長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 形成再建外科学 田中 克己 教授

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目の前にある危機に応えられる再生医療を

【たなか・かつみ】 1984 長崎大学医学部卒業 同形成外科学教室入局 1992 同形成外科助手 1999 同講師 2003 同大学院医歯薬学総合研究科発生分化機能再建学講座構造病態形成外科学助教授 2015 同展開医療科学講座形成再建外科学教授

―形成外科領域での再生医療の現状は。

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 広範囲熱傷(全体表面積の30%以上のやけど)の患者さん自身の正常皮膚を採取し、シート状に培養した「自家培養表皮」は、2009年に治療への使用が保険適用となりました。

 再生医療産業を展開する「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)」に皮膚を送ると3週間後に培養表皮が完成。患者さんの受傷部位に移植します。

 2016年12月、自家培養表皮の適応は「先天性巨大色素性母斑」、いわゆる「あざ」の治療にも拡大しました。形成外科の領域では積極的な導入が進んでおり、2017年に当大学でも1例目の手術を実施。術後の経過も順調です。皮膚の採取を最小限の範囲にとどめることができ、採取した部分の傷跡も従来と比較して目立ちません。

 患者さんの皮膚はJ―TECで8年間保存されますので、2回目、3回目の手術を受ける際に、再び培養するための皮膚を採取する必要はありません。患者さんの負担を抑え、効率的な治療が可能というわけです。

 これから議論を深めていかなければならない課題としては、他人の皮膚による培養表皮を使った「同種移植」の認可でしょう。現在の法律では、自家移植しか認められていません。

 皮膚の同種移植は、例えば子どもの広範囲熱傷で親が皮膚を提供するケースなどで実施されています。問題は、たとえ親子であっても、自身以外の皮膚は完全に生着しないという点です。完全に生着するのは、免疫が一致する一卵性双生児だけです。

 また、皮膚を移植するには、提供者側も入院して全身麻酔をかけなければなりません。大きな負担を強いることになりますし、傷跡も残る。すぐに移植を実施できるのかどうかというタイミングの問題もあります。

 患者さんの皮膚を培養するにしても、熱傷の重症度が高いほど、培養表皮が届くまでの3週間を耐えることができるか?という問題が生じます。そこで他人の培養表皮をすみやかに使える仕組みがあれば、直面している命の危機は脱することができます。

 事故などで亡くなった方の皮膚を冷凍保存しておく機関として「日本スキンバンクネットワーク」がありますが、臓器移植と同様に、なかなか皮膚の備蓄が進んでいないのが現状です。

 iPS細胞などを使った再生医療が普及するには、おそらく数十年かけて越えなければならないハードルがあります。一方で、保険収載が期待される自家の脂肪細胞から得られる幹細胞の移植はコストや安全面でもハードルが低いのです。一刻を争う状況にいる患者さんにとって必要な技術は何か。長期的な視点と短期的な視点、両方をしっかりと踏まえた制度づくりを望みます。

―先生が会長を務める第11回日本創傷外科学会総会・学術集会(2019年7月4日、5日)の準備はいかがですか。

 主要なテーマは二つ。一つは「早くきれいに治す」ということは、外見上だけでなく、生命や社会生活にプラスになるよう「きちんと治る」こととイコールでなければならないという視点です。

 難治性潰瘍、例えば糖尿病の方の足の傷を早くしっかりと治すことができれば、切断にまで至らずに済む。適切に傷を治すことが、いかに社会的な損失を防ぐことにつながるのかを、あらためて考えます。

 もう一つは、学校現場などでの「子どもたちを取り巻く傷」についてです。傷を負わないための予防策や、もし傷を受けたときにはどのような初期対応をしなければならないかなどを話題として扱います。

 近年、日本創傷外科学会は、養護教諭などを対象にした啓発活動を進めるなど、各地域とのネットワークづくりに力を入れています。

 多くの場合、学校現場で初期対応にあたるのは校医です。中には誤った診療によって、その後の人生に影響するような傷が、子どもに残ってしまうことがあります。

 傷への意識を高めておくことで、何かが起こってしまったとしても、迅速な医療機関への連絡ができるでしょうし、あるいは家庭での注意喚起にもつながるでしょう。生活者にとって有意義なものにしたいとの思いから、地域の方がディスカッションに参加するプログラムも企画中です。

 同じく2019年の2月16日(土)、ここ長崎大学で形成外科、整形外科の医師が集まる「第40回九州手外科研究会」を開きます。これまで整形外科の先生が会長を務めてきたのですが、今回私が任命されたことで、初めて形成外科が担当することになりました。

 同じ日に「第11回九州ハンドセラピィ研究会学術集会」も長崎大学で開催されるということで、一部のセッションでは共同の勉強会も予定しています。手の手術においてハンドセラピストの役割は非常に重要です。互いにより深いかかわりをもつことができればと考えています。

 手は人の目にふれる部分であり、かつ鋭敏な機能を備えている必要があります。「整容と機能」の両面をクローズアップする研究会にしたいと思っています。

 注目の話題は、ここ数年で広がりを見せている人工神経です。手の治療には患者さん自身の神経を移植して使用するわけですが、代わりに採取した部分には麻痺(まひ)が生じます。それをカバーする上で人工神経がどのように貢献しているのか、最新の情報を発信します。ハンドセラピストやリハビリの先生たちにも、ぜひ聴講していただけたらと思っています。

―今後力を入れていくことは。

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 形成外科に対する理解は、まだまだ不足しているのではないかと感じています。繊細な手の外科や難治性潰瘍など治りにくい傷の治療を担っていることなど、私たちが何を得意としている診療科なのか、医療に携わるさまざまな職種や行政、地域の方に伝えていくことが必要です。

 専門医の19の基本領域に形成外科は含まれています。患者さんが医師を頼り、最初にノックする扉の一つです。だからこそ私たちは期待に応えられる存在でありたいと思います。

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座 形成再建外科学
長崎市坂本1-7-1
TEL:095-819-7200(代表)
http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/plastics/


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