福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科 柳瀬 敏彦 教授

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多面的な視点を持つ糖尿病診療を

【やなせ・としひこ】 福岡県立修猷館高校卒業 1980 九州大学医学部卒業 同第3内科入局 1987 米テキサス大学(ダラス校)生化学留学 1991 九州大学医学部准教授2009 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科教授 2012 厚生労働省「副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班」主任研究者

 国内の糖尿病の患者数は316万人(2015年度)。糖尿病有病者とその予備群は合計で2000万人とも言われる。

 柳瀬敏彦教授に福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科の取り組みについて聞いた。

◎拡大する疾患糖尿病合併症

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 糖尿病によって高血糖が続くと細小血管が障害されます。そのため、細小血管によって栄養を補給されている末梢(まっしょう)神経や細小血管が張り巡らされている網膜や腎臓などの組織に異常が現れます。

 一方、大血管にも障害が及ぶと、動脈硬化症としての虚血性心臓病、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症などを起こします。

 これらが糖尿病合併症と呼ばれ、初期には症状がないため、気付いた時には進行している恐れがあります。早めの治療と、血糖コントロールが重要になります。

 「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病性神経症」の古典的三大合併症以外にも、近年、糖尿病がベースになって起こっていると考えられる病態や疾患の幅が広がっています。

 認知症、骨粗鬆(しょう)症、そしてがんなどです。当科では、野見山崇准教授を中心に糖尿病とがんの関係についても活発に研究を行っています。糖尿病はまさに「万病のもと」と言えるのかもしれません。

 2018年10月には「第56回日本糖尿病学会九州地方会」を福岡市で開催。私は学会長を務めます。全体テーマは、「ストップ合併症」。糖尿病の合併症について、包括的な視点でとらえ、糖尿病による合併症の拡大を抑えたいと考え、このテーマに決めました。

◎強みは多面的な診療

 糖尿病診療では複眼的な視点が重要です。糖尿病には1型、2型以外にホルモンの減少などが原因で発症する「二次性糖尿病」も少なくありません。例えば、前立腺がん治療でよく行われる男性ホルモン低下療法にともなって糖尿病が悪化する場合があります。

 糖尿病というと食事、運動などの生活習慣ばかりが強調されますが、患者さんの病歴を丁寧に聞くことがポイントとなります。特に通常の糖尿病治療ではなかなか血糖コントロールが改善しない治療抵抗性の病態に遭遇したら、ホルモン異常症や薬剤など、二次的な背景が潜んでいないかを考えることが重要です。当科は内分泌の分野も専門に扱っているので、ホルモンという視点からも糖尿病を診ることを心がけています。

 また、当科の特徴の一つとしてフットケア診療にも力を入れています。 糖尿病の専門医がフットケアを実施している病院は福岡県内でもあまり多くはありません。しかし、糖尿病による足の切断を避けるためにも、われわれ専門医が早期に足の異変を発見したり、予防のために足への感染対策をしたりすることは大事です。

 当院のフットケアの場合は形成外科、皮膚科、整形外科、循環器内科などとチームで診断や治療を進めているのも特徴です。重症度を診ながらどのようなレベルまで検査をやり、診療をやるべきかをチーム全体で決めています。

 糖尿病という病気を画一的でなく、もっと広く診ていく。そのような視点とスキルを持つ医師を育てるのも、私の役割の一つだと考えています。

◎膵島移植の認定施設

 本学の再生・移植医学講座では、2013年までは安波洋一教授、2014年からは小玉正太教授が中心となって膵島移植を進めています。高度医療制度下の臨床試験実施可能施設として認められている国内6カ所の中の一つで、九州・中国・四国エリアをカバーすることになっています。

 膵島移植は、膵臓からインスリンの分泌がなくなってしまった「1型糖尿病(インスリン依存糖尿病)」に対する治療法でインスリンを産生するβ細胞の移植を目的としています。

 膵島を取り出して、肝臓内の血管である門脈に注入。細胞移植のため、膵臓移植と比較すると簡単で、開腹しないので侵襲も少ないのが特徴です。移植によって血糖コントロールの安定が得られますが、必ずしもインスリン離脱にまでは至っていないのが現状です。

 仮に、細胞を提供するドナーがみつかってもいくつかの適応基準を満たさねばなりません。また、適応できても膵島細胞の数が十分にあるか、細胞自体が生きているかなどクリアすべき項目もあり、なかなか移植には至っていません。これまで、認定施設として実施できたのは2017年12月までに2人に対して計3回のみです。

◎間葉系幹細胞を活用する研究に注力

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 当科は、再生・移植医学講座と、同講座前教授で今は本学総合医学研究センター教授の安波先生との共同研究で「間葉系幹細胞」の研究にも力を入れています。これは人の脂肪などさまざまな組織から比較的容易に採取できる特徴があり、再生医療への応用が期待されています。

 動物研究ではありますが、膵島細胞の移植の際に、間葉系幹細胞を同時に移植することで、移植膵島細胞のインスリン分泌能が増強することを明らかにしています。

 ドナーから採取できる細胞の数は限られていますが、これに間葉系幹細胞を同時に移植することで、少ない数でも移植の効果が得られる可能性があります。

 一方で、間葉系幹細胞はそれ自身がさまざまな細胞への分化能を示し、多能性幹細胞として多くの可能性を秘めています。ある臓器や細胞の機能が低下しても、間葉系幹細胞を培養し、目的の細胞に分化、移植させることで機能を代用できる可能性を持っています。

 当科では、間葉系幹細胞から種々のステロイドホルモンを産生する細胞を再生させることにも成功しています。今後は、副腎、卵巣、精巣の機能に障害がある患者さんに細胞を移植することによって、治療につなげたいと研究を続けています。

福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科
福岡市城南区七隈7-45-1
TEL:092-801-1011(代表)
http://www.med.fukuoka-u.ac.jp/interna5/


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