖尿病学会とジョイントで研究会を重ねています。

 しかし、現場の医師に糖尿病の人の肝がんのリスクの高さが十分に浸透しているとは感じられません。早期発見のために、糖尿病患者に対して、かかりつけの医療機関で半年に1回程度、エコー検査を実施してもらったり、肝がん腫瘍マーカーを確認してもらったりという対応が必要だと思っています。

 実際、定期的に検査をするとなると、保険適用の問題もあります。しかし、NAFLD、糖尿病のコントロールによる予防と、スクリーニング検査による早期発見以外に、肝がん死を減らす方法はありません。糖尿病を専門とする先生方と連携する機会を、もっと増やしていかなければいけないと思います。

◎専門家との連携を

 慢性ウイルス性肝炎、特にC型肝炎は、新薬であるDAAの登場でウイルス排除率が9割を超える時代になりました。「薬で治す」病気です。

 一方、NAFLD、NASHは「自分で治す」病気だと感じます。現在多くの治療薬の開発が進められ、糖尿病薬の一部には肝障害に効果があることがわかっていますが、それでも食事・運動療法、生活習慣の改善に勝る治療はないのです。

 「病院にNAFLD、NASHの薬はありません」。患者さんにそう伝えますが、生活習慣の改善によって状態が良くなっていく方は少ない。NASHから肝硬変、肝がんへと移行してしまう人も多くいます。

 中には、ご家族からの提供で肝臓移植を受けて一時的に良くなっても、食生活などから再びNASHになってしまうケースもあります。となると、もはや、生活習慣、特に過食の改善ができないことは、患者さんの意志の弱さや私たち内科医の指導不足だけの問題ではないのではないか。アルコール依存症と同様に、精神科医による介入も必要なのではないか。そんな思いを抱いています。

 NAFLD、NASHに限らず、いろいろな疾患に対する社会的な対策ということにもつながるかもしれません。肝疾患は、診療している医師だけでは解決しないことも多い。診察室以外の場で、さまざまな専門職が関わるような方法、システムを模索しています。

◎ウイルス除去後も要注意

 肝がん治療後、DAAによって肝炎ウイルスを排除すると肝がんの再発率が高まるのではないか-。スペインのグループによる2016年の報告は衝撃的でした。ウイルスを除去した後、短期間で30%弱の人に肝がんが再発したというのです。

 今はまだ議論の段階ですが、ウイルスを攻撃するためにアップしていた免疫力が、ウイルスが消失することによって短期間で通常の状態に戻り、がん免疫も低下するのでは、といった可能性も考えられています。

 ただ、今は肝がん発生、再発の面から「この人のウイルスは消さないほうがいい」と判断する材料はありません。治療可能な方については全員のウイルスを消すことを考えつつ、私たちの教室でも現在、ウイルス排除と肝発がんに関する基礎的研究を進めています。

◎本来の「肝疾患」の姿に

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 C型肝炎ウイルス発見後の肝疾患は、ウイルス性肝炎の治療法の追究、「ウイルス学」が中心でした。今は脂肪性肝疾患の診断や治療の機会が増え、また免疫チェックポイント阻害剤による肝障害、つまり自己免疫性肝炎様の特殊な肝疾患の診断、治療を求められることも多くなっています。

 そもそも肝臓は代謝臓器です。代謝性の脂肪性肝疾患に目が向くようになったことは、肝疾患診療のあるべき姿に戻ってきたとも感じます。

 ほぼ治る時代となって、若手医師のウイルス性肝炎、特にC型肝炎への関心は、今後低くなっていくでしょうが、肝疾患診療が専門性の必要な領域であることに違いはありません。私たちが感じている肝臓のおもしろさ、治療や研究の充実感を若い人たちに伝えることが重要な役割の一つだと考えています。

熊本大学大学院 生命科学研究部消化器内科学分野
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/gastro/


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